1984/9/27 「ネロ・ウルフ最後の事件」
これはスタウトの遺作だけれど、彼の逝去によって結果的にそうなったものではなく、明らかにこれで最後ということを意識して書かれたものと感じる。いつも 通りのユーモア感のある文章は、姿を消してこそいないけれど、巻頭からタッチはシリアスで、アーチーの一人称はいつもよりもずっと私立探偵小説に似通って いる。そして次々に登場するレギュラー。リリー・ローワンがこれだけ頻繁に登場する作品を、ちょっと他に知らないような気がする。リリーとアーチーが恋人 の関係にあることが、これほどあからさまに示されることもなかったような。
ナサニエル・パーカーもロン・コーエンも姿を見せるし、亡きマルコ・ヴュクシックのものだったラスターマン料理店も重要なファクターとなっている。クレイ マー、ステビンズ、ロウクリフのトリオも揃って現れる。そしてソールたち。
こうした背景の中で、ウルフは何故か、いつになく頑なで、アーチ−との溝が、これまでにないほど拡がったりもする。そして事件の真相はアーチーとソールの 会話で明らかになる。
すべてが落着した後、ウルフはこう言う「われわれも少し眠ることにしよう」。明らかにこれはスタウトの訣別の辞。
シリーズ物のミステリの特性を生かしきったまさに遺作の名にふさわしい、驚異的な作品。