2007年夏 名古屋全国集会  基 調 報 告



       基 調 報 告


                                          
2007年7月29日
                                                     
共同代表 上杉 聰


日韓両政府の合意のもとで、遺骨調査が2005年6月に日本政府によって開始されてから、この6月で丸2年をむかえました。
厚生労働省の発表によると、すでに1720体の遺骨情報が寄せられ、さらにこの5月末に、全日本仏教会から第1次集約(内容は未公表)が政府へ届けられたため、その数は総数で2000体を超えることが予想されます。

仏教会は、中心的な3教団である曹洞宗と東・西本願寺の調査がやま場にさしかかっていることから、ここに政府が、また日本社会全体がどう協力するかが、遺骨返還を意義深いものとできるか否かの瀬戸際に立っているように思います。

曹洞宗は、これまで1年半以上のあいだ調査を重ねてきました、末寺2648カ寺にダイレクトメールを送り、寄せられた情報を検証し、さらに返還に向け、身元情報を求めて調査を周辺へと拡大し、5月22日〜23日と飛騨神岡・高山地区で第1回の本調査を実施しました。これは、今後も他地区へと展開される予定です。

また東本願寺(真宗大谷派)は、この1年間、九州に限定した調査を行ってきましたが、その経験をもとに、5月末から全国調査の準備に入っています。西本願寺(浄土真宗本願寺派)も、昨年末から調査を開始してきた成果が出始めています。

まず、日本政府の責任のもとで今後最終的に発見・返還される遺骨数を、私たちとして、どの程度の目標に設定するか、という問題があります。韓国政府周辺からの非公式情報によると、5000体を下回ることは容認できないといわれています。
たしかに、これまで「民団」の手によって返還された遺骨数が2200余体に及ぶことを考えれば、日本政府の達成数がそれを下回ることは考えられず、いっそうの努力が要請されているところです。

また、すでに発見されている遺骨の多くは、昨年から実施している日韓両政府による4度の合同実地調査や寄せられた情報からみると、かなりの割合が戦後直後に死亡した遺骨であること、また一般渡航者やその家族の遺骨が多く含まれていることが判明しています。むしろ被徴用者の遺骨の相当数は、戦中や戦後直後の帰国事業の中で、企業や友人、身よりの手によって返還されたケースがかなりの割合を占めていることが明らかになりつつあります。

こうしたなかで徴用者の遺骨返還を、今後もれなく実施するには、やはり政府自らが持っている死亡情報を開示し、そのうちどの程度の遺骨が返還され、また国内に残存しているかを、企業や韓国政府の協力(遺族からの情報収集)も得て精密に調査することが必要となっています。日本政府は、今回の調査の開始当初から、政府自らの責任を不問にし、死亡に関する政府資料の開示さえ怠ってきました。自らの責任感が欠けているため企業や自治体、宗教界への要請もきわめて弱いものとなってきました。当初から指摘されてきたこれらの改善が、これからも第一の課題でありつづけます。

さらにもう一つの課題は、日本政府が企業だけでなく地方公共団体、さらには民間の協力などを積極的に活用しようとしていないことです。たとえば、政府は埋火葬認許証(死因や遺骨の保管場所、本籍地などが記されている)を再調査するよう、昨年初頭、地方公共団体に対して行いましたが、一片の通知によって実施されることは困難な作業であり、多くの自治体が要請を放置してきました。
これでは、すでに発見されている遺骨の親族さえ特定できず、返還が宙に浮く危険性さえあります。

この点について注意を喚起し、自治体への働きかけを行って関心を高め、同資料の開示を推進してきたのは、ほかならぬ市民団体や宗教界でした。つまり、「個人情報の保護に関する法律」は、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難」な場合は開示することができ(16条)、もともと同法は「生存する個人に関する情報」(2条)を保護するものであるにもかかわらず、それが過剰に拡大解釈されている現状を指摘してきました。

そして曹洞宗を中心とする飛騨市での埋火葬認許証の探索努力は、波及効果として戸籍受付帳の大量の発見へとつながるという大きな効果を生み、このたび死亡者77人の大半の本籍地が判明する運びとなりました。戸籍受付帳の保存年限は50年以上と長く、もしこの情報が政府の手によってきちんと収集整理されるならば、朝鮮人労働者の死亡情報が相当明らかになる展望が開けて参りました。

また、死亡した人々の日本での労働現場を確認する資料に、厚生年金の加入記録があります。現在問題になっている年金データの不整合問題により明らかになった「電算化されていない旧台帳の千四百三十万件分」の中には、連行された朝鮮人の年金記録が含まれていることが推定されます。政府は、遺骨となった労働者の日本での足跡を調査する資料としても、これらを早急に電算化し、韓国側のご遺族をはじめ日本の関連企業、仏教界、また調査に携わってきた関係者に提供することが必要です。

このように日本政府は、自ら持つ資料を全面的に整理・提供し、そこに民間の努力と成果を招き入れ、協力して遺骨関連情報の収集に努め、人々と共に地域から遺骨を返還しようとする方向性をもたない限り、遺骨の返還に向けた作業はすすまないのみか、これを幅広い日韓・日朝友好のきっかけとすることもできません。より多くの人々がこの事業に関わることによって、むしろそのパイプは太くなるのです。この事業が本来もつそうした意義を改めて政府は確認し、遺骨の帰りを今も待ち続けている遺族のもとへ、一日も早くお返しする事業を急ぐべきです。

遺骨問題が戦後60年以上も放置されてきたのは、日韓両政府が、戦後一度として本格的に朝鮮植民地支配の清算を実行しようとしてこなかったことが原因ですし、その象徴です(これについては、近く刊行される岩波ブックレット『遺骨の戦後』を参照してください)。今年の「韓国・朝鮮の遺族とともに−遺骨問題の解決へ」の夏期企画は、そうした課題を鮮明にさせつつ、地域から遺骨返還を行おうとする試みの一つです。ぜひとも、やま場を迎えた遺骨問題の新たな展開のはずみとしていただきたいと思いますし、ひいてはこの遺骨返還運動を、本格的な朝鮮植民地支配の清算への入り口にしたいと思います