怪我について考える (急性編)


せっかくのテニスの熱戦も怪我のために棄権しなくてはならなくなったりしたら台無しです。怪我をした自分だけではなく相手も後味の悪いものです。
試合中に相手の折れたラケットが飛んで来て腹部大動脈に突き刺さって出血多量とか、ネットポストに頭をぶつけて頭骸骨陥没骨折して意識不明の重体とか、ボレーを受け損なって目に当てて失明とかいった話は聞きませんが、スポーツである限りテニスには常に危険がつきまといます。
鋼の体をもって万全の調整をしているはずのプロの世界においてさえ試合中の怪我は日常茶飯事です。我々一般プレイヤーはどうしたら良いのでしょうか?
グランドスラムなら会期中4−9試合程度は途中棄権があるそうで、枚挙に暇がありませんが、最近のプロの事例を中心に体の下の方からチェックしていきましょう。

まめ (足の裏)
2003年オーストラリアンオープン女子4回戦、リンジー・ダベンポート対ジャスティン・エナン=アルデンヌ。猛暑の中でのハードコート上の闘いに、かなり早いうちにエナン=アルデンヌが足にまめをつくり、インジャリータイムを取ることを強いられた。

そのリンジー・ダベンポート、2003年全仏オープン準々決勝で、コンチータ・マルチネスと対戦した時に、まめを多数つくり6−4、2−0の時点で棄権した。

まめは、集中的に摩擦や圧迫をうけ続けることによって起こります。摩擦熱も一役買っているとのことです。できそうになると大体分かりますので、休憩時間等に靴下を脱いで冷やしておきましょう。できてしまったら、消毒した針で突いて水を抜き、バンソウコウでも貼って保護します。後でワセリンを塗って手入れする人もいます。
防止策としてはワセリンを塗っておくか、足の指の場合はあらかじめテープ等を貼って変形させて当たり所を変えると結構効くようです。ミズノアイスタッチやデュポンクールマックス等の冷感素材の靴下はあまり効かない気が…。できやすい人とそうでない人がいるのでそういう人は靴の通気性も気を配りましょう。私テニスでは全くできません。普段オムニコートでプレイしているせいかもしれませんが。
ちなみに私小学校入学直後に鉄棒や運梯(うんてい)に凝りまくった時期がありまして、生まれて初めて手のひらにまめをつくって、保健室で破れた皮を取ってもらった時に保健室の先生に「この皮持って帰ってスープに入れて食べるか?」と聞かれて「小学校というのはおとろしいところや」と思った記憶があります。さて、ダベンポートの足の皮の味って…(以下自粛)

捻挫 (足首)
2003年ホップマンズ・カップ、Aグループ予選、オーストラリア対イタリア、レイトン・ヒューイット対ダビデ・サンギネッティ。サンギネッティ見事に足首を捻り、インジャリータイム後ヒューイットに敗れる。この日の混合ダブルスは棄権となった。

2003年オーストラリアンオープン2回戦、モニカ・セレスが楽勝相手のはずの対クララ・クカロワ戦で足首を捻り、固くテーピングをしたままでのプレイを強いられた。結局6−7、7−5、6−3で敗れる。

これは結構多い。スポーツ傷害(外傷と障害)の中で足関節部の占める割合は10%ないし15%と言われているそうです。
捻挫は急な方向転換や無理な体勢からのショットから立ち直れなくなったりした際におこりがちです。レイトン・ヒューイットはロサンゼルスでアホな足首のひねり方をしたので以降はテーピングをして予防しているとか。それが彼の動きに影響を与えていないことは明白ですので、捻挫癖のある方はこの方法はお勧めではないかと。
テーピング講座はスポーツショップ等でやってましすし、私も故障上がりの時はヒールロックやフィギュアエイトと呼ばれる巻き方で細目のテープを1−2本だけ巻いて保護してました。
捻挫になってしまったらスポーツ傷害の基本処置、安静(rest),冷却(icing),圧追(compression),高挙(elevation)で応急処置をして、病院に行きましょう。まあ、特に練習ではあんまり無理な球は追わないに越したことはないでしょう。という私はロブ攻めで相手を走らせるのに活路を見出してます。

肉離れ (下肢)
2003年全仏オープン、ウェイン・フェレイラ対レイナー・シュットラー。4セット目、コート後方へ球を追ったフェレイラ、大股開きで転倒。大の字になったまま立ち上がれなくなってしまった。内股に肉離れを起こしたとのことで、担架で退場した後そのまま棄権。

このケース、担架に載ったまま両手を挙げて声援に応えるフェレイラにプロ根性を見ました。肉離れといっても骨付きチキンを食べる時の「肉離れが良い」とは意味が違って、筋肉が骨から外れてどこかへ行ってしまうわけではありません。

これは運動時の筋肉の過伸展などによるもので、軽度の筋損傷から完全筋断裂までいろいろありますが、テニスの場合クレーコートで足を滑らせて他のコートでは取れないはずのボールを取るということを繰り返すとこれを起こしがちになるようです。
このため全仏オープン後半には太股にテーピングをした選手が続出します。しかし実際球は取らなくてはいけないわけでこれを避けるということは圧倒的に不利になってしまいます。
普段から筋肉の柔軟性を高めるともに、筋力強化に努め、ウォーミングアップをしっかりしましょう。なってしまったら、とにかくRICE処置。ちなみにキム・クライシュテルスは度重なるクレーコートでの鍛練の結果、ハードコートでも足を滑らせることができるようになったらしい。


熱痙攣 (特に下肢)
前述のオーストラリアンオープン4回戦、リンジー・ダベンポート対ジャスティン・エナン=アルデンヌ。3セット目のカウント7−7からファーストサーブを打ったエナン=アルデンヌ、着地した瞬間に右足に痙攣を起こしてその場にぶっ倒れる。
数分後なんとか自力でベンチまで戻り、インジャリータイムの三分間氷詰めになってから再びコートに立ち、セカンドサービスエースを決める。(以降もいつ続行不能になるかと私は思っていたが、そのセット9−7で勝ってしまうのである)

この試合、彼女が氷詰めになった時にはアイスバッグを首筋と両脇、下腹部に当ててました。頚動脈や腋下動脈・大腿動脈を冷やすことによって循環血液の温度を下げるということで、患部は直接冷やさないみたいですね。
ちなみにウィリアムズ姉妹、特にビーナスはピンチになると痙攣を起こしてインジャリータイムを取るとして非難されてますが、確かに熱痙攣だけではないようで循環血液の温度を下げている様子がありません。姉妹対決の時は決して起こさないし。
この現象、猛暑のオーストラリアンオープンのみならず2003年全仏オープンでも続出しましたが、ウォーミングアップ不足や発汗による電解質(カリウムイオン)の喪失で、筋細胞内外の電位に変調をきたしてしまうのが原因とも言われています。準備運動をする、水分を摂る以外には気休めにスポーツドリンクでカリウムをしっかり摂るくらいしか対策はないようですが…。
バナナもカリウムが豊富ですが、試合で疲れて半分しか食べられないからといって自分のことをさっちゃんと呼ぶ必要はありません。「予防できる」と謳ったマッサージオイルもありますが。
私テニスの時にはなったことはありませんが、終わってピールを飲んでいる時ふくらはぎに度々起こり、笑顔で談笑しつつも脂汗かきながらテーブルの下で足首の曲げ伸ばししてます。ちなみにこの痙攣、日本語ではこむら返りとも言いますが、私の田舎では「こぶらあがり」と言います。締め付けられる感覚は言い得て妙。

日射病・熱射病
2002年のデビスカップアジアオセアニアグループ日本対タイ戦。40度以上の気温と高い湿度の中で、日本のエースの鈴木貴男は大会前に熱中症にかかり、本村剛一、寺地貴弘は試合中に痙攣。最初の2日間、計3試合で、途中棄権が2試合。結局日本はタイ5戦目にして初の敗戦を喫した。

ダブルスの寺地は立っているのもやっとの状態で、彼をコートの隅に寄せたままトーマス嶋田が一人でダブルスを戦ったとのこと。結局必ず回ってくるサーブとリターン、コートチェンジ時の歩行がどうしようもなく、棄権せざるを得なかったと。立ってるだけ要員でいいのなら私だってデビスカップ出場できそうな気がします。
確かにダブルスでもペアの一人が倒れた場合に残った一人がポケットから小球を取り出して「マッケンロー、頼むぞ!」とか言いながらコートに叩き付けるとカプセル選手が現れ、代わりにプレイして回復までの時間稼ぎをしてくれるなどということは不可能です。
熱痙攣・熱疲労・熱射病をまとめて熱中症と言いますが、ジュニアの大会などでは集団でやられたりすることもありますし、「今日は大丈夫」と思っても帽子と日焼け止めは必ず使いましょう。帽子はベースボールキャップタイプではなく、体温調節中枢のある首筋(延髄)を保護するタイプが良いとも言われてますが…。ヒューイットに倣って後ろ前に被るのも手かも?甲子園の高校野球では生理食塩水を飲んで熱射病から回復したというケースがちょいちょいあります。
オーストラリアンオープンの2003年プログラムには、前年の女子シングルス決勝での決定要因として「スイスから来た白い肌のヒンギス」は「フロリダから来たイタリア系でオリーブ色の肌のカプリアティ」に暑さで負けたと書いてありました。ヒンギスもフロリダに家を持っているんですが…。
同文には観客向けの暑さ対策も示してありますが、水をこまめに取ることと(一時間200−300cc)、熱中症になった場合は大腿部と首筋を冷やせとここにも書いてあります。
ちなみに2001年ウィンブルドンの決勝戦でゴラン・イワニセビッチに敗れたパトリック・ラフター、大汗をかいていたのであの髭と長髪が持久力に影響しているのではないかとの説があり、あるスポーツドクターのコメントによりますと、頭部からの皮膚呼吸による放熱量に劣るのでパフォーマンスに対する影響はあるのではないかとのことでした。
ラフターはしばらくしてスイマーのマイケル・クリム(この人スキンヘッド)との髪の毛を賭けたチャリティーゴルフに勝ったものの、この際ということでチャリティー目的で髭剃って丸坊主にしましたが。

実は私がテニス中に唯一身の危険を感じたのがこれ。熱暑の中でのリターン練習中に、世の中がいきなり明るく、真っ白になりまして、「まずい、サングラス要ったかな?」と思ったら(後から考えると瞳孔が開いてしまったのであろう)呼吸が浅くなって心拍数が急上昇。コーチに打ってもらったサーブを一本無駄にした後、水を飲んで一分ほど立ってたら治りました。腹を空かせていた上にその前のアプローチショット練習でへろへろになっていたのは事実で、やっぱり恥ずかしがらずにしっかり休憩をとるべきでしたね。

心因性ショック・脳卒中
テニスで死ぬかって?死にます。2002年2月に元プロテニスプレイヤー佐藤(塩田)直子さんの父、佐藤忠雄さんがテニスをプレイ中に倒れ、そのまま病院で息を引き取りました。享年89歳でした。 これぞテニスプレイヤー究極の最期。米寿を過ぎてコートに死す。テニスプレイヤーの人生はかくあるべきです。この究極のテニス人生ゴールに向けてケガなく健全なテニスライフを楽しみましょう。

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