「薫風」
2002/05/04
落川春秋
子のない母が泣いている
確かに腹を痛めて産んだのに
産んだ実感は確かにあるのに
失った実感が無いままに在る
どうして あの子は死んだのだろう
どうして あの子は死んだのだろう
それが運命だとでも
それが当然のことだとでも
こうして嘆き続けることも運命だと
こうして何も彼もを呪い続けることも運命だと
どうして
どうして
どうしてあの子は死んだのだろう
どうして私は生きているのだろう
優しかった風に吹かれていたはずなのに
まるで全てをさらわれたみたいに風に吹かれて佇んでいる
まるで透明な骸骨
白骨に絡みつく私の心
涙ごと悲しさをさらって欲しい
強い風に吹かれて佇む弱い私
儚いものにばかり美しさを見つけてしまうのは
私が永遠を信じていないから?
優しさの中に偽善を探してしまうのは
私が人を信じていないから?
思い出の中に悲しさばかり残しているのは
私が私を好きじゃないから?
生きていることが何かの罪になるのなら「死」という罰を与えて欲しい
私は口をつぐんだまま悲鳴をあげ続けている
私の空っぽの心の中で響く悲鳴
誰にも聞こえない
誰にも気付かれない
誰にも届かない
気が付けば
私はあの子の好きだった童謡を口にしている
気が付けば
私は泣きながら微かな声で歌っている
どうして あの子は死んだのだろう
同じ問いを繰り返し続ける
別れた あの人も同じことを思っているだろうか
それとも あの女と楽しく暮らしているだろうか
私にはわからない
わかりたくない
どうして 私は生きている
嘆き続ける為
弔い続ける為
呪い続ける為
注いだ愛情全てに裏切られ
私は 同じ問いを繰り返しながら
あの子の好きだった童謡を歌いながら
風に吹かれて
歩いているのか ただ揺れているだけなのか
子供には未来があると誰かが言っていた
でも それは生きている子供だけ
死んだ子供には何も無い
宝物だった思い出すら 終わりの無い拷問
あの時、私は何をした?
あの時、私は何ができた?
あの子の笑顔に責められる
一番、大切なものに責められる
自分の命より大切なものを失ったのに 生き続けている