最後にアリストテレスの弁護をしておきましょう。今日の話の中では彼の間違っ ている部分だけを強調してきたので、「間違ったことがずっと信じられる原因を 作った」という点で、ついアリストテレスをマイナス評価してしまうかもしれま せん。しかし、彼が今日述べたような結論に達した最大の理由は、当時の観測や 実験が不足だったことです。観測や実験の成果が乏しいために、間違った結論が 「とりあえず正しいと思えること」として認知されるということは別に珍しいこ とではありません。
実際、ニュートン力学はこの後200年の間「正しい」と信じられてきましたが、 20世紀に入るとアインシュタインの手で修正されます。ニュートンの時代には観 測にかからなかったような、ニュートン力学では説明のつかない現象が発見され たからです。そうなったからといって、ニュートン力学が死んでしまったわけで はないし、ニュートンの業績が0になったわけでもありません。ニュートンの力 学は今でも日常生活のレベルでは十分役に立ちます。同様にアリストテレス的考 え方も、全部が否定されたわけではないし、科学的な思考の方法を確立するとい う点で、アリストテレスは大きな貢献をした、と言うことができるでしょう。ア リストテレスが天上の世界と地上の世界は違う物理法則が支配していると考えた ことなどは、今の目から見ると妙に思えます。それはいわば「思い込み」に過ぎ なかったわけです。しかし、ガリレオやニュートンの考え方の中にも「思い込み」 はあります。そして、たぶん今「とりあえず正しいと思えること」の中にも。我々 はこれらの過去の教訓から、いかにして自分の思考の中から「思い込み」を排除 していくべきかを学ぶべきでしょう。