「浜辺の風景」
2002/12/09
落川春秋

色変わりの秋の空
遷ろう季節に空ろな気質
鉛色の空と海
荒れる波は姿を変え続ける鉛の彫刻

私は妻と二人きり、立っている

死んだ子供の母親は自身を「なり損ない」と責め立てる

わたし、もうすぐ死んでゆく
わたし、もうすぐ朽ち果てる
わたし、もうすぐ壊れてく

強い海風に晒されながら呟く、呟く、呟く
私は耳を塞ぐ、耳を塞ぐ、塞ぐ

恋人との別れは、また出会うためのもの
では、子供の死は?

死んだ子供は生きている
生き続けている

生まれた子供は死んでいる
死に続けている

悔恨の涙が切り開く地平には嘆きの種が撒かれるばかり
私には見えない、私の子供を妻は確かに抱いている
死んだ子供の母親は子供の骸に頬を寄せ、あやし続けている

死んだ子供の母親は私の妻であることを止めてしまった
死んだ子供の母親は女であることを止めてしまった
死んだ子供の母親は人であることすら止めようとしている
死んだ子供の母親は死んだ子供の母親で在り続けようとしている

愛の深さが妻を壊してしまった
私と私たちの子供への愛が、妻を壊してしまった
自分ばかり責め続けてしまった
自身を「なり損ない」だと責め立て続けてしまった
そんな妻を見ながら、私は私を責め立てる
私も深い後悔の旅に出てしまった

私、もうすぐ死んでゆく
私、もうすぐ朽ち果てる
私、もうすぐ壊れてく

呟く声が浜辺を遠く遠く吹き飛ばされていくばかり


「無限慟哭」 「無声鐘楼」 「闇之球体」 「強力ファイト」
(C)1998−2008 落川春秋