1848年のこと、マーガレット(当時8歳)とケティ(当時6歳)のフォックス姉妹が、自分たちの寝室で不思議な現象が起きている、と言い出しました。それはどこからともなく聞こえてくるコツコツという音です。その音はやがて、質問に対して「イエス」なら音一回、「ノー」なら無音で答えるようになりました。後にはアルファベットの数だけ音を出すことで単語を伝えることができるようになり、自分は31歳の時に殺された男の霊である、と打ち明けました。姉妹はこの交霊術を一種の見せ物として興業しました。一晩で150ドル(当時は大金)集まったこともあるそうです。ではこの時、学者による調査はあったのでしょうか。もちろんありました。1851年にはすでにバッファロー大学のフリントたちが何度か検討を行い、「音は関節の動きで出されている」と結論しているのです。その後のペンシルバニア大学の実験では、マーガレットの足を固定すると音が全く出なくなることが報告されています。
ところがこの交霊術に関する関心は収まることなく、次々に「自分は霊を通信できる」という交霊術師が現れ、大流行状態になりました。そしてすっかり浸透していくのです。先述のクルックスたちが心霊術の研究に没頭するのもこの頃です。クルックスは交霊術をほんものだと信じていたようです。
後に、フォックス姉妹はこの音が自分の足の関節を鳴らして出していた音だ、ということを認めました。最初はふざけ半分でやっていたのに、近所中で評判になったものだからいまさらインチキとはいえなくなってしまった、と言うのです。これで「なんだデタラメか」となってしまわないのが人間というものの面白いところで、へンリー・ニュートンという人物などは
ラップ音が足の関節で出せるという発想自体が馬鹿げている。彼女自身の交霊会についての発言だとしても、これは嘘である。なぜなら、私自身も、信頼できる社会的地位にある多くの人々と共に、彼女たち姉妹のすることを実際に見ているからである。あれがインチキだなど、断じてあり得ない
『ニッケル博士の心霊謎解き講座』(望月美英子訳) の中の引用 よりとまで言っています。人間がいかに自分がだまされていたことを認めたがらないかということを、このへンリー・ニュートンの言葉は教えてくれます。今度はフォックス姉妹は、「関節で音が出せる」という実験会を各地で開催しました。そうやって少々儲けた後、今度は「あの告白はでたらめだった」と宣言し、また同じように心霊術の興業をやっていたそうです。
以上、実は心霊術というものがその始まりからかなりうさんくさいものであったことがわかると思います。ところが、現在でも出版されている本の中には、この幽霊が立てたとされる音のことを「ラップ現象」などと、いかにも根拠があるかのごとく紹介しています。TVなどでフォックス姉妹の話が紹介される時は、(おそらく意図的に)フォックス姉妹本人が後にトリックだと認めたことには触れられないことが多いです。TVのような、よりセンセーショナルに演出しようとする媒体から得られる情報には、こういうフィルターがかかっている可能性があることに注意する必要があります。
もう一つ注意しておくべきことは、このフォックス姉妹はインチキではないか、という指摘に対し、「彼女らのような純真な子供が嘘をつくとは思えない」という弁護が見られたことです。ところが、実際にはこういう幽霊や超能力が関与する騒動では、子供が嘘をついて(純真な?)大人がだまされた、というケースの方が圧倒的に多いのです。
告白よりも前に、学者たちによる「インチキである」という研究結果が発表されていることにも注意してください。ところがこういう報告があっても、すでに信じてしまった人には全くきかなかったようです。