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極座標のラプラシアンの出し方いろいろ


「3次元の極座標のラプラシアンを計算せよ」
と言われると、経験のある人の多くが
「二度とヤダ

と反応するようだ。私も何度かやったことあるが、まじめに計算しようとすると確かにめんどくさい。


ラプラシアンとは??


 ラプラシアンというのは、3次元直交座標系であれば、
∆ = 2
∂x2
+ 2
∂y2
+ 2
∂z2

(1)
である。単純に言えば「3方向の2階微分を足したもの」ということになる。
 あるいは、ナブラと呼ばれるベクトルを



 
=
e
 

x 


∂x
+
e
 

y 


∂y
+
e
 

z 


∂z

(2)
と定義して(ex,ey,ezはそれぞれx,y,z方向の単位ベクトル)、∇·∇のように自乗(スカラー積)と定義しても良い。
 極座標でのナブラは、



 
=
e
 

r 


∂r
+
e
 

θ 

1
r


∂θ
+
e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ

(3)
と書かれている。なぜ



 
=
e
 

r 


∂r
+
e
 

θ 


∂θ
+
e
 

φ 


∂φ

(4)
じゃないのかというと、ナブラにおける微分は任意のベクトルをaとして、


a
 
·

 
f(
x
 
) =
lim
h→0 

f(
x
 
+h
a
 
)−f(
x
 
)

h

(5)
と定義されているからである。aとして単位ベクトルを取るとすると、この式の右辺はa方向にhだけ離れた2点での差を取るという計算である。一方、θ方向にh進むためには、θをh/rだけ変化させなくてはいけない。φ方向ならば、φを[h/rsinθ]変化させなくてはいけないのである。よって、単なる[∂/∂θ]ではだめで、


e
 

θ 
·

 
f(
x
 
)= 1
r


∂θ
f,     

e
 

φ 
·

 
f(
x
 
)= 1
rsinθ


∂φ
f
(6)
であるべきなのである。r∆θ,rsinθ∆φが「距離」という意味合いを持っていることを考えば、こうなることは納得できる。
 これを自乗すると、ベクトルの内積を取って、



 
·

 
= 2
∂r2
+ 1
r2

2
∂θ2
+ 1
r2sin2θ


∂φ2

(7)
となると思いたいところだが、そうならない。実際には、
∆ = 1
r2


∂r

r2
∂r
+ 1
r2sinθ


∂θ

sinθ
∂θ
+ 1
r2sin2θ

2
∂φ2

(8)
または、
∆ = 2
∂r2
+ 2
r


∂r
+ 1
r2

2
∂θ2
+ 1
r2
cotθ
∂θ
+ 1
r2sin2θ

2
∂φ2

(9)
となるのである。
 いったい、この余計な部分はどこから出てくるのだろう。学生の頃から不思議でしょうがなかった。
 そこでこの項目では、ラプラシアンの計算法の少し楽な方法を示すと同時に、「余計な部分はどこから来たのか?」を考えることにしよう。

 ほんとは「こうやれば簡単に出る!」という方法を伝授したいところなのであるが、「簡単」と言いきれるほどには簡単に出ない。しかし、少なくても、「なぜ単純に自乗してはいかんのか」ということを実感することはできる。

第1の方法:変分法を使え。


 一つの考え方として、「物理で使う計算方法で座標変換に強いものといえば?」と考えてみよう。答は「変分法」である。そこで、変分法を使って、ポアッソン方程式
∆f = ρ
(10)
が出るような「作用」を考えてみる。直交座標ならこれは簡単に作れて、

dx dy dz 1
2


∂x
f 2

 
+ 1
2


∂y
f 2

 
+ 1
2


∂z
f 2

 
+ρf
(11)
である。または、

dx dy dz 1
2


Σ
i 
(∂i f)2+ρf
(12)
と書いてもいいだろう。ここで、∂1=[∂/∂x],∂2=[∂/∂y],∂3=[∂/∂z]である。Σiはもちろん、i=1,2,3の和を取る。
この作用からオイラー・ラグランジュ方程式をつくると(10)になる。この計算を少しまじめに書いておく。オイラーラグランジュ方程式を作るには、作用のφにφ+δφを代入したものを作り、それから元の作用を引く。そうしておいて出た答えのδfの一次までを取り、それが0になると置く。これを実行すると、



dx dy dz 1
2


Σ
i 
(∂i( f+δf) )2 +ρ( f+δf)
dx dy dz 1
2


Σ
i 
(∂i f )2 +ρf
=

dx dy dz
Σ
i 
i(δf)·∂i f+ 1
2


Σ
i 
(∂i (δf))2+ρδf
=

dx dy dz
Σ
i 
i f·∂i(δf)+ρδf
=

dx dy dz −δf
Σ
i 
ii f+ρδf

(13)
となる。最後の行では部分積分を使った。これが任意のδφに対して0となるためには、Σiii f−ρ = 0でなくてはならない。
では、この計算を極座標でやるとどうなるだろうか??
記号∂iを、∂1=[∂/∂r], ∂2=1/r[∂/∂θ], ∂3=[1/rsinθ][∂/∂φ]とおくことにする(この記号は一般的に使われているものではないので注意。この項目の説明に関してはこういう記号を使った方が楽なのである)。すると、作用を直交座標の場合と同じように

dr dθdφr2sinθ 1
2


Σ
i 
(∂i f)2+ρf
(14)
と書くことができる。
この式からオイラー・ラグランジュ方程式をつくると、直交座標と同様の計算になるように思うかもしれない。しかし、最後の部分積分で直交座標と極座標の差が出るのである。なぜなら、極座標の場合、積分要素はdxdydzではなく、drdθdφr2sinθである。ゆえに、作用の変分は



dr dθdφr2sinθ
Σ
i 
i(δf)∂if+ρδf
=

dr dθdφ −δf
Σ
i 
i(r2sinθ ∂if)+r2sinθρδf
=

dr dθdφr2sinθ −δf 1
r2sinθ


Σ
i 
i(r2sinθ ∂if)+ρδf

(15)
となる。

 ここで、部分積分によってδfについていた ∂iをfの方につけかえているが、それは一般の場合でもやっていいのか、例えば∂2の前には1/rがあるのに部分積分に問題はないのか、という質問があった。まず、極座標の場合は心配ない。∂2=1/r[∂/∂θ], ∂3=[1/rsinθ][∂/∂φ]のどちらも、微分と前についている係数([∂/∂θ]と1/r、[∂/∂φ]と[1/rsinθ])は交換するからである。
 一般の座標系でOKかというと、それは座標系による。たとえばシュワルツシュルト計量の場合はこのままではだめ。


 括弧内をδφで割って、
1
r2sinθ
i(r2sinθ∂if)+ρ = 0
(16)
が極座標でのポアッソン方程式だということになる。この式の第一項は−∆fである。 ∆とはつまり、
  1. iをかけて微分して、
  2. r2sinθをかけ、
  3. もう一度∂iをかけて微分した後、
  4. r2sinθで割る。
  5. iで和を取る。
という計算なのだ。i=1では、

1
r2sinθ


∂r

r2sinθ
∂r
f = 1
r2


∂r

r2
∂r
f
(17)
という計算になる。sinθはr微分を通り抜けるから、関係なくなる。同じことをi=2,i=3でやると、

1
r2sinθ

1
r


∂θ

r2sinθ 1
r


∂θ
f
= 1
r2 sinθ


∂θ

sinθ
∂θ
f
(18)


1
r2sinθ

1
rsinθ


∂φ

r2sinθ 1
rsinθ


∂φ
f = 1
r2sin2θ

2
∂φ2
f
(19)
となる。i=1,2,3で和を取れば、求めたかった極座標のラプラシアンのできあがり。
 結局おつりの出る理由は、
直交座標の体積積分はdxdydzだが、極座標ではdrdθdφr2sinθであって、部分積分の時にr2sinθがひっかかる。
ということで納得できる。

 この方法は任意の曲線座標で使える。と書いていたが、条件が一つあることが後でわかった。

 他の座標系でもこの方法は使える。
 たとえば、三次元円筒座標を使うならラプラシアンはdxdydz=drdθdz rであり、∂1=[∂/∂r],∂2=1/r[∂/∂θ],∂3=[∂/∂z]である。この場合も、各々のの微分∂iの中の微分と、その前についている係数は交換するから、上と同様の計算ができる。

 なお、∂iの中の微分と、その前についている係数は交換しない場合は、その点を注意しながら部分積分をやり直せばよい。少し手間が増えるだけで同様の計算は可能。
 
∆ = 1
r


∂r

r
∂r
+ 1
r2

2
∂θ2
+2
∂z2

(20)
となる。
 このようにして一見変なおつりが出てくる理由をちゃんと理解してしまえば、どんな曲線座標が出てきてもラプラシアンがどうなるかはすぐにわかるはずである。

第2の方法:ちゃんと基底ベクトルも微分しろ。


 では次にもう少しストレートな方法で「なぜ単純に自乗しちゃいかんのか?」を考えよう。とりあえず、∇の自乗というのをまじめに書いてみると、


e
 

r 


∂r
+
e
 

θ 

1
r


∂θ
+
e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ
·
e
 

r 


∂r
+
e
 

θ 

1
r


∂θ
+
e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ

(21)
となる。この式をみて早とちりのあわてものが「er,eθ,eφは互いに直交して長さが1だから、er·erのような同じもの同士の内積を残して計算すればいい」とやってしまうと、



 
·

 
= 2
∂r2
+ 1
r2

2
∂θ2
+ 1
r2sin2θ


∂φ2

(22)
となるが、実際には
∆ = 2
∂r2
+ 2
r


∂r
+ 1
r2

2
∂θ2
+ 1
r2
cotθ
∂θ
+ 1
r2sin2θ

2
∂φ2

(23)
と、この早とちり計算法では出てこないおつり(緑で書いた)が出てきたものが正解である。
 この早とちり計算法は何がまずいのだろう???
 ここで「左にある微分は、右の括弧内を微分しないのか?」ということに気がつけば正解に一歩近づく。たとえば最初にある[∂/∂r]が、後ろにある1/rを微分したら??
 この部分からおつりが出てくるのでは?と一瞬期待するが、ここからは出ない。確かに [∂/∂r](1/r)=−[1/(r2)]となるが、この項はeθに比例している。一方[∂/∂r]はerに比例しているから、内積を取ると0になって効かない。[∂/∂θ],[∂/∂φ]も同様である。
ここで「じゃあやっぱりおつりは出ないじゃないか」と落胆してはいけない。θ,φに依存するものは他にもあるのである。あからさまに書いていないものだからつい見落としがちなのだが、実はer,eθ,eφは場所によって違う方向を向いているので、その微分は0ではない場合があるのである。

e_r,e_θ,e_φのイメージ
 では以下で一つずつおつりの出方を確かめよう。まず第1項のer[∂/∂r]の部分。この部分はおつりを出さない。なぜなら、er,eθ,eφの全てが、r方向に移動しても向きが変わらないからである。
 第2項のeθ1/r[∂/∂θ]については、 erのθ微分は0ではないことが以下のようにわかる。図にあるように、θが∆θ変化すると、新しいer新(図では、赤で書いているのが新らしい方)は元のベクトルで書くと、


e
 

r新 
= cos∆θ
e
 

r 旧 
+ sin∆θ
e
 

θ旧 

(24)
となる。これから、er新er旧を計算して∆θで割ってから∆θ→0の極限をとれば、


∂θ


e
 

r 
=
e
 

θ 

(25)
である。lim∆θ→0cos∆θ = 1に注意。

 なお、別の計算方法としては、


e
 


= 1
r

x
e
 


+y
e
 


+z
e
 


= sinθcosφ
e
 


+sinθsinφ
e
 


+ cosθ
e
 



(26)
と書き表しておいてθで微分するという方法もある。やってみると、


∂θ


e
 


= cosθcosφ
e
 


+cosθsinφ
e
 


− sinθ
e
 



(27)
であって、これはeθである。

 つまりは、

e
 

θ 

1
r


∂θ

e
 

r 


∂r

から、

e
 

θ 

1
r


e
 

θ


∂r


となって、さらにeθの内積を計算して、
1
r


∂r


というおつりが出ることになる。

eθをθで微分すると答えは −erになる。よって、

e
 

θ 

1
r


∂θ
·
e
 

θ 

1
r


∂θ

は、

-
e
 

θ 

1
r


e
 

r

1
r


である。しかし、今計算しているのはeθと内積をとることになる部分なので、ここは効かない。eφとはθで微分しても変化しないから答えは0である。

 次に、左の括弧内の微分

e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ

が後ろにかかるとどうなるかを考えてみる。同じように図を描いて考えるなりしてみれば、


e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ

e
 

r 


∂r

のところからは、

∂φ

e
 

r 
=sinθ

e

φ

が出るので、結果は

1
r


∂r

というおつりが出る。

 また、



e
 

φ 

1
rsinθ


∂φ

e
 

θ 

1
r


∂θ

からは、


∂φ

e
 

θ
=cosθ

e

φ


のおかげで、


e
 

φ 

cosθ
rsinθ


e
 

φ

1
r


∂θ

  すなわち、


cosθ
r2 sinθ


∂θ


というおつりが出る。以上、3つのおつりをあわせると、正しいラプラシアンのできあがり。

 こちらの方法で、なぜおつりが出るのかという理由は

基底ベクトルが場所によって違う方向を向いているから、微分しても0じゃないことを忘れるな!

とまとめられるだろう。


第3の方法:一般相対論の公式(参考までに)


ちなみに、一般相対論になじみのある人ならば、
∆ = gμνμν = gμνμν+gμνΓρμνρ
(28)
と共変微分を使って定義やればおっけい。ちなみにここでの∇μはいわゆる共変微分で、Γρμνはクリストッフェル記号。もっとも、一般相対論になじみのある人は少ないし、なじみがあったとしてもクリストッフェル記号をささっと計算できる人は少ないだろう。しかし、
gμνΓρμν= 1

  __
−g
α
  __
−g
 
gαρ
(29)
ということを知っていると、
∆ = 1

  __
−g
μ
  __
−g
 
gμνν
(30)
と書き直せることがわかって幸せである。実は一般の座標系でこの式を計算すればラプラシアンが出せる。このようなラプラシアンを出す作用は、


dV
  __
−g
 
gμνμ f ∂ν f
(31)
である。

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File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.が出力したものを手で編集してます。
On 17 Sep 2005, 19:24.