1995.3.27
「顔を返せ」 カール・ハイアセン 角川文庫
のっけから、漂着死体を前に記念写真を撮るカップルが登場して、トバしてんなあ、と思う。とにかく、そこらじゅう、こうしたとぼけたような乾いたブラック・ユーモアで彩られていて、笑い転げ、まではしないにしても、電車の中で危うく吹いてしまいかけたりして…何度も…。
実はそのユーモアの影にあるのは、かなり陰鬱な現状認識だったりするわけで、あまりにも世の中やりきれないんで、笑い飛ばすしかねーよな、というような、醒めた視点を感じる。そこもまたいいんだ。登場人物が繰り広げるどたばた騒ぎを、醒めた視点から見つめつつ、でも、決して見下したような角度ではないので、イヤミはない。まあ、主人公同様(というか、主人公がそうだからなのか)世捨て人のような、冷静な第三者の視点の訳で。
でも、この主人公は完全な世捨て人ではなくて、理不尽な物事に対して、時として激烈な反応をしてしまう。そんでもって、主人公のそうしたスタンスも、この作品の魅力。事件のきっかけとなった失踪した女子大生を、彼が折りに触れて思い出すシーンでは、屈折の奥に隠された彼のナイーブな内面が浮かび上がっていて、とてもいい。
それにしても、この作家、身体が損壊した悪役が好きだねえ。