「決め」のポーズを考える


テニスで一流プロの真似をするには、プレイスタイルをコピーする、誰それモデルの用具を揃える等がありますが、練習も資金もほとんど必要なくもっと印象的かつ簡単になりきる方法があります。
そうです、プレー中やその前後のプロの「キメ」のポーズを真似たり、それを自分なりにアレンジするのです。
ここでは有名プロ選手の「キメ」のポーズを考察し、コート上の華となる近道を探りましょう。ただむやみやたらにガッツポーズを連発しているだけでは一流への道は百万光年に値します。


「Com’on!」by レイトン・ヒューイット
もうすっかり有名になってしまい、揶揄されることも多くなったので本人もあまりやらなくなってしまったのですが、やはり大事な試合の決め所で快心ショットが出た場合はこの雄叫びを聞くことができます。
アピール効果が大きい割には我々素人にも比較的真似のしやすい技だと言えましょう。
手順としてはここ一番のショットが決まったら、まず相手のコート方向を向いたまま両足を肩幅より広く開き、必要であれば腰を落としてガニ股スタイルを取ります。
両肘または右肘をを腰骨のあたりに当てますが、ここで勢い余って腰を前後にカクカクさせてしまうと、ニュージーランドオールブラックスラグビーチームの雄叫び(Maori’s War Cry)になってしまいますので気を付けましょう。
そして真正面からやや上方を向いて「カモーン!」と絶叫しましょう。
別に「カモーン」でもいいのですが、対戦相手が加門さんだったりすると、

「ハイ、何ですか?」

などと返事をされてしまったりして困ります。
ここは日本語を使うのも手です。ヒューイットは自身を鼓舞するためにこの台詞を使っているようですが、オックスフォード英語学習辞典によりますと、この文脈に適しているであろう"come on"の意味の一つとして、「(相手を)促すために使う言葉」とあります。
ここでは自分に気合を入れられれば何でもいいわけですから当然意訳して

「見たか、出来が違うんじゃっ」
「オマエわしがダウンザラインのパッシングショット決められんと思ってのこのこ出て来よったけど見ての通りじゃ、百年練習してから来んかいこのカス!」

などと絶叫するのも効果的かと思われます。
自分ばかりか相手も鼓舞してしまい、逆上した相手にコート外でボコボコにされようと私の知ったことではありません。

「投げキス」by アンドレ・アガシ
年齢を重ねるに従ってマスコミ扱い・ファン扱いが非常に上手になってきました。彼がファンに好かれる理由の一つにこの礼儀正しさがあります。
試合に勝利を収めたならコート中央に立ちましょう。観客席に向かって両手で投げキスをした後に深々と頭を下ましょう。これを四方向全てに繰り返すのです。
ところで『マン・ウォッチング』等で名高い動物行動学者、デズモンド・モリスによりますと、投げキスというのは非常に古典的な行動で、かつては支配者である相手の手に直接キスするより更にへりくだった振る舞いだったとのことです。("Intimate Behaviour" /『ふれあい』より)
つまりアガシはテニスを見ている我々を王侯貴族将軍様姫様皇帝ペンギン関白太政大臣ダイアナ妃偉大なる首領様デスラー総統閣下のように扱ってくれているのです。そこまで卑屈にならなくてもという方は観客の中に美男美女を発見したら駆け寄って直接キスしましょう。張り倒されても当局は一切関知しません。

「合掌」by パラドーン・スリチャパン
彼はコートに入る前には必ず合掌してコートとその場を提供してくれた人々と仏様に感謝します。さすがは仏教国、タイの青年だけのことはありますね。
スポーツの場に宗教を持ち込むのは決して悪いことではありません。水泳のイアン・ソープは「僕自身は無宗教だけども、西洋人がここ一番に強いのはいざという時に頼れる神を持っているからじゃないかな」と言ってます。
ウィリアムズ一家は「エホパの証人」の信者で特にビーナスは勝利インタビューでも度々神に感謝してますし、イワニセビッチがラケットに手を合わせて神に祈る姿もおなじみですね。
かといって、コート上に藁人形やブードゥー教の泥人形を持ち込んで相手を呪い殺そうというのは考え物です。
六芒星を描いて悪魔を呼び出すのも止めましょう。ボールを打つ度に式神を飛ばしてスピンをかけていたのでは霊力がいくらあっても足りません。次に打つサーブのコースをこっくりさんに訊くのは時間がかかりすぎます。
やはり東洋の神秘をアピールするには合掌が良いかと思いますが、負けた選手を合掌でお送りするのには霊柩車が必要です。
それでなくても照れながら卑屈にやるとコート上の地縛霊に負けてしまう可能性がありますので堂々とやりましょう。負けた選手の生き霊が沢山住み着いています。霊に負けないようエクソシストの資格を取っておくのも良いかもしれません。
あるいは神道式の二礼二拍手一礼をきっちり行い、祝詞をあげてネットの神、ネットポストの神、ネットコードの神、人工芝の神、審判椅子の神、ボールの神、ボール缶の神、ボール缶の蓋の神、日傘の神、ウォーターボトルの神等コート上の八百万の神々に祈りを捧げるのも効果的かと思われます。
ラケットに御霊を入れた紙製の幣束を付けると御幣に早変わりです。
会場の端でお香を炊いてコートを清めるのは心が落ち着いて良いアイデアだと思いますが、あまり煙を立てると審判に警告されます。
やたらに清め塩を撒くとハードコートではボールのバウンドに影響しますので注意しましょう。
お賽銭や供え物や生け贄は要りません。マヤの神ケツアルコアトルに生きた人間の心臓を要求されたりしたら大変です。テニスコートがグラディエーターの修羅場になってしまいます。

「ラケットで拍手」by セバスチャン・グロジャン
以前はぐりぐりのグラウンドストローカーであった彼ですが、最近ネットプレーも見せるようになりました。それでもネット際に詰めた時にぶち抜かれることはあるわけで、素晴らしいショットを決められた時に相手を称えるためにラケットと左手で拍手をします。
これは非常に使う場面の難しい技です。大差で勝ったり負けたりしている時に使うと相手を小馬鹿にしているようにしか見えません。接戦で使うと相手を調子付かせたりします。こうやって味をしめた相手にまた同じショットを打たせてそれを狙い打ちするという作戦も可能ですが、根底にあるのは実力が接近しているものの、あくまで勝つ自信があってこそできる技なのです。
この技の基本としてはあくまでポーチにいるときにバッシングで抜かれたときにするものです。
グラウンドストロークやロブに追いつけずに走っている最中にこれをするのは単なるアホにしか見えません。拍手は0.5−1秒毎に3−5回程度、これより速いとただ単に暑さのためひきつけを起こしているように見えます。ラケットを持った手は動かさないのが普通かと思いますが、この場合下手をするとただ単にガットのテンションを確認しているように思われますので、しっかり相手の方を向いてやりましょう。
応用編として、凡プレーをした際にラケットと自分の頭で拍手するという技も覚えておきましょう。


女子技もいくつか紹介しておきましょう。

「Heart to Heart」by ジャステイン・エナン=アルデンヌ
その体格ゆえに重量級選手と対戦した折りには観客をことごとく味方につけてしまう彼女。激戦に辛勝したあとに観衆の声援に応えてこのポーズを取ることがあります。
まず、まっすぐに立ちます。(あくまでまっすぐ、理由は後述)観衆の声援に向かって右手を斜め上前方、手のひらを前にして突き出し、空中で何かを握り締めた後、その握り拳を自分の胸の位置に持ってきます。
つまり、「あなた方の気持ちは私の心に届いています」というポーズなのです。














別に手のひらを太陽に透かして真っ赤に流れる血潮を確認しているわけではありません。

動作としては単純なのですが、我々がそこいらのコートでこのポーズをした場合、訳の分かっていない人に見られると「ハエでも掴んでるんやろか?」と誤解される恐れがあります。
それでなくてもすっくと立つのが苦手な日本人は手を引く時に腰や膝を曲げてしまい、コブシの利いた「あんこ椿は恋の花」になってしまいがちなので注意しましょう。

「狙撃ポーズ」by タマリーン・タナスガン (写真見つかりませんでした)
普通っぽさが魅力の彼女、読みが外れてパッシングで抜かれたりした時に、悔しさ紛れと照れ隠しにこのポーズを取ることがあります。照れ笑いしながらライフルを撃つ表情はカワイイものです。
ラケットのフレームの先端部分を右脇に当て、右手でスロートの下を持ちます。グリップを前方に突き出し、左手はグリップを持ちましょう。グリップの銃身で相手に狙いを決めたら右手で引き金を引いて発射の反動で銃身を跳ね上げましょう。
我々が行う場合は決まった時も決められた時にも応用できますが、ボディ攻撃が決まった後にこれをすると相手が逆上する恐れがあります。また、確実に命中させようとして片膝射ちや伏せ射ちをするとネットが邪魔になって狙えません。
もちろん相手をビビらすためにはラケットに取り付け式のスコープや引き金をつけて見た目で相手を威嚇するのも一方法です。一番確実なのはグリップに実際に弾薬を仕込んで相手の選手生命を生物としての生命もろとも奪ってしまうことですが、仕込みラケットであることを忘れて飛行機内に持ち込んだりするとこちらの社会的生命が終わってしまうので気を付けましょう。


いかがでしたでしょうか。まず形からというのは大変重要なことです。かつて長嶋茂雄選手は空振りをした時にヘルメットが飛ぶようにわざと大き目のものを着用していたという逸話があります。
まだまだ「カトちゃんペッ」、「ガチョーン」、「明日も勝つ!」、「即身成仏」などコート上で披露できそうなパフォーマンスは多々あります。皆さんもいろいろ工夫してみてはいかがでしょうか。

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