メイドと三宅
テニス情報誌に載っていた会員募集のテニスクラブ。秋葉原のど真ん中にあるというのに興味を引かれ、私は体験入会の手続きを取ったのだ。
「このエレベーターには長く乗っているね。どのくらい深い所まで行くのかな」
「地下200メートルにオールウェザーコートが6面あります」
分厚いメガネにチェックシャツ・ジーンズを身にまとった典型的なオタクファッションの青年が答える。三宅と名乗った、そのテニスを一回もしたことがないような外見の彼が今回の案内役だ。しかし彼がこのクラブのオーナーであるというのはその外見からでは全く判断できないであろう。ただ、地下施設にオールウェザーコートというのはどうかと思うが。
彼は続ける。
「秋葉原で地上にそれなりの土地を購入するのも大変なんですよ。人材確保の観点からもクラブを秋葉原に設立せざるを得なかったのでこういうことにしたんですが」
「お帰りなさいませ。勝田ご主人様」
エレベーターの扉が開いた瞬間に、扉の向こうに並んだメイド姿の女の子の声が響く。
秋葉原らしいサービスとはこのことだったのか。
その背後に巨大な体育館のような空間にテニスコートが6面。壁際にはクラブハウスらしき建物がある。事務室は地上にあったから、あの中に更衣室やシャワールームがあるに違いない。もちろん全体が強力な明かりに照らされて眩いばかりだ。
持参のテニスウエアに着替えたオレは三宅氏に頼んだ。
「じゃあ、コートを使わせてもらいます。誰か相手をお願いしたいんですが」
まさかメイド達がヒッティングパートナーを務めてくれるわけではないだろうと思いつつ尋ねる。幸いなことに彼によると会員の飯山さんという人がすぐに降りてくると言う。
程なくそれらしい壮年の男性がエレベーターから現れた。さすがに会員だけあって、メイドの挨拶にも驚くことなく構内に入ってくる。
着替えを済ませた彼とコートに向かっていると、そのメイドたちがぞろぞろとついてくるではないか。何なんだこれは。すかさず三宅氏が言う。
「あ、これが当クラブのサービスです。ボールガールと審判は彼女たちが務めます」
戸惑ったまま飯山氏とラリーを始める。ボールガールなどがいる練習は全く初めてだが、自分で拾いに行かないでいいのは楽には違いない。
一人の女の子が回収したボールを手渡してくれた。
「勝田ご主人様、ボールでございます」
礼を言って受け取ろうとすると、
「では、お渡しする前にボールに私の愛情を込めたいと思います。ラブラブ、スマッシュ♥」
はあっ、自分でボールを取りに行くより疲れるぞ。
ひとしきり練習を済ませると1セットやってみないかと飯山氏が声をかけてくる。案の定一番年かさらしい女の子が主審椅子に着いた。
「では、飯山ご主人様と勝田ご主人様の練習試合を始めたいと思いますぅ。ご主人方、コイントスを行いますので表裏を決めて下さいませ」
全てこの調子かぁー?
「勝田ご主人様のサーブでございます」
「アウトでございます」
「飯山ご主人様のフットフォルトでございます」
「タッチネットでございます」
「ラブ フィフティーンでございますぅ」
「では、タオルをお渡しする前に、タオルに愛を込めたいと思います。アセ、アセ、飛んでけ らぶぼれーっ!」
調子が狂うわあーっ。
さすがにメンバーの飯山氏は気持ち良さそうにプレイをしている。かくしてオレは実力としては大差のなさそうな彼に惨敗したのだった。
試合を終えたオレに三宅氏が近づいてきた。
「いかがですか。お気に召しましたでしょうか」
オレは答えた。
「ここにはテニスを楽しみに来たつもりだったのだが、やや目に余るので仕事に入らせてもらおうか」
オレは警察手帳を取り出しながら言った。
「ここに東京警視庁万世橋警察署生活安全課刑事・勝田弘樹が忠告を行う。この施設における女性従業員の接客サービス、特に客とのコミュニケーション行為などが『接待』に当たると思われる。風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の違反で摘発される前に業態を変更した方がいいぞ」

