1990.5.1
「THE BLACK MOUNTAIN」 レックス・スタウト BANTAM BOOKS
予想していたほどひどくない。あんまり調子が良すぎる気はするけど。
イタリアのバリからアドリア海を渡って、アルバニアとユーゴスラヴィア国境へウルフとアーチ−が潜入するのだけど、何のチェックにも合わずにまんまと成功するし、チトーグラードで官憲につかまっても、舌先三寸で切り抜けてしまう。
ウルフが上手いというより、相手が間抜けとしか見えない。
マルコを殺した犯人をウルフは法の裁きを受けさせるために、ニューヨークへ連れて行くと主張する。おとぎばなしならでは、という感じ。主張自体は、立派なもので、私的に処刑してしまったら、それはヒトラーやチトーやマッカーシーと同じなのだというわけ。でもあの状況で、そういうことを言ってしまうというところが、いかにも甘いという印象を拭えない。
シビアな冒険小説ではなく、ファンタスティックなミステリなのだとしても、そもそもストーリー自体が、シビアな国際情勢を土台にしている以上、やはりまずいのではないのか。
とはいうものの、予想していたヒステリックで一面的な反共小説ではなかった。
ソヴィエトとユーゴの離反というものもあり、共産主義国家といっても、ひとくくりにとらえ切れるものではないという認識は持っていたのだろうし、それこそマッカーシーを同列に持ってくるあたり、スタウトの意識は、「反共」そのものというより、自由を抑圧するものへの怒りにある、という気がする。そして、アメリカの精神を、自分の信条の拠り所としていたのが、ヴェトナム戦争やウォーターゲート事件などで、その幻想が崩れていく中で、「ネロ・ウルフ対FBI」や
「A Right to Die」のような作品を書いたと考えれば、一見、逆の立場にあるとも見える、リベラルな後年の作品と本書は、同じ立場に立っていると言えるのかも知れない。