Pinguicula immaculataの栽培について

松本通範

メキシコ産ムシトリスミレ中、最小と目される本種は、このグループの中でももっとも栽り難い難物としても有名です。比較的最近ヨーロッパから増殖苗を輸入できるようになりましたが、サイズの割に高価なので、筆者を含めたごく一部のいかれポンチのみがコレクションに加えるという現状となっています。しかし、草姿が面白く、花も相当変わっていて、この仲間内の異端児であることは間違いありません。 原記載論文に因れば、自生地はメキシコNuevo Leon州Galeana町、Rayones町あたりで、標高1260〜2180m当たりの石膏成の岩山にAgaveやHechtiaなどとともに自生するということで、自生の様子を写真で見ると、剥き出しの岩肌の凹みにめり込むような感じで生えています。 そこで栽培ですが、拙宅では、アルカリ性土壌にするために細かく刻んだミズゴケ:ビーナスライト;カキ殼:寒水砂:粉砕した石灰岩を4:4:2:2:1:1ほどの割に混ぜたものを用土として用いてます。鉢は洋蘭用の素焼き鉢を使い、底に軽石を半分程の高さに入れ、その上に用土を入れます。その際、用土の通気性を高めるために少量の軽石を混入します。ウォータースペース(鉢上縁と用土表面の間の何も無い空間)は1.5cmほどと少し深めに取ります。

植物はまばらに植え、その間にもさらに大粒の軽石や石灰岩を置いて、めり込んでいる感じにしています。 水遣りは毎日夕方〜夜、ハイポネックスまたはヨーゲンの1万倍溶液を霧吹きで沢山与えます。腰水にはしません。 置き場所は屋外の風通しのよいところで、春と秋は午前中半日、夏は早朝1時間ほど陽の当たるところにおきますが、冬は屋内に取り込み。蛍光灯下で多湿(特に空中湿度)に管理しています。本種は高い空中湿度を好むようで、(ウォータースペースを多く取るのもこのためで、その部分に高湿度の空気がよどむ)拙宅では、冬芽の際、まるでアナナスのように株の葉腋に水を溜めておくという変わった様子が見られます。冬芽に水を沢山貯えると腐るというのがこの類の常ですが、この種はそれらに自ら反することをしているのです。(水を株にかけなくても、空中からの水分を取り込んで吐き出しているようです)
花は1〜2月頃から上がり始めます。その際、株中心に溜まった水中から蕾を上げてくる様はまるでUtriculariaのようです。 夏のロゼットは最大で直径2cm、6〜8枚の葉から、冬芽は10から15枚ほどの肉厚な葉からなり、多毛でやや地中に潜るような感じで最大1.2cmほどですが、径5〜6mm程の冬芽でも花を立ち上げます。
また、増殖は葉挿しによります。発芽率は比較的高く、当方では90%以上です。ここで問題なのは「葉挿しには冬芽になる前の夏葉を用いて10から11月頃行う」ことです。確かに冬芽からですと、多くの葉が取れますが、得られる苗が小さく、成長に時間が取られます。しかし、大きな夏葉からですと大型の良苗が得られます。当方では10月に葉挿しした苗が、わずか4ヶ月後の2月に花茎を立ち上げた例があり、メキシカンの中では異例の成長速度と言えましょう。
栽培の際の注意点としては、高温、低湿度、乾燥、過湿に弱いことがあげられると思います。とくに夏暑がるので注意したいものです。低温にも割と弱いようで、10℃程に保つのが無難(当方では冬、最高気温20℃、最低気温12度で管理)です。用土も程よい湿度を保つべきで、特に夏乾きすぎるとすぐに萎びてしまいます。陽光を好む本種ですが、他の生育条件とうまく折り合いをつけて栽培に挑みたいものです。

参考・引用文献 Zamudio.S. & Lux,A 1992 Una nueva especie gypsicola de Pinguicula(Lentibulariaceae) de Nuevo Leon.Acta Bot Mex.20:39-44