Nepenthes栽培ノート(U)
越川幸雄
寒い寒い今年の冬もやっと暖かくなってきました。現在私のところの120uの展示ハウスでは、50.000kcal/hrの暖房機の運転時間が一晩当たり4〜5時間になりました。最も寒い時期は12〜14時間だったときもありましたので、この暖房機は精一杯だったわけです。
冬のNepenthes管理の最大の問題点は温度ではなく、湿度です。寒くヒーターがパワーを出すほど湿度が下がっては困ります。この展示ハウスは今冬初めての運転なので、どのような加湿方法にしようかと試行錯誤のうちに、冬が始まりました。
最初は高井戸の自宅でも使っていた、回転式の加湿機で、これは一晩に10リットルの能力がありますが、これではまったく焼け石に水で、この10倍の能力が必要なことがわかりました。湿度を上げるには、加湿も必要ですが、それ以上に湿度を外に逃がさない様に空気の出入りを遮断することが大切です。ハウスの外側をすっぽりとサニーコートで包んだところ、低湿度は相当改善されました。次に、手を加えたのは、棚下に潅水ホースを設置し、棚下を常時水で濡らしてみました。棚板はもともと波板で出来ていて、この上にベラボンを敷いてその上にエクスバンドメタルの網を乗せて鉢を並べてます。棚上はいつも湿っているのですが、これで棚下も給水出来ることになります。ついでに棚下に通っていた温風ダクトの終端を閉じて、ダクトに1列に上向きに小穴をあけて、棚板に温風が当たるようにしました。ここまでやってやっと60%台まで湿度を上げることが出来ました。しかし、まだ充分ではありません。昼間は40%台まで下がっても大した問題はありません。夜間の湿度を80%以上にしたいのです。そこで、高井戸の自宅でも成功していたマイクロスプリンクラーを天井一面に配置してタイマーで雨を降らせることにしました。マイクロスプリンクラーは半径1mくらいの有効範囲がありますので、大体2m間隔で設置します。天井一面に水道管を張り巡らせて60uあたり12ケのスプリンクラーを取り付けます。これで夕方、夜半、朝と一晩に3回15分宛タイマーで雨を降らせます。この方法でとりあえず80%台の湿度を何とか確保できることになりました。
しかし、この方法には問題があります。湿度を上げようとしてシャワーの回数や時間を長くすると、鉢の中に水が入りすぎてしまい、根が過湿になってしまうことです。高圧ミストでやれば、少ない水量で効果をあげられるのですが、10kg/cm以上の配管を天井一面に張り巡らせるには一寸勇気が要ります。(コストも高くつきます) そこで、次の方法を思いつきました。
温風配管のダクトの中に水を吹き込んで蒸発した水分をダクトで全室に送る方法です。これは非常に有効で、水は幾分無駄にはなりますが、一晩100リットルくらいの水をダクトに送り込んで80%から90%の湿度を得ることが出来ました。
さて、こうして湿度が充分とれるようになるといろんなことがわかってきます。第一に湿度を高くすると最低温度が低くても害 が出ないことがわかりました。現在、私のところではコントローラーの設定メモリは15度です。これで立ち上がり時の遅れがありますので最低温度は14度ぐらいになります。これでまったく問題がなく、葉や袋が小さくなることもありません。ただ、生育のスピードが夏の約2/3くらいになるように思います。ついでに今年の冬は停電や故障で2回ほど夜間に暖房が止まり、一度は7度、次には5度迄温度が下がりましたが、まったく害は見られませんでした。これも高湿度の成果と思っています。
高湿度がコンスタントに保てるようになると、今まで袋を着け渋っていた植物たちがいっせいに袋をつけてきます。なんと一度に6個の袋をつけた株もありました。このように一度に沢山の袋が膨らみ始めると、袋は必ずしも下の葉から順に膨らむものではなく、下のほうの袋は上のほうのものに追い越されて、あとから膨らんできます。最も大きい袋になるのは、正当な順番のもので、追い越されたものはやはり、小型の袋になります。高湿度になると袋も大型になり、現在N.Mastersiana、N.truncata N.Dyerianaなどの大型種はどれも袋本体(蓋は除く)の長さで30cmを超えています。
当然のことながら、このくらいの湿度にならないとD.capensisがうまく出来ません。昔初めて温室を持ったとき、今まで小型のガラスフレームでよく出来ていたD.capensisがうまく出来なかったことを思いましました。80%以上の湿度を保てば、D.capensisの粘液が乾くことなく成育し、これを指標にすることが出来ます。
湿度の測定は、このくらいの高湿度では乾湿球式の湿度計では測定できません。デジタル湿度計が今のところ一番簡単でたよりになります。ただ、経年変化と寿命にやや問題があります。
一日中Nepenthesと向き合って暮らしていると、いろんなことがわかって来るような気がします。
第一になぜNepenthesにはあんなに沢山オ種類があるのでしょう。答えはわかっています。それは虫の種類が沢山あるからです。虫の種類の違いでNepenthesの袋の好みが違うとしか考え様がありません。
原産地に行って各種のNepenthesの袋の中の虫の調査をすれば、この結論は出ると思います。虫が沢山取れると優位性がなければ、あんなに色々なNepenthesが進化するはずがないと思うのですがいかがでしょうか?
次の問題は袋のウイング(翼)のことです。これは何のためにあるのでしょう。単なる飾りとはどうしても思えません。眺めているうちに結論に達しました。これは地上に着いた袋の中に、地上を這って来る虫の為のハシゴなのです。ですからN.maximaの様に下位袋には翼があって、上位袋には翼がなくなるのでしょう。これはN.rafflesianaでもN.alataでも同じ傾向があります。
次にあの袋のマダラ模様は何のためにあるのでしょう。これも結論が出ました。この模様は地面に袋がついているときの地面の色に溶け込むカムフラージュでしょう。そして上位袋は模様が抜けて、葉に対するカムフラーシュになるのです。