next up previous
次へ: ブラウン運動 直接的証拠がそこにあった! 上へ: 熱とはなにか 熱素からエントロピーへ 戻る: 古代から近世での熱 実体のある物質か?

熱は粒子の運動

ところが、このように「熱は物質である」と考えると、どうしても説明できない ことがあります。それは、摩擦によっても熱が発生するということです。18世 紀頃になると、実験から摩擦によっていくらでも熱が発生することがわかりはじ めます。カロリックが熱なのなら、カロリックをどんどん出していけば、いずれ 熱が発生しなくなってしまうはずです。ところで永久機関の話でも少し述べまし たが、摩擦があるとエネルギーに損失が生じます。ということは、エネルギーと 熱の間にはなんらかの関係がありそうです。

熱がエネルギーと関連しているものであるという考え方は、後に分子や原子とい う考え方と結び付きます。この頃から哲学者であるベーコンは「熱は粒子の運動 の結果である」と主張し、カロリック説に反対していました。19世紀にはマッ クスウェルやボルツマンらが分子運動による熱の考え方を積極的に研究し始めま す。

分子運動の考え方をする人にとっての熱の考え方はこのようなものです。温度が 高いということは、分子運動が激しい(分子一個一個の運動が速い)ということ です。逆に温度が低いということは分子運動がゆっくりしているということです。 高温の物体と低温の物体を接触させておくと等温になる、という現象は、これま では「熱が流れた」と考えてきましたが、分子運動の考え方では、「速い分子が 壁に衝突して壁を揺らす。揺れた壁にぶつかった遅い分子は加速される」という 現象が起きていると考えればよいことになります。

\begin{wrapfigure}{l}{10cm}
\epsfxsize =10cm\epsffile{netsuundo.eps}\end{wrapfigure}

つまり、熱の正体は物質の持っているエネルギーの移動だったということがわか りました。この分子運動の持つエネルギーを内部エネルギーと呼びます。摩擦が あるとエネルギーが保存しないと言いましたが、実はこの内部エネルギーも含め て考えればエネルギーはちゃんと保存しています。「摩擦によってエネルギーが 失われる」と思っていましたが、実は「摩擦によって温度が高くなる(内部エネ ルギーが大きくなる)」という現象が同時に起きているので、トータルのエネル ギーは減っていないことになります。実は熱がエネルギーに対応していること自 体は、1843年にジュールの実験によって示されていました。分子運動論の考え方 は、このようにエネルギーと熱が同じであるということに明確な説明を与えたこ とになります。

同じ体積の中に閉じ込めた場合、温度が高くなるほど圧力が高くなることがわかっ ていましたが、その理由も、「分子がより速い速度で走り回り、壁をよく叩くか ら圧力が高くなる」ということだと考えることができます。つまり、分子運動論 は熱の正体だけではなく、空気の圧力の正体も暴いてしまったわけです。

18世紀の気体の膨張の研究から、0度から始めると1度ごとに気体の体積が ${1\over273}$ずつ減っていくことがわかっていました。ということは、マイナ ス273度になったら気体の体積が0になってしまうことになります(実際には、 そうなるまえに液体になるのが普通です)。この意味も分子運動論では簡単に理 解できます。温度を下げるということは分子の運動を遅くしていくことと同じで す。すると、ある温度に達すると分子が完全に止ってしまうのでは、ということ が考えられます。マイナス273度というのは、実はこのように分子が完全に止っ てしまう温度なのです。そこで、この温度を0度とする温度目盛りが作られ、最 低温度を絶対零度と呼ぶようになりました。

実際に分子運動こそが熱の正体であるという証拠はなかなか見つからなかったの ですが、実は1827年に植物学者ブラウンが見つけたブラウン運動こそ分子運動に よるものだったことがわかり、分子の運動が確かめられました(現在では、分子 の速さを直接測るようなこともできています)。



Masahiro Maeno 平成14年3月15日