モチベーション管理とキャリア・マネジメントの時代 VOL1

やる気を出すためにどうすればよいのかを考えることがモチベーション管理。

しかし、このことは単純なことではありません。
個人差、組織風土、経営資源などさまざまな限界要素が重なり合って決まってきます。
テイラーの科学的管理の実験には、この視点が欠落しており、
そのことが労働の場における疎外感を生み出し、
時に生産能力を疲弊させてしまうことがわかってきました。
モチベーションを管理するというとき、どうしても視点は
組織階層の上位から下位を統制するというニュアンスをもたざるをえません。

いっぽうで、中長期的に個人の立場から働き方を考えることがキャリア・マネジメント。
どちらかというと個に即した形でシステムを考えることになります。
社内組織の平行もしくは垂直的な移動を、個人の主体的な意識を前面に出すことによって
最適化しようとするものだといえるでしょうか。いわば、組織階層を縦横に動くことにより
個人の能力と組織の求める能力の最適化を図ろうとする思想であり、
視点は同列というか、相互に必要とするという並列的視点であることが特徴と言えます。

この両者に共通するのは、企業は組織で動いているというまぎれもない事実。
そして、もうひとついえることは、会社という組織の凝集力が弱まっていく風潮の中で
相対的に、個別の生き方を職業を通じて表現するという自己実現の思想が重要性をましており、
そうした変化と共に、一方的ではなく双方向的な人事視点を持つことが
不可欠になっている時代にはいったということでしょう。

さらに決定的だと思うのは、個人的な能力のフル稼働を前提とするしか、
将来的な日本のありようは見えてこないということだと思います。
小学生の頃、社会の時間に教わった言葉で今でも忘れられないものの一つに「加工貿易」があります。
日本という国には、人的資源しかないから、外国から原材料を仕入れて、
知恵と工夫でそれを製品へ加工し、世界へ売っていくことで生きていくのだ、と教わりました。
この言葉で、私は日本では人が知恵を出すことが大切な価値であることを知りました。
さらには、人的資源の価値の上昇のためには教育が最優先するということも・・・。

あれから既に40年近く時間が経過しているというのに、
まったく変化していない日本という国の本質なのではないでしょうか。
本テーマに即して言えば、まさに「人材」とは、「人財」であるということなのでしょう。

この人材を生かすための考え方の変化。
この意義を題号に込めたつもりですが、こうしたことを少し考えてみたいと思っています。

はじめに次の言葉を見ていただきましょう。


 @疲労と単調をもたらす課題(単調作業)
 A
自由の喪失(自律的でなく、言われてやっている作業)

 B目的の喪失(崩れるに決まっているのだから役立ち感・意味が欠如)
 C孤独な作業(社会的な隔絶)


これは、神戸大学教授の金井壽宏先生の近著「組織を動かす最強のマネジメント心理学」に書かれていました。
先生の幅広いご活躍は素晴らしいものがあり、いつも勉強させていただいております。

ギリシャ神話であったと思いますが、
プロメテウスがヒトとしてはじめて火を手に入れたとき、それを怒った神が
罰として与えたのが丘の上に石を運びあげるというものでした。
そして、運んだ石を塔に積上げ、完成すると自動的にこわれてしまい、石も元に戻ってしまいます。
これをいつまでも続けよ。
これが神の与えた罰であったということです。

この神話を通じて、金井先生は労働というものの本質を4点に絞って論じています。
いずれも誰しもが、心当たりのあることなのではないでしょうか。
こうした4つの要素があるとき、人は労働することに喜びを見出すことが難しい。

これをどのように克服するのか、たとえば@単調作業、A自由の喪失 などを克服するために
アメリカのハーズバーグなどが考えたのが職務拡大とか職務充実といった方法です。
これらはモチベーション管理の原点といってもいいでしょう。
こうした研究から派生し、いまでは常識のように口にされるようになったものに
マズローの欲求5段解説とその最高位の欲求としての自己実現欲求があります。
このことは以前にも触れましたのでこれ以上述べませんが、
こうした労働の疎外を防ぎ、あくまでも自発能動、内発的発想により仕事を考えること。
これが「キャリア発想」で考えるということなのです。

そして、こうした発想による、広くモチベーション管理も含めて、人事システムを考えること。
このことを「キャリア・マネジメント」と呼ぶのです。
こうした努力を組織的に必要とする環境にあるという認識を持つこと。
同時にそうした意味での組織を構築することが時代の要請であると思います。
                                                 (2002/9/4)