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科学と疑似科学--血液型人間学の例

一般に広く浸透している疑似科学の例として、血液型人間学というものがありま す。血液型によって人間の性格が分類できるというもので、A型の人は几帳面、B 型の人はマイペース、O型の人はおおらか、AB型の人は二重人格などと言われま す。このような血液型によって性格分類ができるという話は、1971年に能見正比 古が「血液型でわかる相性」という本で世間に広めてから、日本ではなかば常識 のように言われています。

ところが、心理学者によるまじめな調査では、全く性格と血液型の間に相関はみ られないのです。「学者はどうせ嘘だと思って調べるからじゃないの」という反 論がよくあるので歴史について説明しておきます。血液型と性格に相関関係があ るという話は、もっとも古くは昭和2年に古川竹二(女子師範学校の教授)が論文 で発表したもので、これは肯定的な結果が出ていました。つまり、学者による血 液型人間学は、最初は肯定から始まったのです。ところが、「それはすばらしい」 ということで同じ研究方法で他の研究者や公的機関(その中には、部隊の編成に 血液型を考慮しようとした、軍も含まれています)が調査すると、データが集ま るに従って「血液型と人格には何の関係もない」という結果が出てきてしまいま した。当時300以上の論文が書かれたと言いますから、「学者は調べもしないで 否定する」という反論も間違いです。後に1980年代にも非常に多くのデータがと られていて、それでもまったく相関が出てこなかったのです。能見氏はこの古川 理論がとっくに否定されたのち、古川氏よりもずっと杜撰な調査でいかにも血液 型と性格に相関があるかのごとくデータを作って本を書いたということになりま す。

では、なぜ学者が行うと出てこない相関が、「血液型人間学」などの著者が調査 すると出てくるのでしょうか。いくつか理由があります。

少なすぎるデータで判断する
「プロ野球のホームラン数ベスト10にはO型とB型が多い」というたぐいです。たっ た10人では意味がありません。日本人の4割がA型で、この10人の中 にA型は一人しかいません。こうなる確率は1.6%とたしかに小さい のですが、100ぐらいのいろんな分野のベスト10を調査すれば、一 回ぐらいはこういうデータが出てきて当然だと言えます(これは次 の項目とも関係します)。
都合のいいデータだけ示す
たとえば「政治家はO型が多い」という話を、衆議院議員のデータから判断して いる本があります。ところが、その当時の参議院議員ではそんなこ とはありません(時代が変われば、衆議院議員でもそんなデータは 出ません)。たくさんデータを集めれば、自分の説に都合のいいデー タと都合の悪いデータが出てきます。悪いデータは本に書かなけれ ばいいのだから、楽なものです。
片寄ったデータで判断する
同じ本の著者ですが、前にだした本のアンケートハガキの結果から、「こんなに 私の理論は当たっている」と次の本に書いています。しかし、本を 読んでアンケートハガキを送ってきたということはその本に好意的 な読者である場合が多いので、公正なデータとは言えません。

「そんなこと言うけど、実際当たっているよ」と考える人もいるかと思います。 それはそうです。当たっている場合もあるに違いありません。どの程度当たって いるか、また、本来どの程度当たるべきなのか、数字をあげて検証しないと、一 人一人が「当たってるような気がする」とか「当たってないような気がする」と 言っているだけでは意味がないのです。もともと人間はジンクスや占いなどに関 しては当たっていた(自分の考えに即している)ことはよく覚え、当たっていなかっ た(自分の考えに即してなかった)ことは忘れる傾向があります。

古川氏の論文では、数字をあげてちゃんと根拠を示し「血液型と性格には相関が ありそうだ」と結論していました。数字をあげて評価したことがこれに続く研究 者の研究を容易にして、逆に数字的に否定しやすくなったということになります。 結果として否定されたのは古川氏にとっては残念でしょうが、このような真面目 な研究態度が、科学であるためは大事なのです。

心理学者は、血液型が性格と関係ないことがわかってしまったので、次に「なぜ 関係ないのにみんなが信じてしまうのか」ということを研究しています。その一 人の大村政男は「FBI効果」という言葉で現象を説明しています。

F:フリーサイズ
「ある血液型の特徴はこれこれである」という記述が実は誰にでも当てはまって しまうようなものであるため、読んだ人が「当たった」と思ってし まう。実はこれはバーナム効果と呼ばれていて、血液型に限らず、 あらゆる性格診断で起ることなのだそうです。

B:ラベリング
「これがA型の特徴です」と言われてからA型の人を観察すると、そのラベルに引っ 張られてその人を判断してしまう。大村はこれを確かめるために、 各血液型の特徴をわざと間違えて人に教えて、どう回答するかを調 べたところ、確かに人がこれにだまされる(B型の特徴をA型の性格 だと教えてからA型の人を観察させると、その特徴を持っていると 証言する)ことがわかりました。
I:インプリンティング
最初に「当たっている」と思うと、その経験が刷り込まれ、そういう行動を取っ てしまう。つまり「自分がそういう性格だと気づいてしまった」と いう状況。能見氏の本を読んでアンケートハガキを出すような人は この効果にはまっている可能性大ということになります。

しかしこれらFBI効果よりももっと重要なのは、結局のところ「性格を簡単に分 類する手段が欲しい」という欲求ではないかと思われます。「真面目に人物を検 討して考えるよりも、楽をしよう」という気持があるから、「こうやると簡単で すよ」という`理論'(理論らしきもの)が与えられると、無批判に信じてしまう。 単に占いの一種として、座興の一つとして「血液型」を話題にするのなら問題は ありません。たとえば星占いだって非科学的ですが、「所詮占いなんて、あたる も八卦当たらぬも八卦」という考え方がありますから、被害もそうありません [*]。 「真面目に人物を検討して考えるよりも、楽をしよう」という気持も、その場限 りのお話に使うのなら、それでいいでしょう(TV番組や雑誌などでよくある「心 理テスト」の類いなどもそうですね)。しかし、「血液型による性格分類は科学 的である」と思い込んで、それを企業の採用や職場の配置(古川理論の時にも、 軍がそういうことをしようとしました)にまで血液型を考慮するなどという実例 もあり、これなどは人種差別と同様の非科学的根拠に基づく差別であると言えま す。たまたま生まれつき血液型がB型だったせいで管理職につけないという企業 があったとしたら、それは黒人は管理職につけないという差別と何ら変わるとこ ろがないと思いませんか?[*]



Masahiro Maeno 平成14年3月15日