『絶望を抱いて飛べ』
                                   滝澤真実

 わたしは、ひとりだ。
 ひとりで飛ぶ。
 わたしは人間たちの手によって作られた。向かう先は、アルファ・ケンタウリ。地球を旅立ったのは気が遠くなるような大昔だった。
 もしかしたら、わたしよりも高機能な探査船が作られて、今頃は目的地に到達しているかもしれない。もしかしたら、わたしがのろのろと虚空を進む間に、地球は他の知的生命体とすでに接触しているかもしれない。
 それでもわたしは、ただ飛びつづけるしかなかった。
 ほかの船がどうだとか、そんなことはどうでもよかった。わたし自身がどこまで行けるか、それが重要だった。飛びつづけたからと言って、この絶望的な孤独から解放されるとは限らない。何も見つからない可能性のほうが高いだろう。
 それでもわたしは、飛び続けるしかない。

 今わたしは、人間たちがオールトの雲と呼んでいる宙域を飛んでいた。太陽系を殻のように包み込んでいる領域で、そこに含まれる天体は十兆個とも言われる。
 むろん、太陽系をすっぽりと包み込むような広大な場所にある十兆個なので、通り抜けられないほど密なわけではない。しかし、わたしのように真っ直ぐ飛ぶしか能のない存在にとっては、危険きわまりない宙域だった。
 わたしの進行方向にはオールトの雲に属する小天体があって、ゆっくりと近づいてきている。「小」天体などと呼んでいるが、直径は数十キロもありそうな巨大な氷のかたまりである。わたしの進路はその小天体の端をかすめる。
 衝突の危険があった。
 わたしはここを切り抜けて、先へ行きたい。
 少しでも、先へ。

 近づいてみると、その小天体は本当に巨大だった。
 ごつごつした表面は黒く、かすかに青みがかった光を反射している。遠くから見るよりも細かな凹凸が多く、荒々しい姿をしていた。
 わたしは小惑星の表面すれすれを飛ぶ。
 このまま何もなければ衝突は避けられそうだと思った次の瞬間、小天体の地平線の向こうから、大きな山がせり出してきた。
 あぶない。
 そう思った直後、わたしはその山の稜線に接触した。
 小天体の表面にかすかな傷跡を残して、わたしは虚空へとはじき飛ばされる。
 わたしの体から小さな部品が飛び散る。
 ああ。
 進路が変わって、もはやアルファ・ケンタウリに着くことはできない。
 わたしは絶望しながら、ただ飛びつづけた。

     *             *             *

 わたしは、ひとりだ。
 ひとりで飛ぶ。
 永遠とも思えるような時間をかけて、わたしはひとりで飛びつづけた。絶望的な孤独は、癒えることがない。長い年月を重ねたわたしの体は傷み、まともに機能している場所のほうが少ない。
 それでも、わたしの行く先には、恒星があった。たとえその恒星の名前を知らなくとも、わたしにとってはそれで充分だった。
 わたしは、ひとりだ。
 未来など見えない。
 それでもわたしは、飛びつづけるしかない。
 どれほど無理に見えても、わずかな可能性がある限り。

 それが、生きるということだろう?

                                     (完)