「膿」
2006/01/15
落川春秋

海の声に耳を傾け湿気た風に耳は膿み
流れる体液の音が波のように聞こえる
僕は死んでいるのか歩いているのか
昨日までは死んでいたはずだ
生まれてこの方、生きていた記憶が無い
自分は何から生まれたのだろう
どうして生まれたのだろう
意味を探して見つからない
理由を求めて見つからない
心臓は鼓動を続けているけれど、それがどうした
命に価値があるなんてどうしても思えない
自分にはどうしても思えない
手首に躊躇い傷の在る少女と出会って何となく会釈だけした
出会いに何の意味があるのか分からない
出会った理由ははっきりとしていたけれど意味は分からない
一緒に死ぬことになっていたけれど、そうはならなかった
手違いで自分は海辺を歩いている
生きているのか死んでいるのか分からない
手違いで歩いている
冷たい海に飛び込んで死にたいと言った少女だけが逝き、自分は沈み損なった
失敗だけで自分は出来ている
生まれたことも失敗で歩いていることも失敗だ
この先も失敗するんだろうか
自分だけが歩き続けて、これで何人目なのだろう
海の悲鳴に追い立てられて砂に足を取られながら歩き続けて全身が膿
砂に残る足跡も波に奪われ続けて、生きた証は何も無い

「闇之球体」 「強力ファイト」
(C)1998−2008 落川春秋