この「回転がないボールは、回転のあるボールに比べて落ちやすい」ということ
を積極的に利用したのが野茂や佐々木の決め球であるフォークボールという変化
球です。フォークボールは人指し指と中指でボールをはさんで、指と指の間から
抜くように投げます
。この結果フォークは回転が
遅く、上向きのマグナス力があまり発生しないので、ストレートよりよく落下し
ます。打者がストレートが来たと思って振ると、ボールがはるかその下を通過す
る、ということになります。
バッターが打った球に関しても、同様の現象が起きます。ボールの下をバットで 叩いた打球は毎分2000回転以上の回転をして飛ぶので、回転がないボールよりよ く飛ぶことになります(意識して回転を与えるのをバックスピン打法などと呼び ます)。
ナックルは、フォークボールよりもさらに回転を少なくして投げる球です。ナッ クルの場合は親指と小指以外の指を曲げてボールを弾く姿勢をとらせてから投げ、 投球の瞬間にストレートで起る回転と逆の回転を起こさせようというつもりで指 を弾きます。うまく力を加減すると、ボールの回転は毎分2分の1回転(ほとん ど止まっている)ぐらいまで遅くすることができます。このように遅いボールは フォーク同様落ちます。しかしナックルの威力はそれだけではありません。落ち るだけではなく、左右にふらふらと揺れるような動きをします。理由はボールが 完全な球ではないせいです。ボールには縫い目がついているので、縫い目がどの ような位置にあるかによってボールには不規則な力が働きます(回転している場 合は、回転によって平均化されてしまうので、一定方向の力になる)。このため、 ナックルは投げた本人にもどっちに曲がるかわからない、という本当の魔球にな ります。
野球のボールにあの108個の縫い目をついていること、ボールの重さをちょうど 150キロで投げるのが限界になるような重さになっていることが、野球という競 技を非常に面白くしている、ということが物理的考察からわかります。もちろん、 野球を始めた人はそんなことを考えてもみなかったであろうと思われますが。