フィールドワークから見る日本産ドロセラについて

稲穂徳人

最近、今までは私自身が想像も出来なかったことなのですが、様々な食虫植物の自生地を見る機会に意まれ、特にドロセラ類に関しては尾瀬と北海道にのみ分布するDangllcaとrotundiforiaとの交雑種であるObovata、そしてindicaを除くすべての品種の自生を見ることが出来ました。そこで目のあたりにして分かった事、それは「栽培下では考えられない程良く出来ている」という驚きに尽きました。無論、芳しくない環境で疎らにしか生えていないところも見ましたので、自生地がすべて最高の状態であるとは極論出来ないのですが、地元の栽培家や自生に詳しい方の案内で連れていって貰ったところは、環境問題が取り沙汰され、既にまともな自生地などないだろうと思っていた私を打ちのめすものでした。思わず、「ここは何処だ―!」と喚き散らしてしまうくらい、そこは私達の思い描く自生地をリアルに残していたのです。いわば、理想的な状態のまま、周辺も含めて放っておかれた手付かずの環境であるとしか言い様がありません。そんなわけで、今回は私が自分の日で見た自生地の環境についてお話したいと思います。なお、場所に関しては伏せさせて頂きますので念のため。

●モウセンゴケ(D.rotundiforia)

泥湿地、それも常に水があるところに多く、しかもその水に動きがあり(ガンガン流れるような所ではなく、湿り気の加減が幾分変わる程度)の所に生えています。また、食虫植物というと切っても切り離せない水ゴケですが、確かに水ゴケが近くに生えていることは多々ありますが、必ずしも混生はしておらず、むしろ水ゴケのコロニーとモウセンゴケのコロニーはまったく別個といってもいいでしょう。したがって、生水ゴケ植えは理想的とは言えず、かえってモウセンゴケの方が生水ゴケの成長に追い付かないというのが実際の所です。ただし、栽培下では生水ゴケ植えが一番無難なようです。また、自生地では素晴らしいワインレッドの個体があり、中には捕虫葉まで赤いオールレッドのような個体もありますが、これはcapenslsに見られる赤色個体とは趣が異なり、上壌pHや日照、それに 水が常にあることから反射光の関係もあるでしょう。栽培下でこれを実現するには完全なミニ自生地を作り、ほば終日の日照を与えなければ無理かも知れません。ただし、少々の日陰でも栽培が出来ます。以前見た栽培方法で、大きなお盆に泥を張り、雨ざらしで水がややびたびたしている状態でモウセンゴケをうまく作っているものを見ましたが、よほど在宅でまめに管理出来ないとすぐに雨でオーバーフローしてしまい、ものにならないでしょう。もっとも、その方の栽培環境は殆ど自生地に家が建っているような所でしたが。

●コモウセンゴケ・トウカイエンシス

なぜか、平地に生えているものは私は見たことがありません。砂泥、もしくは赤土の急傾斜のところで、近辺に水が多少出ているような南向きの所に点在しています。モウセンゴケほどではないものの泥質のところが多く、湿り気の度合いからすれば比較的モウセンゴケの好む加減よりやや乾いている程度がよく、イネ科植物などが混生していない割に開けたところがいいようです。上壌の湿潤というよりも近くに水が流れていて、その湿った風が常に吹き付けているような環境が理想的といえるでしょう。モウセンゴケと混生した場所の場合、常に湿り気があるところにモウセンゴケが生え、やや乾いた斜面にコモウセンゴケやトウカイエンシス、更に乾いた他の植物が生い茂るところにインモチソウが生えているといった、完全な棲み分けの傾向を見る事が出来ました.

●イシモチソウ

これは割と高台の、いわば土壌湿度というより夜間の霧が影響しているのでは?という場所に見られるようです。実際、地面を掘ってみると前日に雨が降っているにもかかわらず指ではとても掘れないような地質で、軟弱な泥質の所には生えていません。理想的にはお茶の栽培が盛んな土地などはちょうどこれらの繁殖にもうってつけなのですが、著しい乾燥と農薬の散布でかなリダメージを被っているようです。球根よりも種子で増殖しているようなので、砂利質よりも赤玉土などの方が栽培に関してはいいと思われます。

一応、これらのものを実生から一人前にし、次世代の個体を育てられるようになれば栽培家としても一人前、といわれますが、実際栽培してみると一年は持っても、翌年は不成績だったりとなかなか思い通りには行きません。ドロセラは初心者向きといいますが、突き詰めていくと最大の品種数を抱える大所帯なので、その果れる程の奥の深さに思わずながらもはまってしまいます。「ドロセラはもうせん」なんて、駄酒落を言ってる場合ではありませんぞよ!