紳士のスポーツ
「どうも、田中タママルです」
「ラケットでございます。みなさんご機嫌いかがでございましょうか」
「実は僕、健康のために最近テニスを始めましてね」
「あ、あのテニスをですか」
「『あの』とは何ですか、『あの』とは。立派なスポーツじゃないですか」
「何をぬかしさらしていらっしゃるんでしょう、まあ大体、毛の生えた玉をもてあそぶような男女にろくな者はおらん。あんな下品なスポーツはないでえ。野獣のスポーツや」
「ええかげんなこと言うたらいかんわ」
「ほれほれ、松岡修ゾウなんていうのもおったな。キジ牟田姉妹っちゅうのも」
「それは名前だけやないか」
「シロギスかアオギスかホトトギスかわからんヒンギスっちゅうのもおったでえ」
「それも名前だけや。テニスは紳士のスポーツとして有名やないか」
「じゃあ何ですか、プロテニスの試合を見たら、いっつもいっつも線審や主審に向かって暴言を吐いているスポーツのどこが紳士的なんや。僕の80歳になるおかんはビートたけしとレイトン・ヒューイットの毒舌の大ファンなんやでえ」
「まあそういう選手もおりますわな」
「それだけやないでえ。高価なラケットを怪力で粉々にしてしまう選手もおる」
「粉々にはならんやろ。あれはそれだけ一生懸命取り組んでいるからそうなってしまうわけやないか」
「僕の90歳になる大叔母はゴジラとアンディ・ロディックの大ファンなんやで」
「町を破壊するのとラケットを折るのをいっしょにしたらいかん」
「そうは言うても、セリーナ・ウィリアムズなんか芝のコートにラケット叩きつけて折ってしまうなんちゅうことをしよる。超人ハルクは彼女の隠し子やったんやないかという噂もあるでえ」
「そんなことがあるはずもない」
「親子らしく似てるところもあるやろ」
「ない!」
「でも腹が立ったからって棒高跳びの選手が棒を叩き折りますか、卓球の選手がラケットをへし折りますか、バスケットの選手がボールを割りますか、体操の選手が鉄棒を飴のように曲げますか、水泳の選手がプールの水を割って真ん中に道を作りますか、柔道の選手が相手を投げ飛ばしますか」
「柔道の選手は相手を投げ飛ばすわな。しかしモーゼかユリ・ゲラーやないとできんようなことばっかり並べよるな」
「かと思たら興奮のあまり我を忘れて下着を見せてしまうような選手もおる」
「あれはマラト・サフィンだけや」
「テニスの神様も何であんな中途半端なことをするんや。全部脱がせてしもたらええのに」
「それしたらフランスでも犯罪や」
「2004年全米オープンでタチアナ・ゴロビンとの対戦が決まった森上亜希子に浅越しのぶが出したアドバイスが『相手が半ケツやったらオマエは全ケツで行ったらええねん』と適切なものやったのに、森上は聞き入れなんだ。関西人ならケツ出し合戦でフラッシング・ミードーを笑いの渦に巻き込んだらんかい」
「『それやったら犯罪ですよ』と森上は言うとったらしいやないか。今度は浅越がゴロビンと対決する時に期待してもええんやろけどな」
「選手だけやなくて観客も観客でハダカになってしまうようなのがおる。全裸の観客が二年に一度乱入するようなスポーツイベントはウィンブルドンだけやで。暴れるだけのサッカーより質が悪い」
「会場に来るんやから止めようがないやないか」
「百年以上続くウィンブルドンやから一般大衆に忘れられたら困ると思うて、テニスの神様もこうやって暴挙に出ますのやな」
「テニスの神様はそんなところに力を使ったりせん」
「でもそういう人にもチケットを売っているわけやろ」
「分かってて売ってるわけやない」
「かと思ったらダニエラ・ハンチコワやベラ・ズボナレワみたいに試合中コート上で泣き出したりする選手もおる。笑ったり泣いたり怒ったり忙しいスポーツや。練習で泣いて試合で笑え」
「高校野球の監督みたいなこと言うな。別に感情を出すのは悪いことではないやないか」
「そやったら『本日は選手の機嫌が悪く、観客に危害が及ぶ可能性があるので試合は中止です』というのもありなわけやな。高い金払って観戦に来ているのにかわいそうなこっちゃ」
「そんなことあるわけないやろ。大体テニスの試合後には握手してすっきり終わるのがエチケットやないか」
「拒否して去る選手もおるわな。しかもパティ・シュニーダーなど大先輩のモニカ・セレスに対して手を差し出しといてセレスが握手しようとするとさっと手を引っ込めよった。小学生の嫌がらせやないか。セレスは『モニカしてこんなことサレシュんじゃないかと思っていた』と言ったそうや」
「発言をでっちあげたらあかんで。しかも対戦した相手はアランチャ・サンチェスや」
「で、彼女は『こんなこともアランヤと思っていたけど、サンレチュった』と言うてたそうやな」
「でっちあげたらいかんって言うとるやないか」
「一方のシュニーダーは『私が左利きなのを忘れていて、右手を引っ込めて左手で握手しようとしたの』と言ったらしいやないか」
「いい加減なことばっかり言うな。結局プロテニス選手に対して何の恨みがあって言いがかりをつけとんねん」
「君が始めるくらいのスポーツやから柄が悪い人がやるもんやと思ってるだけや」
「そやからテニスは紳士のスポーツや言うてるやないか」
「でもやっぱりテニスプレイヤーだけに庭球(低級)な人ばっかりやろ」
「ええかけげんにせい、君とはやっとられんわ」
元ネタ:中田ダイマル・ラケット師匠の漫才にはあまり似ていないような・・・。かように大元は同じなのですが、一部の台詞は清水義範著「騙し絵日本国憲法 寄席中継」から拝借いたしました。

