1999.9.23 
「この町の誰かが」 ヒラリー・ウォー 創元推理文庫
警察小説というイメージがあった作家だが、本書はそうではなく、ドキュメンタリー風なスタイルで、郊外の街で起きた殺人事件と、それによって引き起こされる共同体の崩壊を描いたもの。何もかもが平穏に見える中流階級の街も、偽善的な皮をめくれば、こんなにも醜悪なものを隠しているという、やや露悪的だが、社会派的なメッセージが込められているとも見える作品。
ただ、それだけではないミステリ的な趣向も盛り込まれているあたりが、クセモノ。ウォーが、自分のアイデンティティをミステリ作家として規定している表れなのかも?
善良に見えた市民が豹変していく姿は、容易にエラリー・クイーンの中期の作品群を思い出させるが、本書は1990年の作品なので、クイーンの諸作から40年くらい後。こうした問題の普遍性を考えるべきか、ちょっと、古めかしいのではと考えるべきか。
実際、描かれる街の雰囲気を含め、これが1990年?という気はしないでもないのだけど(原著刊行年を確かめて驚いたくらい)。アメリカの郊外って、今もこんな所なんだろうか。