Histories and Fables
   

Duelist-onlineから訳してきた、サイドストーリーです。現在"Return of the Empress(女帝の帰還)""Enemy of My Enemy(敵の敵)"の2編が訳されております。両方ともMerfolk関係ですので、人魚デッキを組んでいる人は一読してもよろしいのではないでしょうか。

 

    Return of the Empress  written by Richard Thames Rowan
 

サイドストーリーです。タイトルは、『女帝の帰還』といったところでしょうかね。内容的には、Encyclopedia Dominiaのマーフォーク関係のところとダブった、関連のあるお話です。あっちに興味がわいた方ならこちらも楽しめるはず。
一言感想を言わせてもらうなら、最初叙情的といってもいい雰囲気だった女帝陛下、最後で恐すぎ…。それとも私が趣味で、冒頭部をはかなげに訳しすぎたせいかな? もっと恐妻みたいな雰囲気の方がらしかったかもしれませんね。スイマセン。
   
   

 


 

From the Duelist -online, written by Richard Thames Rowan and transrated by IRO

Return of the Empress

死にゆく者の泣き叫ぶ声がヴォダリアの冷えゆく水の中反響している。ガリナは最後の戦いがあった、帝国の都を打ち沈んだ様子で見つめた。勇敢なる戦士や魔術師が、心虚ろなホマリッドの休むことなき襲撃からもはや意志の力だけで持ちこたえている。

これが帝国の終わりね、頬の青いうろこに止めてあった真珠をぼんやりとなでながら彼女は思った。あなた、ごめんなさいね。Svyelune's Lightが宿らん事を。私にはもう何も出来ることはないの。食料も尽き、軍隊も崩壊した。あなたは常に強かったわ、でもそんなあなたでさえもあの軍勢には屈したのよね…。

「殿下、もはやこれまでです」

ガリナは鋭い視線をKarel Volnikov(カーレル・ヴォルニコフ)大将に向けた。彼女の考え事を邪魔する勇気のある唯一のマーフォークだ。二人の長い沈黙をうめたのは、まるで会話のように響く断末魔の叫び声だけだった。カーレルは視線を無表情に受け止め、彼女はゆっくりうなずいた。

「生き残ったものを集めなさい。我々はこれより、Akoroun(アコラウン)のポータルへ行きます」

カーレルは額に触れると儀式ばってうなずき、急流の中去っていった。ガリナは思慮深く、高位戦士の後に続いた。軍を長年にわたってしっかりと指揮し、鋭い政治的機転を宮廷にもたらしたものだ。思いは遠きにある植民地、エトラン・シースへと移った。唯一、ホマリッドの襲撃を逃れている可能性のある植民地だ。帝国への忠誠のもと遠方に植民地を築きあげた職人階級を思い出すのには、随分と時間がかかった。

アコラウンがエトラン・シースへの門を開いているはずの尖塔に向かう道を行くと、冷たい水が周りで渦を巻き、すこし寒けをおぼえた。アコラウンはカーレルとともに上で待っており、二人は彼女が上に向かって泳いでゆくと、自らの額に手を触れた。ホマリッドがヴォダリア最後の砦を自らの手中に収めるべく進撃を始めたが、帝都全体で少なくとも4個部隊(一個部隊=20人)は生き残り、尖塔の基部に集まっていた。

「準備はよいのだな?」

アコラウンはうなずいた。「おおせのとおりでございます、殿下」

「では始めなさい」

アコラウンは、巨大な真珠の吊るされたローブを纏う半ダースほどの魔術師に進み出るよう命じた。魔術師たちは真珠を優しく打ち合わせ、深く続く不思議に悲しげな旋律を口ずさんだ。いくつもの声が取り巻き、そして複雑な、繊細で入り組んだ音色のダンスを舞わせた。すると、真珠から月光が螺旋を描きながら織り込まれてゆき、つぶやくような指令の声とともに、螺旋は光の網を織り上げた。魔術師の声で、より糸は曲がりくねったものへと変わってゆく。撚り糸は更にしっかりと結び付き、輝く光のプールとなった。そして声が一つまた一つとプールから開放されてゆく。最後にはアコラウンの螺旋だけが魔法の扉へとつながっていた。アコラウンはうなずいて言った。

「扉は出来ましたが、私はこの織物を支えていなければなりません」

「よろしい。では行きましょう」ガリナはそう言うと、他の生き残ったものたちへ魔法の門をくぐるよう命じた。最後に一瞬だけ息絶えんとするヴォダリアを見やると、泳ぎ去っていった。

 

温かい水の流れが徐々にガリナの視界を曇らせていた白いかすみを取り除いていった。ガリナは周囲の驚くべき様子を見渡した。西には起伏のある広大な平原が果てまで広がっている。例外は珊瑚礁や深海の海草、機敏な魚の群れだけだ。今もたれかかっている、東に向かって盛り上がっている丘陵は、南から北へ向かってのびる感嘆すべき海底山脈だ。北の方では、山脈は東の方に向かっているためしばらくは見えず、ふたたび姿を現すのは遥か遠くでだ。随分してから、初めて暖かいと感じた。

カーレルが泳ぎ来て、口を開くのを待った。

「どうしました、カーレル」

「殿下、私は独断で植民地の正確な位置を把握するため、偵察隊を派遣いたしました。彼らはいくつかの不穏な情報を持ち帰って参ったのです」カーレルは困っているようだった。ガリナは眉を上げると、続けるのを待った。

カーレルはためらった後、言った。「エトラン・シースは、どうやらその…我々が想定していたより大規模なようです。正直なところ、大きすぎます」カーレルはその証拠とばかりに、熱心に議論している魔術師の一団の方を指差した。

ガリナは考え深げに眉をひそめると、言った。「みなを集めなさい。私はその職人階級のものたちの『街』とやらを見てみたいと思います」

カーレルはうなずくと、ヴォダリアの生き残りを集めに向かい、そして言った。「山脈は北部で折れておりますが、その向こう側にあります」数分後、ガリナは東の海底山脈の影の中、北に向かって進みはじめた。

ヴォダリア人は女帝の後を静かに泳ぎはじめたが、彼らは自然と厳格な階級制に従っていた。戦士がガリナのすぐ後に続き、それから魔術師が。その後に商人階級のものが少し続き、最後に少数の低位な職人階級のものが続いた。戦いのさなかでも、時には奴隷がいると役に立つのだ。品格のない労働者としてならば。

ガリナは静かな側近を引き連れ、山肌にある深い峡谷を滑るように越えていった。珊瑚礁や巨大な明るい色の魚の群れを抜けて行く。蒸気を吹き出す穴から泡が沸き上がってきており、その周囲の水は温かい。そこを沿って進んでゆくと、徐々にエトラン・シースと彼女を分かつ、最後の山が近づいてきた。最後の山の背を越えると、流れの乱れた温かい水の中、眼下に広がる街を見つめてガリナは突然立ち止まった。

うねる平原が北と西の果てで山脈にぶつかるまで広がっている。しかし、先ほどの平原とは違い、こちらは珊瑚や海草でおおわれているだけではなかった。エトラン・シースは彼女の真下にある海底山脈の根元から始まり、北や西に向かって伸びている。ついさっきホマリッドによって失われた帝都とは全く違った。大きく見渡すように広がるアーチや芸術的な尖塔などを見るにつれ、怒りがゆっくりふつふつと沸いてくる。街は西に向かって視界から消えるまで広がり続けており、遥か水平線のかなたにアーチによってつながれた5つの大きな尖塔があるのを見つけ、とうとう怒りが爆発した。

「インペリアルタワーを模するとは、きゃつらどういうつもりだ!」怒りの轟きに側近は畏怖で縮みあがった。エトラン・シースはヴォダリアの帝都と規模で比肩し、そして壮麗さでは優っていた。

「偉大なる殿下、全てが見たままとは限りませぬから…」アコラウンは彼女の腕に軽く触れて言った。自分のしたことに気付かず、しゃべり続けようとして初めて気付いた。瞳が恐怖で大きく見開かれていく。

ガリナは自分に触れるなどという不遜な真似をした魔術師の方にゆっくり顔を向けると、突然、素早く首を締め上げた。穏やかな怒りで睨み付けると、彼は手の中で痙攣しはじめた。目が裏返り、皮膚から蒸気が泡となって出てくると、泣き声を上げ、そして、死の叫びと共に短くのたうった。魔術師の痙攣していた体も次第に動かなくなり、ガリナはようやく死体を海の上のSvyelune Lightに向けて放した。

怒りがようやく和らぎ、他の魔術師を指名すると、穏やかに命じた。「アコウランの言いたかったことを説明せよ」

びっくりして吃りながら言った。「か、彼の言いたかったことは、わ、我々はどうやらヴォダリアを離れ、何年か未来のエトラン・シースに来てしまったらしいということです」

ガリナは平然と受け止めると、言った。「何年ほどだ?」

魔術師は早合点をし、そして言った。「大体のところ…我々が思うに、恐らくは3000年ほどかと」彼は体を強張らせ、前任者同様の扱いを受けるべく目を閉じた。

ガリナは魔術師を長いこと睨み付けていたが、うなずいて言った。「よろしい。我々はこの街の職人たちに、帝国への義務を思い出させてやらねばなるまい」方向を変えると、徐々に衝撃から立ち直ろうとしている側近たちを置きざりにし、下に向かって泳いでいった。側近もすぐに付き従った。

 

簡単すぎるといってもよいほどだった。誰何(すいか)を一度も受けることなく、ヴォダリア人をエトラン・シースの街に引きつれてゆき、新たなインペリアルタワーにたどり着いた。「エトラン・シース評議会」を名乗る職人の一団のいる広間を見つけるのはさほど難しい事ではなかった。最初のうちは遠縁の同胞の外見に驚いたようだったが、公務妨害の違法行為だと言い始めた。彼らは不承不承カーレルの説明を聞くと、疑っているのだろうか、げんなりした様子である。最終的に事態を決めたのは、一人の評議会議員の発言だった。

「このケバケバシイ屑共をつまみ出せ。われらには仕事があるんだ」この発言の影響は明らかであったが、彼は続けた。「結局のところ、ヤツラが実際に名乗っている通りのものだとしても、われらの祖先がヴォダリアを離れたのは、最も乱暴で最も不的確な者に国の運営を任すような階級制だったからではないか」数人の評議会議員が賛成して肯いた。

カーレルはこのおしゃべりな評議会議員の方を静かに向くと、泳いでゆき、そして滑らかな優雅さで、首の骨を折った。評議会室に叫び声が噴出し、カーレルが次の議員を同じように片づけると、パニックとなった。次の瞬間、ヴォダリアの戦闘魔術師がエネルギーを放つと、大鎌でも振るうかのように、逃げようとした議員たちを刈り取った。ただ一人が逃げおおせたが、カーレルの合図を受け、戦士の一人が捉えるべく広間を静かに抜け出ていった。ガリナは残った者たちに街を即座に掌握し、住民に彼女が再び皇帝の座に就いたことを知らせるよう命じた。貴族たちは手を額に触れると、魔術師と戦士の小さな部隊となって、あらゆる方向に向けて散っていった。それからの数時間、ガリナは時折起きる短い戦闘の騒ぎを耳にした。抗議の声は抑えられ、協力を要請された。

ガリナは静寂の支配する、前議員の死体の浮かぶ評議会室を思慮深げに見つめた。一人になり、都市の防衛を、軍備の強化を、そして未来への計画を練った。

愛しいあなた、Svyelune's Lightが宿らん事を。いつか、私は幾百、幾千もの戦士とともにあなたの帝国を再建するの。ホマリッドを完全に滅ぼして、あなたの栄光の記憶にその勝利を捧げるわ。今日というこの日から、新しいヴォダリア帝国が生まれるのよ…。

 

 

    The Enemy of My Enemy  written by Christopher R. Wilkes
   
これまたサイドストーリー。わたしの好きなマーフォーク関係ですね。タイトルは『我が敵の敵』というあたり。読んでみると、少々尻切れトンボかな? 続きを読んでみたいという気持ちにさせられます。
   
   

 


 

From the Duelist -online, written by Christopher R. Wilkes and transrated by IRO

The Enemy of My Enemy

遠くのLucassa(ルカッサ)の灯台の光が柔らかい夜の中、湾を横切りながら万もの輝きを波に放ちながら燃えている。優しい黄色い光を輝かせ、旅人や彼らの船を、安全にOrvadian(オルヴェイダ)の交易都市へと招いている。

ダウに乗船しているグループの中でも、オルヴェイダの漁師、Tarin(タリン)だけは水の向こうのルカッサの明かりを見つめていた。他のものは暗い動く水面を見たり、波の音やそよ風のため息に耳を傾け、他に近づいている船の兆候を示す変化がないか気をつけている。タリンは船尾にくたびれたように座り、舵取りオールの近くに一人で、マーフォークがすぐに姿を現さないかと待っていた。彼は固い革のような男で、太陽、風、海、そして時によって侵食されていた。タリンは乗客におびえており、マーマン(人魚)が約束した金の魅力に屈服したことを後悔していた。

「驚愕」は、一週間前にマーマンがダウに自らやってきた時のタリンの感情を正確には表現していない。マーフォークの数は減り、非友好的になっていた。古代ヴォダリアの女帝が帰還し、オルヴェイダとの交易を崩壊させて以来、彼女は交易を減らし、残った僅かな取り引きにも、重い税金を掛けた。ビジネスや個人的な付き合いは緊張状態になり、維持も難しくなった。そしてそれ以来、人間とマーフォークとの間で血を見ることもたびたび起きたのである。マーマンの奇怪な申し出に対するタリンの最初の考えはヤスを掴むことだったが、両者の間にずしりとおかれた金貨はヤスへと伸びる手を思いとどまらせた。

微光を放つ金貨は、タリンが三年の間に見た金額の合計より多かった。加えて、もしもタリンが海上の面会場までルカッサからある人物を連れてきたら、マーマンはもう9枚渡すと約束したのだ。タリンはオルヴェイダでの女帝の乾いた日々の暮らしを、朝の骨々の鈍い痛みを、妻の見せる常に打ち負かされたような表情を、そして、暖炉の火床の下に隠した金貨があれば、ここ数年の暮らしがどれほど安楽にすぎたであろうかを考えた。ぼさぼさ頭のアーボーグの戦争魔術師や、不格好な刺青をしたクーケムッサの私掠船の船長、湿った砂浜で足音も残さぬ闇のクロークをまとったマントの男と共に向かうとは思っていなかったのだ。もしもあのマーマンが来なかったら、ヤツラはどうするだろう? タリンはルカッサの明かりに目を凝らし、風化した壁の居酒屋での暖かみや喜び、そしてエールのことを思った。

クーケムッサ人がマーフォークたちに最初に気付いた。頭と胴がタリンが向かうよう言われていた小さな岩場の近くで波を割って突き出ていた。合図をすると、他のものたちが彼の方へやってきた。タリンは帆をたたんで錨を落とすと、水の中のペアを興味深げに一瞥した。どちらがリーダーであるかは明らかであった。がっしりと筋肉のついた胴と、キラキラ光る長い刃のついた槍を動かすと、宝石のような月明かりの光を放ちながら水滴が落ちた。彼は大柄なクーケムッサ人よりも大きく、胸は奇妙な模様を施された帯で巻かれていた。声は深く、豊かで音楽的であった。声音は丁寧で学識豊かであったが、確信と命令の口調を帯びていた。

「エトラン・シースの市民の名において、挨拶をいたします。私はAheeraq(アヒーラク)、エトラン・シース上院議会の後継者であります。今宵の会合に御出でくださり、ありがとうございます」

戦争魔術師はしゃがれ声だった。あたかも、戦闘の騒音の中で命令を叫びすぎたかのように。「俺はアーボーグのIsonidas(イソニダス)、魔術師であり戦闘隊長でもある」クーケムッサ人と、背の高い動きのないもう一方の魔術師を指し示した。「私の仲間で、Jelamau(ジェラモー)、クーケムッサの私掠船『波間を切り裂くもの』の艦長だ」嘲笑の雰囲気が声音に一瞬現れたが、中立的沈静さで続けると、それも大気へと消えた。「こちらがKhausiss(カウシス)、"Breathstealer(吐息の盗人)"の司祭だ。我々はそちらの示した高額な報酬に興味を持った訳だが、私の祖父たちの時代に女帝閣下が来て以来、あまりそちらの話は聞かんな。君の模様から、彼女の宮廷のものでないことは分かるが、一体何を我らにしてもらいたいのだ?」

タリンは"吐息の盗人"がこの場にいることを知り、船尾の方に縮こまった。イソニダスの言葉に、ジェラモーでさえ青ざめたように思えた。叔父は何年も前に"吐息の盗人"の事を語ったものだった。闇の、邪悪なもはや人でさえない者たち――永遠の命のため、他者の命を盗む者たち。たとえアヒーラクがこの物語を聞いていたとしても、外見的には取り乱したようには見えなかった。アヒーラクが仲間に合図をすると、ダウの真ん中にあるベンチに敷かれた真っ黒な絹の織物に手を伸ばした。包みが開かれると、おぼろげに光る真珠や月の炎を受けて煌くダイアモンドが、月明かりの中で青く輝く、沢山の金貨のまわりに散りばめられていた。ジェラモーは、くちびるをなめ、イソニダスは、微笑んだ。カウシスはまるで注意を払ってないようだった。アヒーラクが口を開くまで、動きもせず立ったままで、沈黙を保った。

「この富は本物ですが、同時につまらないサンプルでしかありません。ホマリッドが姿を消し、ヴォダリアが滅びて以来、われらは、さまざまな種族の宝を積んだ幾百もの船が浸水し、沈むのを見てきました。積荷は私たちにとってたいして面白いものではありませんが、おそらくあなたがたは大変関心があるでしょう。あなたがたには想像することしか出来ないような富ですが、その分私たちが見返りにお願いすることもまた、大変困難なことです」声が氷のような共鳴を帯びた。「私は人々が、隷属から開放されるところを見なければなりません。私たちは今一度、古代の階級制度を打ち壊し、そして上院議会を崩壊に追いやった女帝に、3000年前に受けるはずであった破滅の運命をあじあわせてやらねばならないのです!」

アヒーラクの怒りの噴出の後には、突然の沈黙が続いた。ジェラモーは片膝を落とし、光彩を放つ財宝に興奮しながら言った。「問題は片付いたと思ってくれていいぜ。深海の支配者にすぐになれるさ」目は宝石に釘付けで、声には餓えがあり、それはタリンに安全な酒場をもう一度思い出させた。「たとえ他のやつがやらなくても、俺は誰が加わるか分かってるぜ」ダイアモンドを指でかき回し、柔らかく言った。「喜んでな…」イソニダスは黒色の布に収まる魅惑的な財宝から目を離すと、ジェラモーを疑わしそうに見つめ、その視線をアヒーラクに向けた。「議員よ、何故に外部の助力が必要なのだ? お前こそが、人民の心を、槍を率いる者じゃないのか? ほんの僅かな古代の遺物がどうやって強力な文明を膝下にしいたのだ?」

アヒーラクはしっかりと見返して言った。「ヤツラの数は少ないかもしれません。だが、その魔力は巨大です。私たちは闘いましたが、ヤツラに匹敵するような力を全く持っておらず、勝てる見込みは全くありませんでした。私たちの魔法はあなたがたに水中でも呼吸を可能にし、暖めることはできますが、生きた珊瑚礁を吹き飛ばすことや敵の静脈を凍らせることは出来ないのです。悲しいことに、ヤツラの力は勇気を持たぬものを飼い慣らし、力を求めるものを惹きつけています。彼らの軍は恐るべき数です」間を置き、瞳に疑惑を浮かべた。「外部の助力を受ける意味がある今のうちにと、私はあなたがたのところに参ったのです。あなたがたがその力と技を、古代ヴォダリアの宮廷魔術師と戦い、そして打ち破るのに使って欲しいのです」長い静寂の中、戦士一人一人をしっかりと見据えた。タリンは自分に注意を向けられなかったことに安堵の吐息を漏らした。アヒーラクが鳴り響くような声音で沈黙を破った。「おなたがにはこれをやりぬく力を、強靭さを、そして意志を持っていますか? 見返りに私はここにあなたがたにお見せしたものの千倍もの財宝を用意しましょう」ジェラモーが答えようとすると、イソニダスが笑って遮った。風もないのに髪が乱暴にながれ、青い炎が指から指へと跳び、シューシュー音を立てながら滴り落ちた。足元の湿ったデッキでぱちぱちいっている。「俺は水の魔術師など恐れはせん。俺の炎でヤツラを取り巻く海水を沸騰させてくれる。誰も――」イソニダスは短い泡立つような叫びを聞きつけ、しゃべるのを止めた。

タリンは、闇の司祭がマント頭巾を後ろにやるのを、殆ど肉のついていない緑に燃える目をした顔を見た。骨張った腕が天に向かって伸ばされ、微光を放つ繊維が自ら裂けて司祭の命令のもと、突き進んだ。怒りのこもったシューシューいう音とともに海に滑り落ちていく。手を振ると、叫び声をあげるマーマンを捕らえた大きな黒い網が、暗い海面から蒸気を上げながら上がってきた。網に触れておらず、黒焦げになっていない部分の明るい模様が変化していく。激痛で身をねじり、苦悶の叫びを挙げた。カウシスが手を突然近付けると、網は突如無へと帰し、硬直したマーマンの血の断片が海へと沈んでいった。アヒーラクでさえ静寂が戻ると、硬直しているようだった。

"吐息の盗人"は彼に向き直り、塵と影の声で囁いた。「これからはスパイにもっと気を配るんだな。ヤツラは時に問題と…なる」目がイソニダスの方にちらりと向けられたようにタリンには見えた。"吐息の盗人"は言葉を続ける。「少なくとも、わたしはお前の申し出を受けよう。乗り越えられぬような困難があるようにも見えぬしな…」薄い唇を歪めて笑うと、後ろにやっていた頭巾を直した。緑の目は内から輝き、墳墓を思わせる声がむき出しのささやきとなった。「…殿」イソニダスはかつての仲間を思惑ありげに見たが、だれもしゃべろうとしなかった。アヒーラクは困惑したような目で彼らを見つめた。「これから五夜の間に、わたしはあなたがた三人と君たちの配下の者や船と会いたいと思う」もう一人のマーマンが、小さなずっしりとした財布をおびえて硬直していたタリンに放った。穏やかに揺れるダウや布の上に置かれた財宝を残して、二人のマーフォークは海に戻っていった。ジェラモーが宝を包んでいる間、イソニダスはスパイの死んだ、渦を巻く暗い水面を振り返った。タリンはゆっくり起き上がると、錨を引き上げ、帆を上げた。霧がまきはじめ、ルカッサの灯台の光は"吐息の盗人"の魔法によって漂う霧と霞の中、遠くにぼんやりとしていた。タリンは足元に置かれた小さな財布を一瞥したが、文句を言うような気には全くならなかった。今手にした金を生きて使いたいと思ったら、この様な者たちと共にいる時は注意深くいかねば。港へダウを戻す。タリンは、水夫として考えるべきことに意識を集中させるのであった…。