醜く勝たれる
テニスを始めて4年、いろいろな選手と対戦してきた。確かにテニスの対戦相手というのには様様な選手がいる。そうであるがゆえに相手のタイプに応じた戦術というのも非常に有効である。
ブラッド・ギルバートの著書「ウィニング・アグリー 醜く勝つ」にもタイプ別に相手との対戦の仕方というのが載っているが、先日の試合はそんなのも問題にならないくらい変なのと当たってしまったのであった。
朝一番に当たったのは回文太郎という青年であった。試合が始まる前から、
「類はレイトン、トイレ入る」
あ、友達と連れションね。行ってらっしゃい。別にヒューイットがトイレットペーパーの宣伝をしていたからって、そんな言い方をしなくていいと思うが。
しかしとにかく試合中が始まってからもぶつぶつと変なことをつぶやくのだ。
「よろめき伊達の手だ、決めろよ」
ふらふらの伊達公子のショットの真似をしているのか?その通り決まらなかったけど。
よし、こっちは必殺アガシサーブだ。あっ、リターンエースを決められてしまった。
「今、アガシが甘い」
ポーチで勝負はどうだ。痛っ、ボディ狙いやがったな。
「痛いミスキナ泣くな、泣き済み居たい」
どうしてミスキナが出てくるのだ。
よし、今度はコリアショットだ。どうだ決まったぞ。がはは。
「このコリアのあり、この子」
悔しいか、わはは。よし、どんどん行くぞ。
「対杉山、八木好いた」
俺の名前は杉山でも八木でもないぞ。次はクルニコワばりのバックハンドストレート打ちだっ!
「意思やクルニコワ、子似る悔しい」
え、入っていないって?
「全ライン要らんぜ」
そんなことないだろう。
「サンプラスですらプンさ」
相当頭にきているようだな。
「私負けましたわ」
あれ、怒ってどこかへ行ってしまった。おい、試合はまだ終わってないぞ。途中棄権で勝ってしまった…。
次に対戦したのは狂歌次郎とかいう中年男性であった。先の対戦相手と違って優雅なプレー振りは良いが、これも試合中に大きな声で自分の心境を語るのだ。
「パッシング、決まらなければバッシング、決まれば指をパッチン、グー」
パッシングショットが決まったからってそんなことを言わなくてもいいだろう。よし、全力で行くぞ。
「張りすぎてなつかないままガット出し、ここもフォールトで雨に賭けやまー」
ちゃんとガットを調整してから来なさい。期待しても雨は降りませんって。
よし、相手は弱気になっているぞ。しかし、分かったから黙ってくれ。
ははは、勝った。
「メルボルンパークにフラッシング・ミードーにローラン・ギャロスにオールイングランドクラブ」
おいおい、憧れるのは分かるが並べればいいってもんじゃないぞ。とにかく終わった・・・。
さて、その日の決勝で当たった駄洒落伸郎というプレイヤーも異様に困った相手であった。試合前から大声で一人漫才をするのだ。
「ストリンガーのおっさんがお礼したっ
どうもありガット
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ」
試合に入ってもそれが続く。相手がサーブを打ちにベースラインに下がったので、こちらもレディポジションを取ったら、
「化粧せん、女子選手の決め技は
すっぴんサーブ
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ」
ああっ、腰が砕けたところにサービスエースを決められてしまったっ。気を取り直さねば。
よし、ネット勝負だ! あっ、抜かれてしまった!
「人に憑く、幽霊のネットプレーっ
背ボ霊
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ」
そんなに動いていないのにだんだん疲れてきたぞ・・・。
「シャツ着んで、プレイするサーフェスはぁーっ
ブラ スコート
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ」
ああっ、立ち直れないっ!
こうして私はずるずると負けてしまったのだ。このようなプレイヤーに対抗する方法を伝授してくれる優秀なコーチはいないものであろうか。
「負けよった、アガシがつぶやいたっ
アガシ バカよねー、おバカさんよねー。
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ」
ああっ、伝染ってしまったっ。
ご参考まで:うえだたみおさんのホームページ「補陀落通信」の「名探偵が多すぎる」からスタイルをお借りしました。鯨統一郎著「文章魔界道」(祥伝社文庫)も参考にしています。
訂正:この文の発表時には私何を思ったかウィンブルドンの会場を「クィーンズクラブ」だと思っておりました。正式には “All England Lawn Tennis and Croquet Club” ですので短歌中の名称を「オールイングランドクラブ」に変更しております。全米オープンの会場も“Flush meadow”ではなくて“Flushing Meadow”でした・・・。

