3階天井の工事が始まった。
野地板の裏に断熱材ネオマフォーム66ミリを取り付けていく。
クリーム色の体にピンクの唐衣をまとったかわいいやつ。
断熱材集団の中で最後の登場となった。
いよいよ真打のご登場。
66ミリは厚い。
66ミリは頼もしい。
思わず頼むぞと肩を叩きたくなる。
壁の外断熱に使用した20ミリに比べて3倍以上の厚さ。
こいつに住み心地はかかっている。
しっかり熱を遮断してくれー。
3階がサウナになるか、涼しい部屋になるかはコレ次第。
建築士には過剰品質ではないかとも言われた。
でもいいんだ。
誰が評価してくれなくてもいい。
小生が評価する。
こいつは真っ暗な屋根の中で、黙々と熱を防いでくれるに違いない。
この後は家を壊すまでもう見る事はない。
見えない所で頑張るんだぞーとつぶやいた。
人目につかない所に金をかける。
最高の贅沢だ。
断熱材に続いて天井板が貼られていく。
天井は秋田杉の赤身。
桧とはまた違い、赤身の色艶がいい。
節が一杯あるのも無垢材の証拠。
子どもの頃、風邪など引いて寝込んだ時に、天井の節を数える事が良くあった。
何回数えても数が合わなかったりした。
この天井も数え切れないほど節がある。
病気の時の暇つぶしにはちょうど良い。
小生は気に入っている。
しかし棟梁の顔色は優れない。
どうしたのだろうか。
話しを聞いてみた。
鉋をかけないのが不満だとのこと。
材料は最初から「うづくり」仕上げになって入ってきている。
本当は手で一枚一枚鉋をかけた方がもっと色艶が良くなるのだという。
いい材料を最高の状態に仕上げられない事が棟梁のプライドに触っているようだ。
効率ばかりを求める昨今、こんなふうに考える棟梁に当たった事がうれしい。
これからも頼みます。
外壁のサイディング貼りも始まった。
このサイディングは悩みの種だった。
費用対効果からみてサイディングで十分と思っていたのだが、横槍が入る。
レンガの方が見栄えがいいとか、へーベルの方が丈夫だとか。
他人様は勝手な事を言う。
金は出さないが口だけは出す。
鴨だって葱をしょって来るのだから、少しは見習えーと言いたい。
家族で色や柄の相談をする。
皆の好みが全く違う。
母:埃が目立ちにくく、落ち着いた色がいい。
妻:明るい色がいい。
子:絵が描いてある方がいい。
十人十色とは言うものの、これには参った。
家長の威厳で決めようかとも思ったが、この手の事は苦手なのだ。
分厚いカタログを何冊も見ていると頭が痛くなってくる。
最初にカタログを預けられたのが昨年の7月。
意見がまとまらないまま、早7ヶ月。
まだ決まらない。
苦悩は続いている。
カタログの厚みが重圧としてのしかかる。
どのようにして諸先輩方は決めたのだろうか?
世間の人の感覚と我が家の感覚はだいぶ違うらしい。
そしてまた設計事務所でも注意される。
「カタログと見本では色が違います。
また、実際に貼って大きな面積になると感じが違います。」
そんな事言われたってどうしたらいいんだい。
何を基準にすればいいの?
どうも小生には想像力が欠けているようだ。
家族の意見もまとめる事ができないし、家長失格。
そうは言ってももう2月。
発注しなければ間に合わない。
どうにも行きづまってしまったので、奥の手を出す事にした。
柄だけ独断で決めて、色は設計事務所の高橋さんに任せた。
これで責任から逃れられる。
後で家族から非難されても高橋さんの所為。
「皆の者、高橋先生様が選んだのだから文句を言うでない!」
と一括して、後は知らぬ勘平を決め込めば良い。
知らぬ存ぜぬで押し通してしまおう。
設計事務所って便利。
2階と3階のバルコニーの防水工事はFRP。
極々一般的。
FRPは会社でも使っているので良く知っている。
二日掛かりで工事をしている。
臭い!
ただただ臭い。
近所の皆さん、ゴメンナサイ。
前に家には受験生のお兄ちゃんがいる。
臭くて勉強に集中できなかったと言われたらどうしようか。
ただでさえ音で迷惑をかけているのに。
受験の合否は我が家の工事にかかっているかも。
色が決められない小生の特性を理解してか、今回設計事務所からは何も言ってこなかった。
ごく普通のグレー。
内心はビクビクしていた。
色について聞かれたら、また一週間ぐらい悩んでしまったかもしれない。
分厚い色見本など渡されたら陰気になってしまう。
挙げ句の果てに「レインボーカラーにしてくれ」などと叫んでしまったかもしれない。
とりあえず良かった。
後1週間もすれば匂わなくなるだろう。
茶の間(和室)の天井も貼られた。
節無しの秋田杉。
木目の模様が美しい。
一枚一枚木目が違うのも本物らしくていい。
突き板の天井だと同じ模様になってしまう。
同じ模様は金太郎飴だけでいい。
天井には見切りの枠(框?縁?)もついた。
この枠がいい。
なんとなく上品。
品格が一段上がったように思う。
この茶の間は隣接のダイニングより1尺ばかり高くなっている。
小生の夢は板貼りのダイニングに家族の者を座らせ、一段高い茶の間より見下ろすこと。
「皆の者、苦るしゅうない、面を上げい。」
と、言ってみたい。
こんな小ちゃな夢なのに実現できないんだろうなぁ。
何時の間にか建具がついている。
今まで空洞だった所に引戸がついた。
玄関と勝手口以外にドアはない。
全て引戸。
框付きの無垢材。
引戸はあいまいなところがいい。
中途半端に開けておけるのがいい。
ドアだとこうはいかない。
開けるか閉めるか、二つに一つ。
常に選択を迫られる。
開いて攻めるか、閉じて守るか。
「all or nothing」の世界。
小生の好きなのは「一か八か」の世界。
残りの「2」はあいまい、グレーゾーン。
きっちり決着を付けない。
引戸も同じ。
開いてるような閉じてるようなグレーゾーン。
引戸に続いて玄関収納までついてしまった。
つい先日になって母が「玄関に鏡がほしい」と言いだしたのだが、計算通り。
ちゃーんと姿見を付けてあります。
ところで壁はどうするのかなぁ?
まだ塗ってないのに、どうするんだろう?
建具と壁の間に手なんか入らないぞ。
何か裏技でもあるのだろうか?
また色の問題が出てきた。
塗装工事が始まるのだが、色の問題は苦手だ。
室内は自然塗料のオスモを選択、外部はキシラデコールを選択した。
材料選びは小生の得意とする所であり簡単に決まる。
そしたら「何色がいいですか?」ときた。
これには参る。
ともかく自然の木の色が好きなので、クリヤーに近いものほど好みに合う。
サンプル塗料を3色用意してもらった。
現場から持ってきた端材に塗ってみる。
桧、杉、白、赤、源平といろいろな部材でトライ。
廣瀬さんは大変である。
お腹の空いている夕飯時にこの作業をしてもらった。
汗をかきかき何枚も塗ってくれる。
見比べてみるとなるほど違う。
簡単には決められない。
腹は減ってくるし、決断できない自分に腹が立ってくる。
それでも何とか助言を得て決める事ができた。
3色から選ぶのでさえ一苦労。
色に関しては全くだめだ。
<余談>
この日は打合せの後、いっしょに夕飯を食べに行く。
食べるというより飲んでいたという方が正しい。
廣瀬さん、高橋さん、小生と三人とも雪国で暮らした経験がある。
雪の話しや魚釣りの話しなど話題に事欠かない。
飲みながらおしゃべりしている時間は楽しい。
ついつい飲みすぎてしまう。
色が決まった開放感もあり、二日酔いコースになだれ込んでしまった。
相変わらず酒席には弱い小生。
この塗装の話しにはまだ続きあがる。
後日、塗装屋さんが家に来た。
軒天やバルコニーの裏側の色を決めてくれと言う。
サンプルですと言って250色の色見本をおいてった。
見本など置いていってほしくない。
3色から選ぶのさえ、四苦八苦だった小生に決められるわけが無い。
何で250色もあるんだ。
多ければいいという訳ではないだろう。
せめて5色ぐらいにしてほしかった。
色決めを家族に任せようとした。
誰も話しに乗ってこない。
小生の事を無責任だとなじる。
お願いだから決めてくれと懇願する。
するとめいめいが勝手な事を言い出した。
我が家の辞書には「協調性」などと言う言葉はないらしい。
とうとう家族喧嘩にまで発展してしまった。
色が決められないまま今日に至っている。
塗装屋さんからは矢のような催促が来ている。
これ以上待てないという。
一、二日中には決断しなければならない。
「人生で最も貴重な瞬間、それは決断の時である。」
と言った昔の人の言葉が身にしみる。
家を建てる事を決断するより、難しい決断になりそうだ。
決断を誤っては、こじれた家族関係をより複雑にしてしまう。
別居だ、離婚だという事になりかねない。
「私は色で離婚しました。」
なんて仲人さんには言えない。
「艶」なら理解してもらえそうだけど。
困った。
1階のフローリングが貼り終わった。
桧の無垢材24ミリ。
部屋を見渡してみると表情が違う。
南側のデッキに近い方は節が少ない。
中廊下側は節が多い。
無垢材なので全面同じとはいかない。
棟梁に聞いてみた。
他人の目につきやすい所は節の無い物を選んで貼ったとの事。
この心遣いがうれしい。
何にも指示しなくても配慮してくれる。
材料を全部並べて、比較しながら貼るのは大変だったと思う。
無作為に貼っても手間賃は変わらないのに。
ありがたい。
3階の部屋には腰板がついた。
腰板がつくと部屋の雰囲気が変わる。
腰板や胴縁がつくと豪華な感じがする。
ここ何日間かせっせと鉋がけをしていた事を思い出す。
全ての作業はこのためにあったのか。
壁際に作り付けの本棚を付ける予定でいたのだが、悩んでしまう。
腰板や胴縁を隠してしまうのがもったいなくなった。
どうしようか?
工事が進めば進んだで悩みは増える。
建築工事は恐ろしい。
センスの無い者、優柔不断の者には容赦が無い。
家族をまとめられない者は悲惨な目に合う。
この地獄から救ってほしい。
各種の工事屋さんが打合せに来る。
分厚いファイルを持って。
外壁材や軒天の塗装の話しは前述したがこんなものではない。
塗装屋はうるさい。
ここの社長も眠そうな目をしてる。
塗料やシンナー等が目に入らないように半眼なのか?
しかし、輝きは鋭い。
この人こそ青鬼である。
建て主を立てる振りをして虐めてやろうと考えている。
今度は窓枠は何色にしますか?と聞いてきた。
木製バルコニーの色は?
ウッドデッキの色は?
天井の色は?
梁はどうしますか?
次から次へと色の質問攻めにあう。
色の決断ができない小生にとっては拷問を受けているように感じる。
何で家族の意見をまとまられないのか!と、細い目の奥で言っている。
追い討ちをかけるように「早く決めてくれないと工事に入れません」という。
色について得意な人にとってはどうって事ないのだろうが、一言一言が小生にとっては震え上がる思いになる。
塗装屋が青鬼ならば当然赤鬼もいる。
赤鬼はクロス屋である。
ここの社長は半眼ではないが、話しをしていると色白の顔がだんだん赤くなってくる。
やっぱり赤鬼に見える。
我が家はクロスの部分は少ないのだが、分厚いカタログを渡される。
いとも簡単に「どれがいいですか」と聞かれる。
何でこうもたくさんの種類があるのか?
「今日はこれがオススメですよ。」
などと魚屋さんみたいに言ってはくれない。
「広告の品、現品限り」などという表示も見当たらない。
逆に「気に入ったのが無ければ別のカタログもあります」などと言う。
1冊の中からでも選べないのに、そう何冊も出てきてはたまったもんじゃない。
小生の困った顔を見て喜んでいるようにしか思えない。
それでもどうにかこうにか選ぶと、女の鬼が出てきた。
女の鬼は設計事務所の高橋さん。
「その壁紙では部屋の雰囲気に合いませんよ、考え直してみて下さい。」
いとも関単におっしゃる。
カタログという重荷を背負わされている小生に鞭打つような一言。
キツイ!
♪どうーすりゃいいのーさ思案橋ー♪
思わず心の中で歌ってしまった。
苦しい時に歌が出る、これも労働歌か?
まだまだ鬼はいた。
建具屋という鬼。
襖の柄を決めて下さいと3冊のカタログを取り出した。
それから障子の桟のデザインと紙のデザインを決めて下さいという。
障子紙にも最近はカラーがありますなどとも言う。
次から次へとカタログを出す。
これもまた決めなければならない。
さらに追い討ちをかける鬼もいる。
畳屋という鬼。
畳の縁の色と柄を決めろという。
ニコニコ笑いながら見本帳を出す。
もう勘弁してくれ。
軒天の色を決めるだけでも家族喧嘩したのに、これじゃ毎日が喧嘩だ。
職人が束になって我が家を虐めている。
家ができる前に家族が壊れてしまう。
これも産みの苦しみの一部なのか。
そこへいくと、こだわりの壁材(珪藻土)は違う。
色の数が少ないので楽。
楽しく選ぶ事ができる。
しかしホッとする事はできなかった。
ここにも鬼はいた。
左官屋という鬼。
左官屋は従兄弟なのでこの人だけは違うと思っていた。
甘かった。
やっぱり内装職人は鬼。
仕上げはどうするんだと聞いてきた。
ローラーか、鏝で押さえるのか、櫛引か?
「素人の小生にそんな言聞くなー!」と叫びたかった。
叫んでしまっては家族関係ばかりか親戚関係も壊れてしまうので我慢した。
どの職人さんも好意からの発言。
建て主を満足させようとか、建て主の喜ぶ顔が見たいとか。
好意からでているだけに始末が悪い。
「御好意」にはこっちも一生懸命答えなければならない。
使命感が小生を襲う。
我が家のコタツの上には山のようなカタログブックが乗っている。
カタログを囲んだ家族から聞こえるのは溜め息ばかり。
本当はカタログを囲んで楽しく相談し合う家族のイメージがあった。
現実は違う。
「協調性」のない家族と、「決断力」のない家長がいるとどうにもならない。
カタログが家族崩壊の爆弾のように思えてくる。
誰かこの地獄のような日々から救って下さい。