浅田次郎著『霧笛荘夜話』
 (角川書店、 平成16年11月刊)
 四六判、291ページ、¥1500+税
 浅田次郎は、私の好きな作家である。『蒼穹の昴』に感激して以来、これまで『鉄道員(ぽっぽや)』、『地下鉄(メトロ)に乗って』、『シェエラザ−ド』、『日輪の遺産』、『きんぴか』、『壬生義士伝』などを読んできた。歴史ロマン、人情物語、破天荒な冒険ものなどがあり、いずれも彼の世界にひき込まれてしまった。

 今回出された『霧笛荘夜話』は、『鉄道員(ぽっぽや)』や『地下鉄(メトロ)に乗って』の系統に属する人情物語。

 運河のほとりの古アパート「霧笛荘」の六つの部屋に住人たちについての短編連作の物語である。死に場所を求めて辿り着いた女性の住む「港の見える部屋」、良家育ちで訳ありげの美人の住む「鏡のある部屋」、頭は弱いが気のいいヤクザの住む「朝日のあたる部屋」、歌手を目指しギターを抱えて家出してきた若者の住む「瑠璃色の部屋」、………と六人の住人の人生が語られるが、最後の七番目の部屋は、これまで各部屋を案内した老婆が住む「ぬくもりの部屋」であり、物語はそこで完結する。

 それぞれ不器用だが人生の真実を求めていく、悲しくも心優しい物語である。語りの上手さにひき込まれ、それぞれの人生をなぞることとなる。

 しかし、物語には少しムリな展開も散見される。幸福を絵に書いたような人生の絶頂にいる若い女性が、ある日突然家族も名前も捨てて運河のほとりに建つ安アパートに自分の居場所を求めるだろうか。それに、あまりにも悲しい人生に「毒」のようなものを少しだが感じさせるところもある。

 それでも、それらは小説のもっている「虚実の皮膜」の面白さであろう。しばしのひと時、老婆の案内に従って七つの部屋を逍遥するのも、悪くはない。

                       (04/12/5)



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