東海オフ会、ずぶぬれの自生地探査と楽園への逃避行

稲穂徳人

今回、私は普段参加している浜田山「食虫植物の部屋」ではなく、赤塚氏を中心とするTCPSの自生地見学会&私の憧れの地であった伊勢菖蒲園に参加した。前日に赤塚氏と名古屋駅で待ち合わせ、赤塚氏と園芸店や自生地を回った。もう、これだけでも満足なのだが、東海の底力はこんなモンではなかったのだ。
マクドナルドで簡単な朝食を済ませ、まずは犬山市の方に向かう。その前に、TCPSのメンバーと合流する。まずは、ユニクロの前で加古君という高校生の男の子を乗せる。赤塚氏の話では、ネぺンテスに関してはメンバー中最年少ながら一番詳しいとの事。それもその筈で、ネぺンテスのベテラン栽培家である中川泰秀氏の直弟子で、しかも彼の通う高校の先生でもあるそうだ。早速、あいさつもそこそこにドロセラとウトリキュラリアの種子を戴いてしまった。
別の場所で、碓氷夫妻と梶浦氏、その後にE・木村氏と合流する。碓氷氏と木村氏は私の「ホームガーデン通信」を読んで下さっており、碓氷氏は以前、「会社から帰ってきたら女房が先に最新号を読んでしまった」なんてお手紙を下さった事もある。赤塚氏の車に私と加古君、梶浦氏が乗り込み、木村氏は稚氷夫妻の車に登場していざ出発。しかし、途中で運が悪い事に雨が降ってきた。見る見る間に雨は強くなってくる。伊賀上野のインターで途中休憩。今度は梶浦氏と木村氏が交替する。木村氏の名刺は、P.Weserをあしらったもので、私のSethosのシールプリントを張りつけたものとペアになってしまった。でも、最近はコモウセンゴケ、コモウセンゴケと騒いでばかりいるので、そろそろ張り替えなければならないか?
昼過ぎに自生地の手前まで到着。しかし、雨は止まない。仕方なく私は、不法投棄されたゴミの山から発泡ステロールの魚の箱と蓋を拾い、箱の方を頭に被って蓋でカメラバッグを庇い、山道を歩く。「怪しい集団!」と碓氷氏の奥様に言われてしまう。雨はまったく止む気配を見せない。おまけに地面はぬかるみ、靴がずぶずぶ入っていきそうになったかと思うと途端に足を取られる。全員、慣れない山道に悪戦苦闘するが、赤塚氏は平然と敷を掻き分けながら先頭を切って突き進んでいく。既に、クールな食虫植物愛好家の顔ではなく、自生地を開拓する探検家モードに入っているが、何故かみんな「赤塚さんは自生地に来ると野人だから・・・・・」と咳く。しかし、さすがの野人も雨と暫く来ていなかったせいもあって目的地が見付からない。少しだけ、モウセンゴケの生えている地を見つけたが全然小さくて、「こんなものではない。そこは踏む程ある」と力説する。我々は黙って来た道を引き返す。だんだん、遭難コントのようになってきた。赤塚氏の記憶以上に草が生い茂り、道そのものが分からなくなっていたのだ。しかし、20分程も歩いて漸く開けた場所に出た。確かに、モウセンゴケはちょこちょこ見えるが・・・・・!!!!突然、私の頭はスパークした。なんと、開けた野原のそこここが鮮やかな黄緑色に染まっている。雨で霞んでいるせいもあって、ぼんやりとしか見えなかったのだが、その黄緑色の模様のように見えるのがすべてイシモチソウだったのだ!!!「よかったよぉー、もう自生地がなくなっちゃったのかと思って心配してたんだけど、あったよ」と漸く赤塚氏の顔に笑顔が戻る。また、その脇の泥湿地にはモウセンゴケとミミカキグサが点在しており、いずれも花茎を沢山上げている。私は、泥の中にしゃがみこんで、濡れるのも構わずカメラを取り出してシャッターを切る。こんな雨の中でシャッターを切るのはいささか無謀といえるが、ここで写真を撮らねば来た意味がない。ここのは、各務原タイプよりは葉柄が短く、普通のモウセンゴケだ。
行きの大変さに較べると、帰りは楽なものだ。もう濡れるだけ濡れてしまい、靴もズボンもぐずぐずなので、少々体が冷えて寒い事を除けば後はそんなに大した事はない。そして、今回の最終目的地である伊勢菖蒲園に向かう。ここは本来花菖蒲の生産をしている業者だが、サラセニアやドロセラ、ハエトリソウなども作っている。総数は10万本ともいわれ、現在開発中の南総食虫植物園でさえもその数ではかなわない。まさしく国内最大級のサラセニアのストック量を誇る、桁外れの世界なのだ。赤塚氏などは、最初の内は「稲穂さん、大丈夫ですか?新幹線の切符、明日に変更して貰わなくて」とか、「正気を保ってられますか?」等と言っていたが、実は一番興奮していたのは当の赤塚氏だったように私には見える。赤塚氏は、当初はサラセニアは余り栽培しておらず、私が勧めても「いや―、場所を食うから」と敬遠していたのだが、この膨大な数のサラセニアを見て一番最初に理性の回路がショートしたのは、多分赤塚氏だろう。私は、自分でもかなりの数を栽培しているし、少なくとも数百の単位のサラセニアは驚かない。しかし、赤塚氏はサラセニアに対する免疫がない。またも野人モードに突入してサラセニアの林の中を駆けずり回つていた(あ、誤解がないように言っておくが、私はこの時点で既に壊れていた)。ここのサラセニアは殆どがレウコフイラ系の交配種で、筒がやや太めで背が高く、ピンク色っぱくなるタイプだ。艶姿や江戸自慢に近い感じがする。アルバタイプの自っぽいものや、逆に網目模様が赤いものなどは極めて少ない。出たばかりで白っぽいものもなくはないが、多分日が経つと赤っぽくなってしまうだろう。その中で、筒の上部2/3がワインレッドに染まるタイプのものを見つけた。こういう感じの交配種といえば紅という艶姿の血統のものがあるが、はつきり言ってあんなものではない。赤というより限りなく黒に近い、血液が回まったような色をしている。迷わず鉢を手に取り「連れて帰る」と宣言。誰も欲しいという人はいないので、私はそのままぶら下げていく。 ハウスの中で、赤塚氏がイトバモウセンゴケを見つけた。いわゆる青イトバモウセンゴケのタイプだが、やたらとがっちりしたものだ。みんな、不思議がって集まってくる。多分、種子がサラセエアの実生のトレーの中にこぼれて発芽し、肥料か何かが入っていて条件が良かったので、これだけよく生育したのだろう。
もう一つの栽培場は完全に覆いなどのない露天栽培で、実生サイズから70センチくらいまでの特大サイズまで、それこそ無数にあるといってもいいくらい沢山のサラセニアがある。そこで、私達はS.purpureaの気に入ったものを選んでいった。そんな中、加古君は私の見つけた例のワインレッドのサラセニアを拾ってきた。何故かpurpureaがくっついている。種子がこぼれて、そのまま生育させるせいか2〜3種類のサラセニアやらハエトリソウやらD.intermediaがついているものも少なくない。Spurpureaは2〜8種類が混生していたり、極端にそれだけ大きいのがあったりして実に選びがいがある。また、交雑しているのかleucophylla系の交配種の血が表れているようなものもあり、何とも面白い。私は、一際大きくて赤みの強いpurpurea(もしかして、交雑しているかもしれない)を選んだ。碓氷夫妻は、私が抜いてきたアルバ系の交配種を気に入って下さり、お買い上げになったようだ。 最初の所に戻ってきて、またも物色を始める。私は、写真を撮っていたが突然シャッ夕ートラブル。雨の中、酷使してきたのがいけなかったのか、暫くうんともすんとも言わなくなり、かなり写真を撮る時間を潰してしまった。もう一つのカメラで撮れば良かったのだが、私がパニくっていたのと、もう一台の方はマクロレンズをセットしてあったのだがサラセニアには不向きだったのでそれもままならなかった。それにしたってレンズは幾らでも交換出来るのだが、かなりの湿気を帯びている中で迂闊にレンズを交換して、2台目もおかしくなったら泣くに泣けない。暫くしてカメラの調子が戻ったので、残っているフィルムをひたすら消費する。flavaのタイプを色々と比較撮影し、木村氏にどう違うの?と質問を受けたので、私の分かる範囲で説明する。allgreen,coppertop,heavilyvein,redthroat,そしてそっくりさんのoreophllaと、flavaとの交配種らしき中間型のものにcoppertopとredthroatの両方の特徴を持つrugelii。それと、一株だけだがredtubeも見つける事が出来た。私は、その系統を持っているので赤塚氏に勧めたが、赤塚氏はcoppertopの方を買われたので、私がすかさず戴いてしまう。flavaのような背の高くなるサラセニアは持って帰るのが大変で、せっかく伸びている葉を切るのも何なので、高生種はなるべく控えておいた。もし、この日に帰らなくてもいいのならflavaの良系統はごろごろあるので、手当たり次第に買いまくって宅急便で送ってしまうという荒技が使える。しかし、これから新幹線で帰らねばならないのだ!それでなくても、前日に買った植物もあるので、これ以上買い込む事は出来ない。かなり控えめに買ったつもりでも、前日の分と合わせたら赤塚氏に貰った特大の袋が2つになってしまった。何だかんだ言って、私が一番買い込んだようだが、赤塚氏もそれなりに買っていた。D.intermedlaの大型系やイトバモウセンゴケまで買っているではないか。人には、「サラセニアの鉢に一杯ついてんだから買う必要ないじゃない」とか言っておいて、自分はちゃっかり買っている。よほどいい株でも見つけたのだろうか。イトバモウセンゴケの方はどうもアオイトバの系統らしく、これは確かにいいものを見つけたようだ。しかし、実は売り物ではなかったらしく、売場のお姉さんが値段を聞きにいっていた。加古君は、80センチくらいはある見事なleucophvlla系の株を見つけてきた。彼は本当にいい目をしている。purpureaは、私が車の中でくだらぬ講釈をほざいたおかげで、殆ど全員買い込んでいた。私のレクチャーとは全然関係なく、みんな見事な株を抜いてきていた。私も、3株ほどかなり大きめなものを見つけてきた。purpureaとflavaだけ見ても数タイプあり、選ぶのには事欠かない。梶浦氏は、立派なminorとハエトリソウ付きのflavaを買っていかれた。今回、伊勢菖蒲園の下調べをして下さった木村氏は、場所がないからとpurpureaを一鉢だけ。赤塚氏はしきりに「さすがは理性の人」等と言っていた。

短い食虫植物の旅は、ずぶぬれのままあっけなく終わってしまった。一般展示は6月いっぱいとの事なので、来年はまだ雨の少ない時期を選んで、もっとゆっくり見学したい。降りしきる冷たい6月の雨の中、私は津駅に降りた。最後は、皆さん雨の中を車を降りて全員で見送って下さった。私は、皆さんが手を振って下さっているのを背に、足早に改札に向かう。もう一度来よう、この素晴らしい人達と再び楽しい旅をする為に。時間に急き立てられる事を呪いたいが、それもまた待っている次の楽しみへの区切りなのだ。食虫植物がある限り、そしてそれをこよなく愛する人々がいる限り、私の飽くなき旅は続くのだから。
最後に今回の2日間の旅でお世話になった方々、TCPSの加古君、木村氏、梶浦氏、碓氷夫妻、福住園芸とせせらぎ園芸、伊勢菖蒲園のスタッフの皆さん、そして今回の私の旅のサポートを全面的に快諾して下さった赤塚氏と、突然の来訪者を温かく遇して下さった赤塚家の皆さん。すべての方々に心からお礼を申し上げたい。今回の私の旅は、皆さんなくしては実現しなかったのですから。そして、何時までも今回訪れた自生地が健全である事とを、心から祈りたい。