1994.10.10
「三つの迷宮」 パコ・イグナシオ・タイボ二世 ハヤカワポケミス
同時に依頼された一見何のつながりもない三つの事件を、主人公の私立探偵がとりとめもなく追って行くというストーリー。ほんとに、とりとめがなくて、そういえば、あんまり読んではいないけれど、スペインやフランスの私立探偵小説ってのも、いつもそんな感じ。これはメキシコの小説だけれど、その辺はやっぱりラテン的な感性なのか?
でも、とりとめがない中に、メキシコの空気は確実に伝わってくる感じがする。僕にとってのメキシコというのは、超近代的な雰囲気を感じさせたかと思うと、一方で前近代性そのもののような顔も見せる、つかみどころがなくて非現実的な国、というイメージだが、そういう曖昧なイメージを曖昧なまま見せながら、けれども人々の生活する現実の世界であることを感じさせてくれる小説だったように思う。生活感がある、とでも言うか。やはりこれは、自身がメキシコ人だからこそ表現できる味なんだろう。(もっとも、元々はスペイン人らしいけど。それなら、なおさらスペインの小説に似ている理由が判る)
まあ、そうした二面性こそが、著者がこの本で描こうとしたものそのものではないかという節もあるわけで、主人公の私立探偵は、繰り返し、メキシコシティーに対する愛憎半ばする感情を語ってみせる。探偵自身、郷土的なものと、近代的なものとに引き裂かれた二面性を持っており、このキャラクターが、なにより魅力的。
あと、政治的な色彩があるあたりも、特徴的な気がした。原著が刊行された時期(明記されていない。1990年というのは英語版の刊行年で元版はメキシコで出たスペイン語版)の関係もあるのかもしれないけれど、こういうのは英米の小説にはあんまりない。中米の状況というのを、考えさせられたりする。
多様な要素がとりとめなく、ごちゃごちゃと詰め込まれたような雰囲気に、親しみを感じた。乱雑さが楽しい小説だった。