やる気を考える 労務管理講座 Vol.2

モラール・サーベイってなんですか・・・

 これまで人事評価制度を改訂することを目的としたコンサルティングを行ってきました。こうしたときに最初に実施するのが経営トップの皆さんへのヒアリングです。今回の講座の目的である従業員のやる気を考えるという面から言えば、当然それだけでは不足ですから従業員の皆さんへの個別ヒアリングも実施します。ただ、組織全体へこれを行うには時間的な制約もあるため、全体の傾向をつかむためにアンケート調査を実施することも多いのです。これが標題の「モラール・サーベイ」、言い換えると「やる気調査」です。
 この調査では、次のような点を明確にすることが目的となっています。
  ・労働条件に対する満足度
  ・職場環境に関する満足度(特に人間関係の観点を中心として)
  ・経営機能としての管理システムについての満足度
  ・自我的欲求に関する満足度
 通常、こうした観点の設問を50〜80問程度準備し、どの観点かわからないような配慮をした上で調査しますが、こうしたアンケート方式を補完するためにヒアリングも大切なステップということになります。

 昨年、私自身で実施した兵庫県のある機器メーカーでは、こうした調査を会社が実施したのは創立以来40年近い歴史の中でも始めてでした。従業員の皆さんは、最初はどきどきしながら我々の前においでになりますが、10分程度お話ししているとかなり打ち解けてくださいました。そこから本当の質問が始まるのですが、詳細は省くとしてここで申し上げたいことは、経営者の、または経営管理層の持つ管理能力に対する不安感を率直に述べられる方が非常に多かったということです。こうした生の声は、必ず直接的に経営者の皆さんへぶつけることにしています。もちろん大変つらいことですが、これは絶対に避けてはいけないと思っています。なぜなら、事業体の結果責任は100%経営側にあるからです。と言っては言いすぎでしょうか・・・。

   


自我的欲求とのつながり

 もう一つ大切なことがあります。それは先に述べた自我的欲求についてです。
 ちょっとわかりにくい言葉ですが、私自身は「ヒトが自分なりの方法によって、自分という個の確立を求めて行う行動や、行動への欲求」と理解しています。
   「この会社は永年勉めても、安心して働けると思いますか。」
   「職場では、自分の能力や工夫を生かす余地がありますか。」
   「今の仕事は、あなたが精一杯力を発揮できる仕事だと思いますか。」
   「会社の方針や指示が皆に徹底していると思いますか。」
   「自分の仕事に張り合いを感じる事が出来ますか。」
   「昇進・昇格は公平に行われていると思いますか。」
といった設問により、自分の地位や役割に対する満足感や安定感、公平感などを問います。

 これらの設問の解答はもちろんいろいろなわけですが、事業所特有の傾向がうかがえることも多く、同様の調査結果を他社と比べる時、その特徴は比較的明瞭になります。
 そして大切なポイントは、こうした自我的欲求の満足度は、先に述べた経営機能への評価の程度と不思議に連動しているという事実です。つまり、経営理念や経営目標を直接的に従業員と共有している事業所ほど、こうした自我的欲求については満足度が高いのです。そしてこの反対が問題となるわけです。
 さて、もう何を申し上げたいのかお分かりいただけるでしょう。結局、従業員のやる気を問うのは、裏を返せば経営側が従業員と経営理念を共有しようとしているのかどうか、その根本姿勢を問うことであるということです。

コミットメントしてますか?

 今、何かと話題になることが多い企業の一つに日産自動車があります。社長のカルロス・ゴーンさんが最近、改革の経緯を出版されていますから、お読みになった方も多いと思います。この本の中で私が感銘を受けたのは「コミットメント」という言葉でした。
 英語の commitment は、辞書によるとのっぴきならない約束・公約、委任・委託とあります。動詞のcommit の方は、ゆだねる、(法律上・道徳上)縛り付ける、言質を与えて動きの取れないようにする、といった意味があるようです。ここでは、「自分にとって必要な仕事を自分として必ずやり遂げること、またそうしたいと強く願うこと」とでも理解しておいていただければと思います。このコミットメントを強く求め続けたことが日産自動車のリバイバルプランであったということでしょうか。
 この時大切なのは、あくまで自分の判断がべースにあるかどうかです。目的を共有すること、同じ方向を見ていること。さらに重要なことはその目的達成に対し、一定の自由度で裁量できる権限を与えられていること。この二つの点が両方とも揃っているとき、始めて人はコミットメントできるのではないでしょうか。

 もちろん手法が大事だというのはそのとおりです。しかし、それ以上に大事なことは人間の資質を根底から開花させるのは、結局は、内発的な動機に基づく努力なのです。鍵となるのは、いかにして内発性を引き出すのか。この一点に全力投球しなければ人は育ちませんし、また組織も変わらないのではないでしょうか。
 危機に瀕したときの人間の対応には二つのパターンがあるといわれています。一つは危機の重さから逃げてしまうか、向かっていくかです。厳しいのは中間はないということです。あまり適切な表現でないかもしれませんが、「火事場の馬鹿力」ということもあります。進むか引くか。この選択の決定はどのような心理的メカニズムで決まるのか。この点も行動科学の中での大変重要な研究課題であると思いますが、これはまたどこかで触れることにしましょう。
 いずれにせよ、現状を本当に危機であると認識できた時、そしてその状況を打開するために「君の力がどうしても必要だ」と直接トップから使命を託された時、「全てを投げうってでも頑張らなくては・・・」と思わない人がいるでしょうか。まさにぎりぎりの選択で、コミットメントしたヒトは本当に強い。これこそ「究極のやる気」と言えるでしょう。
 そうです。「従業員のやる気」とは、すなわち「経営者のやる気」そのものなのです。経営者が、そう認識しないと始まらないのです。「ウチのやつはほんとにやる気があるのか!」などと嘆いているより、そう思って一度ご自分の部下のやる気のことを真剣に考えてみませんか…。

 2002/4/10