「影亡き闇」
2005/01/02
2005/01/15
落川春秋

出会うことを拒絶して冬の日差しに背を向けて目先の影に逃げ込んだ
そうすることで何かから逃げられると思っている
残酷な思い出は歩みを遅くさせるばかり
何がそんなに罪なのか
どうして罰を受けているのか
誰に対する憎悪を背負っているのか

千鳥の悲鳴を飛び去る影の中に見付けて安堵する

戦争の記憶が埋め込まれた風景
ここで死んだと聞かされても
ここで生きていたと聞かされても
目の前の風景は遠くにあるばかり
他人の思い出は他人事でしかなくて
他人の悲しみは想像することしか出来なくて
他人の憎しみは共有することが出来なくて
それなのに泣いている
それなのに怒っている
所詮、分からない他人の心だと知りながら泣いて、怒って、泣いている

低い太陽 伸びる影 僕の作る闇 闇は人の形で伸びて行く

墓石の影に身を寄せて
薄い血の色 夕焼けの空
死人の証に囲まれて
大切な人を失ったのだと また思う
悲しさに怯えて寄り添う墓石には 大切な人の名前が刻み込まれているだけ
その人はこの世に居ない
当たり前の残酷さに 為す術なく項垂れる
自分にしか聞き取れない小さな声で その名を呼んで
その人が自分の名を呼んでくれた時を思い出す
答えの無い呼びかけは 夕闇を連れて来るだけ

墓石の影 人の影 影を飲み込む大きな闇 闇の中で混じり合う影

夢を語る人はブラウン管の中 或いは液晶の中
死んだ人間の生きていた頃の記録
ガラスケースの中の遺言
もう死んでいる人間の姿
死んでいる人間の生きている骸
ブラウン管の中の遺骸 液晶の中の遺骸 薄く平べったい
何が懐かしいのだろう
何が悲しいのだろう
何が寂しいのだろう
何が憎いのだろう
これは何の罰なのだろう

姿があるから 光があるから 影がある
姿なく 光なく 影もない
あるのは闇ばかり


「闇之球体」 「強力ファイト」
(C)1998−2008 落川春秋