足立則夫著『遅咲きのひと
 (日本経済新聞社、平成17年9月刊)
 四六判、329ページ、\1500+税
 本書は、人生の後半になって輝いた51人を取り上げ、それぞれの「人生の第四コーナー」にスポットをあてて、短く(イラスト入れて5ページ程度に)読みやすくまとめている。著者は日経新聞社編集委員。

 私のような60歳台になった者にとっても、これから「一花咲く」こともあるような期待を抱かせる本である。いつも手許に置いて、疲れた時などに新聞や雑誌を見るようにパラパラとページをめくるのに最適である。

 「まえがき」に本書を出すことになった経緯が書かれている。日本経済新聞社では、団塊世代が定年を迎え日経新聞の購読をやめる人が増えることが心配されるが、それを防ぐにはどうすればいいかという「2007年問題」が浮上していた。その対策の一環として、2004年4月から日曜日朝刊に、団塊世代が関心を持ちそうな「年金」、「健康・医療」、「セカンド・ステージ」などの紙面を設けることした。その「セカンド・ステージ」の一つとして団塊世代を勇気づける連載記事として「遅咲きの人」が登場した。この連載記事は、月ごとに「不老の心」、「充電」、「回り道」などのテーマを設け、週に一人ずつ取り上げた。最初が江戸時代の俳人蕪村で、最終回が74歳で『字統』を著した国字学者白川静まで、あわせて51人である。これを一冊にまとめたのが本書である。

 51人の中には、小・中学生向けの偉人伝に出てくるようなシュバイツァー、シュリーマン、ファーブル、伊能忠敬などの他、現在も現役で活躍している日野原重明、林文子(ダイエー会長)、小柴昌俊なども登場する。

 全生涯にわたる教科書的な伝記でなく、「人生の第四コーナー」にスポットをあてており、最近の研究成果も紹介している。例えば、シュリーマンは子ども時代に燃え上がるトロイの町を絵本で見たのをきっかけに、トロイ発掘の夢を持ち続け、50歳を過ぎて遺跡を発掘したことで知られているが、これに疑問を投げる最近の説を紹介している。彼には虚言癖があり、「8歳からの夢はまったくの作り話。トロイの遺跡論争を知ったのは44歳だった」と指弾したうえで、自分を終始「成金」だと侮蔑する妻カテリーナから尊敬をえるため、当時知識人の間で脚光を浴びていた考古学に首を突っ込み、潤沢な資金を使って発掘に乗り出したとしている。

 安倍清明は、最近の小説や映画では超能力で難問を次々と解決するかっこいい陰陽師となるが、実際は40歳をすぎてから陰陽寮の天文得業生(今風に言えば気象庁の職員)にとりたてられ、陰陽五行の研究に励み次第に朝廷から信頼をえていった研究者タイプの陰陽師であったとしている。

 「人生はこれから」と夢を描きたい人に与える話も多く紹介されている。平凡な農婦であったグランマ・モーゼスは、70歳を過ぎてから孫のため使い古した刷毛とペンキで風景画を描いた。75歳の時、たまたまその絵が美術収集家の目にとまりニューヨークに出品することになる。これをきっかけに80歳で田園地帯を描くフォークアーティストとして画壇にデビューし、第一人者としてまつりあげられ、101歳で亡くなるまで1600点余の作品を描き、世界的に知られる画家となった。

 共通しているのは、若い時から蓄えた力を「人生の第四コーナー」でいかに輝かせたかである。著者は、遅咲きの生き方をしようとするにあたって、次の五つの心得をあげている。

  1.伴侶や近隣とのコミュニケーションを図る
  2.目標をもつ
  3.みずみずしい心を失わない
  4.足腰を鍛える
  5.経済基盤を整える

 いずれも耳に痛い「心得」である。

                            (06/7/31)



             「私の読書ノート」目次へ戻る
                  TOPページへ戻る