ゆきゆきて、ボレーヤー


「よーし、選手整列ーっ!明日はいよいよ江間越市長杯トーナメントだっ。準備はいいかっ!」
「おうっ!」
「いいか、我が皇国テニスクラブの精神はネットプレーにあり。ネットに一歩でも近づいてこそ勝機がある。皇国テニスクラブの名においてサーブをする時にはいかなる理由があろうともサービスラインは死守するのだっ」
「しかしコーチ、相手のリターンが早くてサービスラインより前でボレーができない場合はどうすれば良いのでしょうか」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「サービスダッシュでサービスラインの前に出られないのなら出るようにすればよいのだ。自分をコートに合わせようとするなっ、コートを自分に合わせるのだっ!よいか、サーブの時は必ずネットに詰めるのだっ。いいか、そこのコートでサーブ&ボレーを1000本打つのだ」

「とにかく、全サーブでネットに詰めるのだっ」
「しかしコーチ、ボレー巧者のティム・ヘンマンでさえ、毎回サーブ&ボレーをしているわけではありませんが」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「そんなことをしているから奴はグランドスラムに勝てないのだっ。あんな弱気な毛唐のやることを見習うつもりかっ!いいか、匍匐前進でベースラインからサービスラインまで百億万回往復して根性を叩き直せっ!」

「他の者よく聞け、リターンゲームの時でもボレーチャンスは自ら開くのだ。全てのリターンでネットに出ろっ」
「しかしコーチ、リターンダッシュというのは一種ギャンブルです。せめてセカンドサービスの時に限定しておいた方が次のボレーを有利に運べるのではないでしょうか」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「サーブだろうがリターンだろうが、前に出ると決めていてこそ勝機も生まれるのだ。俺のドーベルマンをお前にけしかけてやるから、一度に100キロメートル前に出てみろっ!」

「よいな、とにかくネット際に肉薄してこそ、日本男児というものだ」
「コーチ、ネット際にいるときにロブで上空を抜かれたらどうするのでしょうか」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「ロブを打たれるようなボレーを打つなっ!空を飛んででもスマッシュしろっ!隣の陸上競技場の5メートルの棒高跳びバーをクリアするまで帰ってくるなっ!もちろん道具はラケットしか使ってはならんぞっ」

「とにかくどんなパッシングショットにも対応できる反射神経を身につける訓練をしてこそ真のボレーヤーであるっ」
「コーチ、前へ出れば出るほど守備範囲が狭くなります。相手がパッシングの名手の場合どうすれば良いのでしょうか」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「壁を作ろうとするなっ、己が壁になるのだっ。大分県臼杵市に妖怪ぬりかべが出るという伝説がある。そいつに会って壁となる真髄を会得するまで帰ってくるなっ!」

「コーチ、もう自分しかいなくなってしまいました。ダブルスに出られません」
「貴様ーっ、ボレーを何だと思っておるのだっ。根性が足らんっ。歯をくいしばれっ!」
ボコベキバキッ
「ダブルスで一人でも二人分のボレーをするのだ、さもなければボレーをする資格などないっ!」



「いいか、皇国の興廃この一戦にあり。前に出て、死ぬ気で戦えっ!一歩も引くなっ!」




「おい、誰か返事をせんかっ、せぬものは千本ボレーだぞっ!」


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