現実には亀を追い越すことなどアキレスでなくても楽々できますから、この話は どこかに嘘があるに違いありません。
簡単のために、アキレスの走る速さを亀の10倍とします。そして最初、アキレ スは亀より1メートル後ろにいたとしましょう。アキレスが最初に亀のいた位置 に来た時、亀は0.1メートル前にいます。そしてその場所にアキレスが来た時、 亀はそこよりさらに0.01メートル前にいます。こうしていくら考えても亀に追い 付くことはできない--とゼノンは言うわけですが、ここでよっく考えてくださ い。
亀の位置を、最初にいた位置からの距離で表すとすると、
というふうに増えていくことになります。すると亀のいる場所
はこの無限回の操作が終わったあとでも、
と、1がどこまで
も続く数字で表される距離より前にはいきません。つまりここで追い付くことに
なります。
しかし、無限回の操作をしないと追い付かないのでは、やはり追い付けないので は?--と思う人もいるかもしれません。でも心配は無用です。心配なら、この 無限回の操作にかかる時間がどれだけかを考えてみればいいのです。たとえば亀 が1メートル進むのに10秒かかるとしましょう。すると最初の位置までに10秒か かります。次の位置(1.1メートルの位置)につくのは、それに1秒足して11秒 後。その次の位置(1.11メートルの位置)につくのは、11.1秒後。
もうおわかりでしょう。亀が
秒歩いた時、アキレスは追い付
きます。
この計算は、亀の速度がアキレスの速度以下である限り(そうでなかったら永遠
に追い付かない)、かならず有限な答を出します。たとえば亀の速度がアキレス
の半分だったなら、
と
なりますが、この和は1を決して超えません。
結局、この「1回め」「2回め」
という操作の回数が無限回になるとい
うことと、「時間が無限にかかる」という二つの「無限」をごっちゃにしてしまっ
たことが間違いだったのです。アキレスと亀のパラドックスはこのように、「無
限回の操作を行っても、それに必要な時間が無限ではない」ということから解決
されます。