インジャリー・タイム


「どうも、田中タママルです」
「ラケットでございます。みなさんご機嫌いかがでございましょうか」
「最近健康健康とうるさく言われるようになりましたね」
「快眠・快食・快便、体も動かさないかん」
「そういうわけで実は僕、健康のために最近テニスを始めましてね」
「何やこの前もそんなこと言うとらんかったか。テニスで健康になれるんやったら死んでもええって」
「死んでどうすんねん。いや、一時中断してたんや。故障でな。テニスエルボーというやつを煩ったんや」
「何やそれは、天気予報の番組か?ヤン坊・マー坊・テニスエルボーというやつやな」
「違うがな。テニスのし過ぎで肘を傷めとったんや」
「やはりミネラルやヨードを取るのは大切ですね」
「何のこっちゃ」
「ヒジというとお揚げさんと一緒に炒めるあの海草」
「肘を傷めるのはひじきを炒めるっちゅうのと違うんや。べたなボケかますな」
「で、その肘が回復したというわけやな。で、試合には出たんか」
「出たことは出たけれどもシングルスはきつい。で、ダブルスで復活することにしたんや」
「ダブルスやとペアを組む相手がいるわな」
「そこで大昔とった杵柄で、叔父さんが一緒にやってくれることになった」
「相手が見つかって良かったやないか。やっぱり名前は松野さんか?」
「なんでやねん、池田や」
「いや、『あなたは松野テニスコート』とか言うてね」
「天地真理の歌なんぞ誰も覚えとらんぞ」
「ところが問題が一つ」
「どんな問題やねん」
「この叔父さんは歳を取っとる」
「君の叔父さんやからそうやわな、歳のせいで動けんというわけか?」
「いや、動きはええねん。頭がつるっぱげなのが問題なんや」
「別に歳取ったら禿げるのは不自然でも困ることでもないやないか」
「いや、コーチに『月に向かって打て』と言われた通りロブを打とうと思うたら前衛に立つ叔父さんの後頭部にパッカーンと」
「月と間違えたらいかんわ」
「しかも彼は毛の生えたボールに嫉妬してボールを叩きのめしにかかりよる」
「強打するのは悪うないんと違うか」
「ところがドロップショットまで強打しよる」
「それはドロップショットとは言わんで」
「しかも相手のコートの中にある球まで打ちよる」
「それはルール違反や。そんなことはないやろ」
「それしたらポイント取られるわけやけどね。まあそういうことで試合に出たわけや」
「それでどうなってん」
「まあ、まずはこちらのサーブで試合が始まるというので、僕がトスを上げたら、今年の木枯らし一号がボールを100メートルくらい持って行きよった」
「風が少々吹いたって、そんなに持っていかんがな」
「そやけど何や、自衛隊はいったい何をしとんねん。国民に健康で文化的なテニスをプレイする権利を保障せんつもりか」
「何で自衛隊が出てくんねん」
「毎年クリスマスにはNORAD(北米防空司令部)は北極からアメリカまでサンタクロースの来る道筋を確保する指令を出しよる。だったら何で航空自衛隊は毎年11月に北風小僧の寒太郎に対する迎撃命令を出さんのや」
「そんなもんあるかいな」
「F15戦闘機もパトリオットミサイルも寒太郎をインターセプトできんようではコケオドシや。ノドンミサイルの撃墜なんぞ夢のまた夢じゃ。寒うござんす、ひゅるるんるるんじゃ」
「自分のトスが悪いのを自衛隊のせいにするな」
「ところが叔父さんのサーブがある時に決まる決まる」
「そんな素晴らしいサーブやったんか」
「いや、背中を向けている僕の目にもはっきりと閃光が見えたんや。それで相手の目が眩んでしもうてリターンができへん」
「言いたいことはわかっとる。おじさんの帽子が脱げた瞬間に打ったぴっかりサーブやったということやな」
「勘のええやっちゃな。ええテニスプレーヤーになれるんとちゃうか」
「そんなオチ、誰でも想像つくわ」
「で、復活の1セット目、僕のサーブが好調で叔父さんが強打するドロップボレーも決まってええ調子で行っとったんや」
「それは良かったやないか」
「ところがこの相手というのがなかなかミスをせん。どんなに上手い選手でもたまには自滅してフリーでポイントをもらえることもあるのに、常に確実に打ち返してきよる」
「それは難儀やったな」
「でも、試合半ばでそれは叔父さんのせいやということに気がついたんや」
「何でやねん。相手がミスせんのは叔父さんのプレーのせいやないで」
「いや、こちらにはもうケがないというわけや」
「何でも禿げ頭のせいにしたらいかん」
「ところがやっぱりその後、相手はパッシングの名手やというのが分かったんや。ボレー自慢の僕でも結構抜かれてしもた。こっちはこっちで走り回ってるし、後ろの叔父さんはパッシングを追いすぎてとうとう一歩も動かれへんようになってしもた。それからは石の地蔵さんのように立ち尽くしているだけや」
「そんなんで試合になるんかいな」
「ふらふらになってコートの真ん中も端も分からなくなった僕は叔父さんに尋ねたんや。『ボレ、ボレー石の地蔵さん、端へ行くのはどっちかえ・・・』」
「美空ひばりの昭和30年代の歌など誰も知らんって」
「まあ、そんなこんなで試合が進んだんやけど、でもその3セット目の最中、ロブを追った叔父さんが足首をひねってしもた」
「棄権せえへんで済んだんか」
「そうや、大したことなくてほんとにアンクル毛が(怪我)なくてよかったねというわけや」
「それが言いたいがためにここまで引っ張ったわけやな」
「では皆さんごきげんよう」
「勝手に終わらすなっ」



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