第7回経済学ポイント講義 |
その9:閑話休題 経済学・経済政策の学習は大きく3分野に分かれています。@マクロ経済学、Aミクロ経済学 B経済統計 の3分野です。学説史的に言えば、この3つは、@はAのあとに、そして@はBの発達と共に という流れになっています。これまでマクロ経済学のうち、最もその功績の大であったといわれるケインズ経済学の中核となる財市場と貨幣市場の分析手法についてみてきました。さらに同時均衡分析にもかなりの紙数をさきました。ジョン・メイナード・ケインズがこれらの学説を述べた著作は、1936年刊行の「雇用・利子および貨幣の一般理論」においてであったと言われています。と言いましても、私は原著を読んでいませんので全部聞いた話しです・・・(^^;; このケインズ経済学の理念を象徴する言葉として、大変有名なものに「有効需要」があります。この有効需要を政策的に創出することによって市場の調整を人為的に行うという考え方を提起したのがケインズでした。これは、総需要管理政策という言い方もされますね。 アダム・スミス以来、ミクロ経済学においては完全競争市場と言う理論的市場における調整過程は、フリーハンド(いわゆる神の手です)によって、つまりは価格と生産数量の調整によって適切な均衡水準に収斂することが当たり前のように言われていました。たしかに需給均衡を理論化したワルラスやマーシャルの理論は、それだけをとってもなんともいえないエレガントさを持っているように感じます。 しかしそれでは、1929年の世界恐慌の現実を救済し得ないことに不満を持ったケインズが、極めて実際的な視点に基づき、労働市場での大量の失業の発生は、賃金と労働力という二つの労働市場の変数がフリーハンドによっては解決し得ないこと。もちろん、伝統的経済学を全面否定したものではないのですが、それでも経済学的な意味での短期的な収斂は望み得ないことを現実から学んだことにより理論化していったものだといわれています。このことをケインズは端的に「人は長期的には死んでいる」と叫んだわけです。労働市場が賃金調整と生産数量である雇用量の調整によって均衡水準を保ったとしても、そのことによってたくさんの犠牲者が出る。いや現に大量の失業者が発生しているではないか。この目前の課題に対して何をすべきなのか。 別の言い方をすれば、労働市場における供給過剰を解消するためには需要を創出してやればいいのではないか。それを実際に行ったのがアメリカのトルーマン大統領によるニュディール政策であったことも有名な歴史です。当時のアメリカの失業率は20%半ばであり、今の日本が5%程度で騒いでいるのとは桁が違います。ちょうど先日見たビデオですが、トム・ハンクス主演の「グリーン・マイル」で、時代はちょうど1930年代の映画ですが、ある地方のよくある「ようこそ○○へ」という看板に、「ここには仕事がないぞ!」という文字がありました。まさに時代を象徴する言葉だったのでしょうね。 この現状を打破するために大規模な公共投資と減税を実施すること。こうした手法は平成になった日本でも未だにある程度は有効性を持っているように思います。昨今のIT関連投資は建設土木の世界からの形を変えた公共投資であるといわれますが、いずれにせよ公共の消費を財政政策として実施することにより労働市場における有効需要を創出し、それによってIS曲線を右シフトしようとするものであることは同じでしょう。ついでながら、歴史的な低金利政策の長期化はある意味ではLM曲線の水辺部分が実体経済となっていることともいえるかもしれません。現にそうした論調もしばしば耳にします。第6回のところで書いたように、LM曲線が水平だとIS曲線を公共投資によって右シフトさせても実体経済へのインパクトはほとんど持ちえません。このことが不況を長期化している要因ではないかという論調も読んだことがあります。 こうした理論化にあっては、従来の常識を覆す発想の転換が必要だったのではないでしょうか。それを可能にしたのは、ケインズの経歴からくる極めて実務的な問題意識に秀でていたと言う特性、実際の官僚としての豊富な経験から、政策レベルで実体経済に対するインパクトを持つことの理論的根拠を与えたのでした。もっとも私たちが学んでいる同時均衡分析は、ヒックスが1937年に論文で発表したものですが・・・ そして、このケインズの経済学的功績は、ケインズ以前とケインズ以後でまったくその世界を変えてしまいました。そのことを端的に示すのは、それまでの伝統的経済学の枠組みを古典派と呼ぶその呼び方です。また、自らをケインジアンと呼ぶのも同じことでしょう。 20世紀後半、経済学は「ケインズは死んだ」とか、「しぶとく復活するケインズの亡霊」などと揶揄する言葉も残されていますが、まちがいなく世界の経済成長や実体経済の安定化に対するケインズの功績は絶大なものであると思います。こうしたケインズ経済学の基礎を学ぶことは、経済政策の意味を考えることに直結しているのであり、それはまさに中小企業に対する政策普及による一定の影響力をもちうる中小企業診断士にとっても学ぶことの意義は大変大きいものがあると感じます。学習過程は確かに大変な努力が必要ですが、一度わかればびっくりするほどすっきりと頭の中に流れ込んでくるという経験もしました。ある種の壁を越えるまで頑張っていただくしかありません。 話は変わりますが、マクロ経済学の理論化に貢献しているのが統計手法の発展であると言われています。特に国民所得統計の精緻化は大変な貢献をしました。SNAと呼ばれる国連による統計処理の共通ルール化は特に大切であると言われます。学習としてはそこまで必要かとは思いますが・・・。それより産業連関分析の基礎的事項はしっかりと学習することが大事ですね。また実際にコンサルティングの現場では統計資料を活用することはしばしばですから、商業統計や工業統計、また労働関連の統計資料についての簡単な意義と内容を把握しておくことは大事ではないでしょうか。 マクロ統計で思い出しましたが、ケインズ型の消費関数をマクロ的に統計によって実体経済を観察した学者にクズネッツがいます。このひとは、平均消費性向が長期的には0.9になっているということを統計的に確認したことで大変有名です。すなわち平均貯蓄性向は0.1ですね。これは日本人の貯蓄性向を考えるとやや低い数値のように感じますがどうでしょうか。 もうひとつ実体経済から学んだ理論として統計的な手法によるものにフィリップス曲線があります。詳細は略しますが、労働市場が試験の出題対象となりにくい傾向の中で、唯一大変よく出題されていますので注意する必要があります。 もう一点、別の話しですが、投資理論ではケインズ型の限界投資効率の理論を学習することが多いのですが、まったく違った投資理論として著名なものにトービンのものがあります。「トービンのQ」と呼ばれる数値の比較により、株式市場における投資効率を高めるための判断指標を理論化したものですが、これも大変有名でもあり、またこのトービン教授が本年お亡くなりになったということもありますから、ひょっとして出題される可能性が在るかもしれませんので、抜かりなく学習しておきましょう。 話しがあちらこちらに飛びましたが、経済学は全科目の点数合計1000点の中では1割の100点分でしかないことも事実です。しかも1次試験はマークシート方式の結果、一律一定の水準以上の回答者は全て合格させることが必要です。昨年の5割をこえる合格率から見てもそのことは明らかですね。したがって、6割をキープするか、足切りを抜けるための4割確保の戦略をとるのか、いずれにしろたくさんの学習領域の中でのごく一部のものでしかないことを忘れず頑張っていきましょう。 ちょうど今、GWの真っ只中です。戦いはこれからですよ。 結局勝負は、これまでではなく、ここからの3ヶ月で決まります。 諦めている場合ではありません。 とにかく、戦略的な戦い方で、勝負をもぎ取ってくださいね。 |