テニスクラブの怪談


あかずのロッカー
かつて市島一男という大変有望な選手がクラブに所属していた。カズと呼ばれて親しまれていたのだが、ある日不慮の事故で他界してしまったのだ。
彼は男子更衣室の8番ロッカーに自分の写真を張って自分専用のようにして使っていた。以降気味悪がって誰もそのロッカーを使おうとしなかったのだが、ある日の大会で更衣室が非常に混雑し、他に空きロッカーがなくなってしまった。そこで誰も使っていない8番ロッカーを開けようとした石田選手がこう言った。
「あ、カズのロッカーですね、これは」

トイレのハマコさん
クラブハウスの女子トイレの一番奥の個室にかつて選挙運動に使ったのであろうか、浜田幸一元衆議院議員のポスターが張ってある。もう本人は引退したのだから剥がせばよいものだが、その眼光に恐れをなしてか誰も取り去ろうとはしない。
よって誰もその個室を使うのは避けているのだが、混んでいる時は使わざるを得ない人が出てくる。よって今日もトイレのハマコーさんは用を足す女子選手を見つめているのである。

いばら沼の女神
6番コートの裏は沼地になっていて、いばら沼とよばれている。このため、ここのフェンスは特別高く作ってあるのだが、それでもビギナーが高々と打ち上げた球がフェンスを超えてしまうことがある。 水面のボールを回収しようとする初心者が苦労していると突如沼の中から薄衣をまとった女性が現れ、こう尋ねるというのだ。
「あなたがなくしたのはこのきんのボールですか、ぎんのボールですか、それともこのウィルソンのボールですか」
正直な初心者は彼女からウィルソンのボールをもらって帰るという。先日私もボールをいばら沼に投げ込んでみた。
現れた女神にぎんのボールを所望してみると蟹江ぎんさんが愛用していたというボールをくれた。きんのボールを頼むと菅井きんのサインボールをくれるらしい。
今度はラケットを投げ込んでみようと思っている。

折れラケットの怪
アルバイトの佐藤君と山崎君が3番コートの整備を請け負った時のことだ。ネットポストを引き抜こうとした二人、これが固くはまり込んでいて、全然抜けないことに気がついた。
最初はポストを少しでもぐらつかせようと手で押したり引いたりしていたのだが、そのうち二人とも足を使い出した。そこで山崎君が佐藤君に尋ねた。
「オレら蹴っとのかい」

コート童子わらし
2番コートでプレイしていると時々出るらしいが、私も目撃した。
パッシングショットを打たれて抜かれてしまった時、突如コート内に現れた5歳くらいの男の子が、手にしたラケットでボレーして打ち返してくれたのだ。
見たことのあるような顔をしていたが、コート童子というのは座敷童子同様、誰にでも見覚えのある顔をしていると言う。彼の一撃のおかげで、その日の試合には勝ったのだが、試合が終わっても私についてくるではないか。そのまま家にまで来てしまった。ずうずうしいコート童子である。
妻も彼の顔に親しみがあるのか、夕ご飯を食べさせて風呂にまで入れてしまった。恐ろしい妖力である。そして彼は「明日幼稚園に行くのが楽しみだ」などと言った後は隣の部屋の布団で寝ている。どこまでもあつかましいコート童子である。
そういえば今朝テニスコートに連れて行ったはずの私の5歳の息子はどこに行ってしまったのであろうか。まだ帰ってこない。


ご参考まで:うえだたみおさんのホームページ「補陀落通信」の「会社の七不思議」からアイデアをお借りしました。

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