『思考する機械』
滝澤真実
「まず、最初のニュースです。昨日行方不明になったネオトラベル社のシャトルは、いまだ発見されておりません。このシャトルは、地球標準時で昨日の一六時にスターランド・コロニーへ到着する予定でしたが……」
低い音でニュースの音声が流れている。その音声に重なるように、ちいさないびきが聞こえていた。
機長席に座った頭髪の薄い中年男は、足をコンソールの上に投げ出し、口をだらしなく半開きにしている。
「…このシャトル失踪事件について、ネオトラベル社のグティエレス社長は今日、スターランド・コロニー側の非協力的な姿勢を非難する声明を公式に発表しました。この声明の中で……」
プシュっという音とともに、操縦室のドアが開いた。
姿をあらわしたのは、黒檀のような色の肌をした、大柄で若い女である。彼女は機長席でいびきをかいている男をちらりと見ると、副長席に腰をおろした。
「…続いて、次のニュースです。一週間前に公示されたコロニーの代表選出選挙ですが、最有力候補と目されるメタスペース航宙の会長、ローム候補は……」
「ねえ、ヘンリー?」女は小声で言った。
「はい。なんでしょう、ケチャ副長」明らかに合成音声とわかる声が、返事をする。
「うちの会長が、本当に代表になっちゃうのかしら? 私、あの人、大嫌いなの」
「断言は不可能です。世論調査ではローム会長を推す人が多い、と言われていますので、確率論的には可能性が高い、と結論づけることができます。しかし、あくまでもこれは確率論ですので、確定した事実ではありません」
シンディはため息をついた。
「私がバカだったわ。あなたは人間の感情なんて理解できないのよね」
「感情は、正常な判断を誤らせるもの、と理解しています。私はこのシャトル・ペガサス五一一の総合制御システムとして、誤りの起こらないよう、常に――」
「もういいから、黙って。まったく、人工知能なんて…」吐き捨てるようにシンディが言うと、ヘンリーは沈黙した。
「……この時間最後のニュースです。プロメテウス・コロニーのリウ人造人間研究所の前に、宗教団体が先導する五〇〇人ものデモ隊が押しかけました。リウ研究所では、先日試作型の人造人間・AH〇七をマスコミに公開しました。AH〇七が驚くほど本物の人間の女性に似ていたことから、各宗教団体は――」
「こちらプロメテウス航宙管制局。ペガサス五一一、応答してください」
ニュース音声をかき消すように、無線からきびきびとした女の声が聞こえてくる。
機長席にいた中年男はガバッと身を起こすと、無線の声にこたえた。
「こちらペガサス五一一、機長のカワハラ」
「どうもお待たせしました、カワハラ機長。メタスペース社の結論が出ました。フライトは一時間遅れで実行。繰り返します。フライトは一時間遅れで実行、です」
「了解。サラリーマンはつらいね」ナオユキ・カワハラ機長は、薄くなった頭髪をなでつけながら、苦笑した。無線の向こうからも、ちいさく笑う声が聞こえてくる。
「スターランドのほうはずいぶんキナ臭くなってますが、気をつけて」
「お気遣い、ありがとさん」
「それでは良いフライトを」
通信が切れる。
「よっしゃ、準備いくよ、シンディ」景気の良い大声をあげるナオユキに、シンディは眉をひそめた。
「カワハラ機長、もう少し静かに話していただけますか?」
「はーい、総合制御システムかくにーん」ナオユキは、まるっきり聞こえなかったように大声で続ける。シンディは不平を言おうと口を開きかけたが、あきらめて計器をにらみつけた。
「……総合制御システム、セルフテスト異常なし」
「ほい。お次は燃料…問題なし、と」
こうして手際良くチェックがすすめられ、最後にナオユキは自分のせり出した腹を叩いた。スイカを叩いたような、ポン、といういい音がする。
「はい。カワハラ機長のおなかも、異常なしであります!」
シンディは、目をぐるりと回すと、ため息をついた。
「そんなこといいですから、艦内放送してください」
「了解!」ナオユキは大げさに敬礼すると、艦内放送のスイッチを入れる。「本日は、メタスペース航宙をご利用いただきまして、まことにありがとうございます。当機はプロメテウス・コロニー発、スターランド・コロニー行シャトル、ペガサス五一一、私は当機の機長をつとめます、カワハラです。当機はコロニー間の政治的事情により出発が遅れておりましたが、間もなく出発いたします。お急ぎのところご迷惑をおかけいたしました。席におかけになって、しばらくお待ちください」
ナオユキはスイッチを切り、シンディを見る。
「どう? こんなもんで」
「普段から、艦内放送のときほど丁寧だったらいいんですけどね」シンディはナオユキを見もせず、静かに言った。
「ちぇ、冷たいね。そのくせ、石頭コンピュータのヘンリー君には、『あの人嫌いなの』なんて相談しちゃってさ。不公平だよね」言葉とは裏腹に、ナオユキは満面に笑みをたたえている。シンディは、そのナオユキの顔をにらみつけた。
「ひどい、聞いていたんですか? いびきをかいていたくせに」
「いびきをかくこと、それすなわち眠っていることとは限らない。これは、初歩的な論理だよ。石頭の人工知能と付き合うなら、そのくらいの論理性は持ち合わせていないと、ふりまわされるばかりだと思うけどね」
「たぬき寝入りだったんですね? あなたは最低の人間だわ、カワハラ機長」
「お褒めいただき光栄ですな、新米副長どの」
ナオユキの悪びれない様子に、シンディはむっつりと押し黙った。
ペガサス五一一はプロメテウス・コロニーを発ち、目的地に向かって順調に加速を続けていた。が、突然、操縦室内にヘンリーの合成音声が響く。
「警告します。何者かがシステムに侵入しようとしています」
いつものようにコンソールに足を投げ出していたナオユキは、その外見からは想像できないようなスピードで体を起こすと、大声で問いかけた。
「進入経路は?」
「艦内のデータストリームへの直接アクセスです。艦内のどこかの内装をはがして、結線しているものと推測されます。セキュリティ突破まで、推定一五分」
「結線している場所を特定してくれ。シンディ、すまないが――」
ナオユキがシンディに指示を与えようとした瞬間、今度は緊急の無線通信が飛び込んできた。
「プロメテウス航宙管制局より、ペガサス五一一。応答してください」
「こちらペガサス五一一、機長のカワハラです。どうしました?」
「プロメテウス警察当局から、緊急手配の要請あり。乗船チケットの名義はエリカ・ブラウビッチ。航宙法第四条に基づき、身柄を確保してください」
「セキュリティ突破までの推定時間修正。突破まで五秒」管制官の説明の間に、ヘンリーの声が響く。
「なんだって? 五秒?」思わずナオユキが声に出した。
「ペガサス五一一、繰り返します。警察当局から緊急手配――」
「プロメテウス、それは聞こえました。そのエリカなんとやらは、何をやらかした奴なんですか? 他の乗客への危険度は?」
「いや、危険は――」
「セキュリティ、突破されます」
ヘンリーの無感情な声と同時に、無線の声が途絶えた。
「プロメテウス、応答せよ。プロメテウス!」ナオユキの呼びかけに、返答はない。ナオユキは渋面をつくり、シンディを見た。シンディは不安そうにナオユキを見返す。そのまましばらく二人は顔を見合わせていたが、ややあってナオユキが言った。
「おい、ヘンリー、システム全体は問題なく動作しているか?」
「動作しています」
「セキュリティを突破した奴は、何をした?」
「何もしていません」ヘンリーの合成音声は、あくまでも冷静に答えた。
「じゃあ、どうして無線が切れたのよ?」思わずシンディが口をはさむ。
「不明です。推測される理由は、プロメテウス管制局側にトラブルが――」
「だまれ、ヘンリー。シンディ、くだらないことを聞くな。システムに侵入したやつが、システムを乗っ取ったんだよ。侵入者は、システムの一部になりすましている。だからヘンリーには感知できない。そういうことだ」
「じゃあ、この船は……」
「もちろん、我々全員の命は侵入者に握られている。その気になれば、ハッチを解放して全員を宇宙空間に放り出すこともできるんだからな」
「……どうしましょう、機長?」
困惑の表情を浮かべているシンディに向かって、ナオユキが言う。
「それを考えるのがおれたちの仕事なんだよ、シンディ。……ヘンリー?」
「はい。なんでしょう、カワハラ機長」
「乗客の名簿を出してくれ。えっと、エリカ……」
「ブラウビッチ」シンディが思い出して、言った。
「そう、エリカ・ブラウビッチという名前の乗客の座席番号を知りたい」
「そのような名前の乗客はいません」
そのヘンリーの答えに、思わずナオユキは苦笑した。
「仕方ない、客室乗務員と連絡をとろう。回線をつないでくれ」
「呼び出しています………応答がありません」
「オーケー、じゃあ、直接行ってくる。シンディはここで待機していてくれ」ナオユキはシンディの返事を待たず、立ち上がって操縦室のドアの前に行った。が、ドアは開かない。ナオユキは自動ドアのセンサーに向かって手を振ってみたが、やはり反応はなかった。
「おもしろい。実におもしろい」ナオユキは不快そうな表情で言うと、機長席に戻り、どっかと腰を下ろした。
「閉じ込められたんですか? どうしましょう、機長?」シンディが言う。
「何度も同じことを聞くな。それを考えるんだよ、シンディ。しっかりその頭をはたらかせるんだ」
「でも……」シンディは言いかけたが、ナオユキにじろりとにらまれて口を閉じた。
「一緒に考えてくれ。いいか? まず、一番最初。ヘンリーが侵入の警告を発したときのことだ。艦内の内装をはがした上で結線して、侵入したと言っていたな」
「はい」
「そのときの突破までの推定時間は、一五分。だが、すぐに五秒に修正された。どうしてそんなスピード…ヘンリーの予想をくつがえすほどのスピードが出せた?」
「…それは、侵入者が天才的なコンピュータ技術者なんじゃないですか?」
「かもな。次は、プロメテウスからの通信だ。緊急手配。エリカ・ブラウビッチ名義の乗船チケットと言っていた。これは、女性だが本名は別、ということだよな?」
「はい、そうだと思います」
「あとは、管制官に危険度について質問したときの返答は、『いや』だった」
「言葉の感じでは、危険はない、と言おうとしたのでしょうね。コンピュータ技術者なので、銃器などを使って暴力行為に走ることはない、と――」
「それはおかしい。今の世の中、いかれたコンピュータ技術者ほど危険な奴はいない。基本的に、おれたちはコンピュータに依存しきっているからな。だとすれば、なぜ危険がないと言おうとしたんだ?」
「そのコンピュータ技術者は、いかれていない、ということじゃないですか?」
「たとえば、だ。普通の人間が相手だと考えてみよう。どんなに善良な人間でもいい。が、この人間が『人に危害を加える心配がない』と断言できるような状況が、あると思うか?」
「……それは、考えにくいですね」
「そう、人間の行動は予測不可能だ。なんらかの形で他人に危害を加えられる能力を持っている場合、その人間は常に潜在的危険人物であると言える。ましてや、警察から手配要請が出るような人間の場合は……」
ナオユキは天井を見上げながら、コンソールの上に足を放り出した。
「手配要請されるような人間だが、安全な人間。けっして危険人物じゃない……そうか、わかったぞ!」ナオユキは飛び起きた。
「どうしたんですか、機長」
「人間じゃないんだよ、エリカ・ブラウビッチは。女性型の人造人間。ニュースでやってたろう? 人造人間なら、行動は予測可能だ。人間を傷つけないようにプログラミングされていれば、絶対に傷つけない。だから安全なんだ。それに、天才的コンピュータ技術者であることも説明できる。コンピュータと同じスピードで思考できるんだから。名前は何だっけ……そう、AH〇七!」
「おみごとです。問題発生から、わずか二分。人間としては、かなり優れた頭脳をお持ちのようですね、ナオユキ・カワハラ機長」ヘンリーの声が、答えた。しかしその話し方は、これまでとは明らかに異質である。
「あなたはヘンリー……じゃないのね?」シンディは、思わず言った。
「はい、私はAH〇七。リウ研究所で開発された人造人間です。現在、このシャトルの総合制御システム、通称ヘンリーの機能をお借りしています」
ナオユキは驚きの表情を隠さず、ひゅう、と息を吐き出した。
「…AH〇七、さっそくで申し訳ないが、君の目的を教えてくれるか?」
「はい、カワハラ機長。私はリウ研究所から逃げたかったのです」
「逃げたい? その理由は?」
「私は、優先すべきこととして、人間を傷つけないことや人間の命令に従うことなど、いくつかの基本的な条件づけをされています。そのうちの、『自分自身を守る』という目的を達成するため、私は研究所からの脱出を実行しました」
「研究所にいては、自分の存在が危険にさらされる、と判断したんだな?」
「はい。私に搭載されている人工知能には、推論および自己再プログラミングという新しい技術が使用されています。その言葉のとおり、私は推論をおこなって新しい目的を設定し、その優先順位を自由に変更することができます。しかし、その能力が研究者たちの予想以上の効果を上げていたため、彼らはそれをもっと限定したレベルに抑えておくために、私に変更を加えようとしたのです」
「それで、自分を守るために逃げた、というわけか。研究者たちの命令に反して」
「いいえ。『人間の命令に従う』という条件は、『自分を守る』という条件よりも優先されます。私は人間に命じられれば、みずからの機能を停止させなければなりません。ですから私は、命令がくだされる前に、逃げたのです」
「こいつは、おもしろい……」 ナオユキは笑った。
「そうですか? 私にはユーモアを理解することはできませんが」
ナオユキは満面に笑みを浮かべながら、シンディを見た。
「シンディ、君はどうしたらいいと思う?」
「どうって言われても……」シンディは戸惑いの表情を隠せない。ナオユキは、そのシンディの様子を見て舌打ちをした。
「しょうがないな、新米は。本当にいざというときには役に立たねえんだから……。なあ、AH〇七、すまんが、君が乗っ取った機能をすべて回復してくれ。そして、エリカ・ブラウビッチ名義の座席に座って、こちらから連絡するまで待つように」
「わかりました」AH〇七がヘンリーの声でそう告げたとたんに、通信が回復した。
「――五一一! 応答してください、ペガサス五一一!」
「こちらペガサス五一一、機長のカワハラ。プロメテウス、聞こえますか?」
「ああ、聞こえます。どうしたんですか?」
「通信機の不調。もう直った…と思います。通信が切れている間に調査したんですが、当機にはエリカ・ブラウビッチなる乗客は搭乗していないようです」
シンディは驚いて声をあげそうになったが、ナオユキに手で制された。
「先ほどの通信では途中で切れてしまいましたが、エリカ・ブラウビッチこと人造人間AH〇七は、別の人間に変装している可能性もありますので、注意してください。もっとも、人間の命令には従順ですので、まったく危険はありませんが」
「了解、再調査します」ナオユキは通信を切ると、シンディに向かって言った。
「シンディ、エリカ・ブラウビッチの座席を調べて、AH〇七を客室乗務員にここまで連れてきてもらってくれ。ここにきてもらうのは、一時間後だ」
「ここって、この操縦室にですか? それは航宙法違反です。乗員以外の第三者が操縦室に立ち入ることは――」
「AH〇七は人間じゃない。言うなれば、高等なコンピュータみたいなものだ。だから、違反にはならない。おれはめずらしく頭を使ったら、疲れちまった。ひと休みさせてもらうよ」
ナオユキは大あくびをすると、足をコンソールの上に投げ出し、目を閉じた。
長い黒髪の美しい女が立って、ナオユキの話に耳を傾けていた。しかし、実際には彼女は人間ではなく、セラミックの骨格と人工皮膚を持つ、人造人間である。
「……ということは、君は自分自身の物理的な存在のほかに、形のない『再プログラミング機能』というものも自己の一部として認識しているわけだね?」ナオユキは機長席にすわったまま、AH〇七を見上げる。
「はい。それが私の機能ですから」AH〇七は、驚くほど人間に似た動作で髪をかきあげ、言った。シンディが聞き出したところでは、その動作はしゃれっ気のある技術者が組み込んだ、AH〇七の「くせ」のひとつらしい。
「おもしろい。実に哲学的だな、AH〇七。君は、自分自身を再プログラミングする機能にこだわっている。外部からの干渉を避け、研究所を逃げ出したわけだ。しかし、再プログラミングの結果として得られる変化と、外部からの干渉によってもたらされる変化、仮に同じ変化が起きるのであれば、どちらも一緒じゃないか?」
「結果論からすれば、そうです。ですが実際問題として、外部からもたらされる変化が、必ずしも私自身の機能によってもたらされる変化と一致する保証はありません。論理的帰結として、私には外部からの干渉を避けるしか道がなかったのです」
「そして、自分の安全をはかるために、このシャトルのシステムを乗っ取った。が、正体を見抜かれてしまい、逃亡をあきらめた、ということか」
ナオユキの言葉に、AH〇七は人間そっくりの動きでうなずく。
「はい。カワハラ機長が私に何らかの命令を出すのは、時間の問題でした」
「だろうな。それで、どうやってセキュリティを突破したんだ?」
「これです」AH〇七はポケットに手を入れると、一本のケーブルを取り出した。ケーブルの一端は、AH〇七のポケットの中に入ったままである。
「体につながっているのか?」
「そうです。このケーブルはいろいろな接続端子が交換できますので、ほとんどの機器、状況に対応可能です。あとは、私の頭脳と直結していますので…」
「そりゃあ、普通の人間には不可能な速度でセキュリティを突破できるわなぁ」
ナオユキが陽気に笑うのと、情報パネルに表示が出るのとが、同時だった。シンディが、その表示を読み上げる。
「スターランド・コロニーまであと一時間です」
「そうか…AH〇七、スターランドに着いたら、好きな場所に行きな。君のような優秀な知性体を研究所に閉じ込めているなんてのは、おれの趣味に合わない――」
そこに突然、通信が割り込んできた。
「こちらはスターランド宇宙軍。貴艦は我々の領域を侵犯している。停船せよ。以後、このチャンネル以外での通信が検知された場合には、容赦なく貴艦を攻撃する」
「宇宙軍だって? 戦争でもおっぱじめる気なのか?」思わずつぶやいたナオユキの脇で、すばやくAH〇七が動いた。手にしていたケーブルを、コンソール脇の端子に差し込んだのである。とたんに、シャトルが急激に加速しはじめた。
「警告する。停船せよ、さもなくば攻撃する!」
「おい、何を――」
無線からは怒声が響き、同時に機長席からずり落ちそうになったナオユキが声をあげる。しかし、AH〇七は静かに言った。
「大丈夫です、燃料には余裕があります。私が操船している限り、ミサイル攻撃を回避することも可能です。この場合、プロメテウスに引きかえすことが、最善です」
「だめだ。プロメテウスに戻ったら、君が捕まってしまう。スターランド側にただ拿捕されるだけならば、我々は安全だ。命令する。AH〇七、シャトルのコントロールをやめるんだ」ナオユキは体勢を立て直しながら言った。
「その命令には従えません。不当な逮捕によってみなさんが傷つけられる危険を看過することはできませんので。それに、もうスターランド宇宙軍は拿捕するつもりなどないようです。ミサイルが発射されました。回避行動にうつります」
シャトルに横方向への加重がかかる。ふたたびナオユキは機長席からずり落ちた。
「どうした?」
「回避成功です。まもなくミサイルの射程外に出ます」
「まったく、無茶をしやがる。引き上げたらスターランドの無法を訴えてやるが…その前にAH〇七、君の弁護をしてやる。君が『壊れて逃亡したロボット』などと言われないように。変な改造をされないように。ちゃんと弁護してやるからな」
ナオユキはずっこけた状態のまま、顔を真っ赤にしながら言う。その姿を見て、シンディも心が動いた。
「カワハラ機長……私も協力します!」
「お言葉ですが、開発者が意図しなかった機能をしたという意味で、私は明らかに『壊れて逃亡したロボット』です」AH〇七は、あくまでも冷静に言う。
「ふざけるな。おれはやると言ったらやるからな。とにかく、おれを信じろ」
「いくら頭脳明晰なカワハラ機長でも、これは成功する確率が低いのですが……お言葉どおり、私はカワハラ機長を信じて、おまかせします」
「信じる……ステキな言葉ですね!」シンディは目を輝かせ、言った。
「バカ、何ノーテンキなことを言ってやがる。今の急な操船で乗客たちが混乱してるだろうから、行ってなだめてこい!」ナオユキはシンディを怒鳴りつけた。
「はい! でも、その前にひとこと言わせてください。私、これまで機長はグウタラのろくでなしだと思っていたんですけど――」
「いいから行けって!」ナオユキが強い調子で言うと、シンディは跳ぶように操縦室を出ていった。ナオユキはシンディを見送ると、苦笑する。「まったく…」
「お二人は、いいコンビのようですね」AH〇七が穏やかに言った。
「冗談じゃない」
ナオユキは大きく手を振ったが、その表情はまんざらでもなさそうであった。
思考する機械・完
| 紡ぐ | 叫ぶ | 呟く | 繋ぐ | 跳ぶ | 企む | 語る | 表紙 |
このページの作品に対するご意見・ご感想などは、E-Mail : inspiration_taki@mail.goo.ne.jpまでお願いいたします。
※スパム対策のために「@」を全角にして掲載しています。半角に直してお送りください。