青葉繁著『ドクター・キック』
  (三五館、平成17年3月刊)
  四六版、269ページ、¥1500+税
 人は何かのキッカケで、これほど変身を遂げられるものだろうか。

 何事も中途半端で成績も悪かった高校生が、交通事故をキッカケに、突如猛勉強し医師になるとともに、プロのキックボクシングにも挑戦し日本チャンピオンになる。彼の本名は鈴木宏、リング名は青葉繁、後にHIROSHI。

 著者は、明日への一歩を踏み出せない人、とくに中高生への激励のメッセージとして書き綴ったとしている。

 本書は、5ラウンドの対戦シーンになぞらえた構成となっている。

 第1ラウンドは、劣等生が医学部に合格するまで奮闘記。麻雀に明け暮れし、成績も学年470人中460番台であった高校生が、3年生の夏に交通事故に会い、九死に一生をえたことから「命」というものを考え、人生が変わる。「医師になりたい」と、半年間必死に猛勉強をし、10番以内の成績を収め、現役で福島大学医学部に合格する。

 第2ラウンドは、キックボクシングジムへの入門記。彼は、子供の頃は何事も中途半端で長続きせず、運動音痴で、イジメられっ子だった。このため、強い者に対する憧れを抱いていた。大学2年になる春休みに、意を決し、タイガーマスクに会いに横浜に行き、昼間は建設現場でバイトをし、夜はジムで格闘技に励む。その充実感が忘れられず、大学4年の時、仙台のキックボクシングのジムに入門し、毎日授業後ジムに通う。

 第3ラウンドは、医師とキックボクサーの両立へのチャレンジ。毎日の訓練で次第に力をつけ、ジム入門後8ヵ月目にしてプロとしてのデビュー戦を飾る。その後、医師の国家試験を2週間後に控え、研修医としてもっとも厳しい時に、プロの選手として生き残るための重要な対戦を迎える。迷うが、「やれるだけのことはやる」と頑張り、両方をやり遂げる。

 本書は、その後、「ダウン」、「第4ラウンド」、「第5ラウンド」、「試合後の控え室」、「トレーニング再開」と続く。

 一時病院を休職しタイで訓練を積み、チャンピオンに対戦する。そして、97年7月NJKFウェルター級チャンピオンとなる。その後、彼は椎間板ヘルニア、アキレス腱断裂、連敗………に苦しみながらも、昨年(04年)8月の引退試合まで11年間、医師(麻酔科医)とキックボクサーという夢と現実を両立させる。

 猛勉強や、タイでの訓練、12キロの減量、そしてリング上の戦いなどは、体験者でしか語れない迫力がある。

 しかし、本書は、中高生向けを意識したために振り仮名が多用されており、著者の人生と裏腹に、文章自体が若干平板となっている。とくに交通事故で入院したことが人生を一変させ、「今を大切に生きる」という死生観を持つに至ったというが、その心境の変化をもう少し詳しく語って欲しかった。

 著者は、新たに精神科医と文筆家にチャレンジしている。著者の今後の健闘を期待したい。

 〔本書の中から〕

○ 「死んだらどうなるんだろう?」
   ズキズキ痛む腫れあがった頭で、毎日考えるようになった。でも、どんなに
  考えても、死んだあとのことはわからなかった。代わりにある気持ちが芽生え
  た。
   「生きている今を大切にしなくてはならない」
   このとき神様に教えられた。

○  生涯戦績 35戦9勝(8KO)20敗6分け。
   これだけ負けても、戦い続けた選手はいないだろう。
   椎間板ヘルニア、アキレス腱断裂、大きなケガもあった。戦績を見れば、大
  した選手じゃなかったかもしれない。
   でも、「挑戦すること」「あきらめないこと」、そして「最後までやり遂げ
  ること」。
   それだけはできたと胸を張れる。


                             (05/6/11)



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