「短編推理小説」

美容室グローバル殺人事件



目次

プロローグ


プロローグ


保子は寝つきがいいほうなのだが、その日は妙に眠りが浅くて目が覚めているのか夢を見ているのか判然としない、朦朧とした状態のまま何度も寝返りを打った。
突然「みしっ」「みし、みしっ」と何者かが階段をゆっくりと下りてくる音がしたので、どきっとした。人間の足音というよりも、四つんばいになって這いまわっているような音に聞こえた。
「変ねえ?2階にはお義母さまが寝ているだけなのに?お義母さまかしら?」
保子の義母は1年前から寝たきりの状態で、まる1年以上も2階から自力で1階に下りてくることなど出来なかったのだ。思わず独り言を言ってしまった。
「みし、みしっ」「みし、みしっ」という階段の音が近づいてくる。
「ふふん」娘が嘲笑った。良く見ると確かに自分の娘なのだが、顔が異様に青白い。なぜか髪もおかっぱである。
「おばあちゃんは、昨日死んだじゃないか。」声は娘の声だが、言葉遣いはまるで大人だ。しかも対等だ。
果たして、そう言われてみれば義母は昨日亡くなったような気がした。義母の遺体をそのまま2階に放って置いたような気がしてきた。
「じゃあ、死んだお義母さんが、階段を下りて来るの?」自分でも声が震えているのが分かった。
「今に分かるよ」娘は冷たい声で答えた。
「みし、みしっ」「みし、みしっ」ますます音が大きくなり、はっきりと聞こえる。保子の家族は全員一階に居る。明らかに得体の知れない怪物がゆっくりと1階に這い下りてくるような感じだった。
「みし、みしっ」「みし、みしっ」ゆっくりだが着実に音が近づいている。
誰だろうと思ってもこの状況では何も思い当たらなかった。
「ずるっ」「ずるっ」ついにそれは階段を下りきって、寝室の前の廊下を這っているらしい。
「ほら、もうそこまで来たよ。あははは…」
娘は笑い出した。気が狂ってしまったのだろうか?
保子はその場から逃げ出そうとしたが、全身が金縛りにあって身動きが出来ない。急に胸が押さえつけられたように息苦しくなってきた。手も足も硬直したように動かない。
寝室の扉ががたがたと音をたてたとき、恐怖のあまり悲鳴をあげたのかもしれない。気が付けば保子はベッドから体を起こそうとしていた。真冬なのに全身びっしょり冷汗をかいていた。隣に寝ていた夫が、「どうした?保子。」「何か悪い夢でも見てたのか?」と声をかけてきた。
柱時計が「ぽーん、ぽーん、ぼーん」と3つ鳴った。
「夢だったか」ほーっと息を吐いて、深呼吸した。夢にしては妙にリアルだった。

次の日も全く同じ夢を見た。保子は寝るのが怖くなった。
3日続けて同じ夢を見た。そして、義母は亡くなった。不思議なことにそれ以降この夢を見ることは無くなった。


TOP | プロローグ | BBS | NEXT|