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| 重松清著『その日のまえに』 (文藝春秋、平成17年8月刊) 四六判、292ページ、¥1429+税 |
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| 本書の帯には、「涙!!! 涙!!! 涙!!!今年読んだ最も感動的な小説だ。ぼくはベスト1に決めました!」という松田哲夫氏(筑摩書房専務)の推薦の言葉が載っており、本書は「泣ける」本として現在ベストセラーとなっている。 内容は、「その日」を迎えて逝く人と送る側との間で展開される出来事と心の動きを丁寧に描いた7つの短編集である。短編集といっても、後半の3編は、話がつながっており、また、前半の短編にバラバラに登場する人物が後半にも登場するので、連作短編集である。 第一話「ひこうき雲」は、主人公が妻と子供と一緒に、介護施設に入所している義母を見舞いに行く道すがら、小学時代の出来事を思い出すところから始まる。彼は、小学6年の時、クラス全員の寄せ書きをもって、担任の先生、級友とともに、入院しているクラスで嫌われ者だった女の子を見舞いに行った。その時級友と一緒になって子供心に無邪気に振舞ったことが、その女の子の死とともに、今苦い思い出としてよみがえってくる。高齢でアルツハイマーとなった義母の生きている姿と、女の子の早い死とが、彼の心の中で交錯する。 第二話「朝日のあたる家」は、中年の女性教師と二人の教え子との交流を描いた話。女性教師は、8年前に突然夫を失い、中学生の娘と二人暮しをしている。夫の死は、いつもあったものがある日突然なくなったようであり、あっけない出来事だった。その後、娘と平凡な生活を送っている。そんなある日、30年ぶりに男女の教え子に会うが、女の教え子は病的に万引きをし、男の教え子は見つからないようにその後始末をし、それを繰り返している。二人は、それがそのまま続くとは思ってはいないが、終らせたくなく引きずっている。女性教師は男の教え子に、そんな「幸せ」などあっけなく終わるので、自分の責任で決断するように促す。 第三話「潮騒」は、余命がないことを知った男が、小学校時代を過ごした海岸にある街を訪れ、昔の同級生に再会する話。 第四話「ヒア・カムズ・ザ・サン」は、母親が医師から癌の宣告を受けるが、それを直接一人息子に言えず、ストリート・ミュージッシャンを巻き込む話。 第五話「その日のまえに」、第六話「その日」、第七話「その日のあとで」は、40代のイラストレイターが20年連れ添った妻を失う話。妻の病気が判明した後、二人は新婚当時住んでいたアパートを訪ねる。姿を変えた街を歩きながら思い出を辿る。妻の亡くなった後、短い遺書が看護師を通して夫に届けられる。 七つの話を通して、死を迎える側と送る側の間で繰り広げられる出来事が丁寧に描かれている。本書が「泣ける」本として感動を呼ぶのは、誰もが持っている身近な体験を、ここに出てくる出来事に重ね合わせ、時には苦く、時には哀しく想起させ、琴線にふれるからであろうか。 しかし、本書は、「その日」をあまりにも美しく整然と、しかも軽く描いているきらいがある。ここに登場する逝く者すべては「その日」を淡々と受け入れ、送る側も何の迷いがない。「その日」に対するリアリティーに欠け、深刻さや重さがないように感じられた。 もっとも、「その日」をあまりにリアルに深刻に描けば、重い本となってしまい、誰もが読んで「泣ける」本としてベストセラーにはなりえなかったかも知れないが………。 ただ、私には、読んでいて何か物足りなさを感じずにはいられなかった。 (05/10/10) |
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