第3話 「コブラとマングースの決闘」に秘められた謎

「コブラ対マングースの決闘」というアトラクションというかイベントを見たあるいは聞いたことがあると思います。沖縄の方は「ハブ対マングース」ですかね。私は、この「コブラ対マングースの決闘」について、子供の頃、いつも疑問に思っていたことがあります。それは、「決闘の後、マングースはどうなるのか」ということです。

主催者だって、そんなにたくさんのマングースを準備できるものではないと思うのです。しかも、本当か嘘かは知りませんが、時々マングースが負けるという話も聞いたことがあります。そうでなくても、マングースだってコブラやハブの攻撃を受けているわけですから、致命的な傷を受けることも十分考えられます。逆に、コブラやハブだって、マングースにかなりの確率でやられるわけですから、たまったものではないでしょう。ショーの度に、コブラやハブたちは、「次は俺(私)では?」と恐怖におののく日々を過ごしているに違いありません(なわけねーだろ、と誰かがつっこむ)。

当然、ショーなのですから、マングースが死なないように、コブラやハブの毒は抜かれているのでしょう。でなければ、マングースが何頭いても、足りません。大人となった今は、そのくらいのことは容易に想像できますが、幼かった当時の私には、不思議でなりませんでした。そんな思いから、高校生の時に作ったお話を、リメイクしてお届けします。一部、20年近く前にブームになったものも登場しますが、その点はご了承ください。

はじめにお断りしておきますが、これはあくまで「フィクション」(ハクションではない)であり、完全に「想像」の世界のお話です。また、動物愛護の観点から、各地でコブラやハブとマングースの決闘ショーを取りやめる動きがある(あるいはやめた)ということですが、このお話は、コブラやハブとマングースの決闘の開催を助長するような意図で書かれたものではないことを申し添えます。


マングースの憂鬱

このお話は、とあるヘビセンターのマングースの一日を克明に記録したドキュメンタリー(?)である。


「あ〜あ。今日もまたコブラと決闘か。こう毎日やってちゃ、飽きちゃうよね。いい加減やめない?ねぇ、おっさん・・・。」

マングースがつぶやく。ここは、世界各国の珍しいヘビも含め、数多くのヘビを一堂に集めた、「ヘビセンター」である。このヘビセンターでは、毎日、「コブラとマングースの決闘ショー」を開催することを「キラーコンテンツ」として営業している。




「だいたいさ、今頃流行んないんだよ。コブラとマングースの決闘なんて。どこでもやってんじゃんよ、そんなの。そんなネタしかないから、客だってこねーし。それにさ、『ヘビセンター』なんて名前もいまいちだよね。いっそのこと『スネークパラダイス』とかに名前変えてさ、建物もショッキングピンクとかにしてヘビのじめじめしたイメージをどっかにやっちゃったほうがいいんじゃねーの?おっさん。」

またマングースがつぶやく。「おっさん」とは、マングースに毎日えさを与える飼育員のことである。もう何年たったか覚えていないくらい長いつきあいだ。そんなマングースのぼやきに耳を傾けることなく、飼育員は黙々と小屋の掃除をし、えさをおいていった。去り際に、

「今日もがんばれよ。特別にまむしの粉、入れといたからよ。今日の相手は、少ヘビ隊のカガシだ。」

と言い残していった。その後ろ姿は、妙に寂しげだった。




「何ぃ〜。今日の相手は、少ヘビ隊のカガシだとぉ〜?あいつら、最近、妙に若いねーちゃんに人気あんだよな。『カマ首もたげた時の筋の張りがたまんない』とか『ああいう模様のハンドバッグがあったらかわいいのに』とかなんとかいわれてさ。でも、人気あんなら、少ヘビ隊グッズでも販売すりゃ、もうかんのに。・・・おっと、いけねぇや。今はそれどころじゃないぜ。とにかく、ちょっと調子こいてるから、今日はあいつらに一発かましてやる。」




春が目の前に迫り、柔らかな日差しに包まれた昼下がり。客の入りも久しぶりに上々のヘビセンター・・・。いよいよ決闘の時がきた。

「おい、カガシ、今日は痛い目に遭わせてやるぜ。」

ガラス越しにいるカガシに向かってマングースは言い放った。

「けっ、生意気な。こっちは毒もってんだよ。今までのヤツらは毒を抜かれてたけど、俺は抜かれてねーんだよ。そっちこそ、覚悟しな!」

・・・マングースは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。しかし、次の瞬間、

「おお、やってやろうじゃねーか。毒だろうがなんだろうがまとめて持ってこい。」




「みなさま、本日は当ヘビセンターにご来場いただき、まことにありがとうございます。ただいまから、当センター自慢のマングースと、コブラの決闘をみなさまにごらんいただきます。みなさま、ご存じかと思いますが、マングースは、コブラやハブなどの毒ヘビを見かけると、攻撃をしかけ、頭にかみつき、毒ヘビを倒すことで有名な生き物です。当センターのマングースは、当然、負けたことはこざいません。そうでなければ、今日、みなさまの前に姿をお見せできませんから。」

・・・司会者には、カガシが毒をもったままだということを知らされておらず、ウケをねらったようだ。

「さあ、冗談はさておき、コブラとマングースの決闘を、最後までご覧ください。勝負がつくのは早いですから、瞬きをしないようにしてくださいね。お、今日は両者ともかなり気合いが入っているようです。それでは、スタート!!」




かくして、大勢の観客が見守る中、決闘は幕を開けた。

「おりゃ、いくぞ!カガシ!!」

マングースは、カガシにかみついた。その痛みに、カガシは思わず体をマングースに巻き付け、締め上げた。次の瞬間、

「このやろう、手加減してたらいい気になりやがって。とどめだぁ〜」

・・・マングースの体に、カガシの毒牙が突き刺さった。観客から悲鳴があがった。子供たちからは、「マングース、がんばれー」という悲痛な叫び声があがった。しばらくは気丈に振る舞っていたマングースだったが、毒が体内を回り始め、意識が薄れていった。遠のく意識の中で、マングースはつぶやいた。

「おっさん、その寂しげな後ろ姿は、こういうことを意味してたのか?」

・・・そして、倒れる間際に、毒牙にやられた傷を見たマングースは、思わず叫んだ。

「何じゃ、ごりゃあぁぁぁ・・・」




どのくらいの時間がたっただろうか。ぼんやりとした明かりがマングースには見えた。

「お、俺、生きてるのか・・・?」




「おお、気がついたか!」

飼育員が叫んだ。

「今日の闘いはすごかったよ。痛みに耐えてよく頑張った。感動した!!」

飼育員の目から、ひとすじ光るものがあふれた。そして、

「明日もよろしく頼むよ・・・。」

非情な声がマングースの耳に届いた。


まだ焦点が定まらないマングースの目には、蛍光灯の冷たい光に照らされた血清のアンプルと使用済みの注射器が映っていた。

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