
第47冊
以前『宇宙96%の謎』の書評で、「宇宙誕生からの進化が実証的に説明できる段階まで人類の認識が発展していることに驚きと感動をおぼえます」と書きました。今回紹介するこの本では、このような認識にいたる過程が述べられています。
宇宙論の歴史をたどる書物の多くは、新しい知見が、天才的な科学者の洞察によっていきなり獲得されたかのような書き方をしている。しかし、現実に起きたことは、それほど単純ではない。基礎理論の未熟さや観測データの不足が原因で、天才的な科学者といえども、すぐには正当な洞察に到達できなかった。それでも、なんとか前に進もうと苦闘を続けた結果、ようやく宇宙の全貌を捉えられるようになったのである。
こうした科学研究の実態を幾分なりとも伝えるために、本人はあまり広言してほしくないだろうミスも含めて、できるだけ原論文に忠実な形で紹介するようにつとめた。一般向けの書物では、話の筋道が見えにくくなることもあって、オリジナルな学説ではなく、のちの科学者が修正をほどこしたものを解説している場合が多い。だが、自己修正しながら発展するのが科学の本質だとすれば、優秀な科学者たちが犯した誤りを知ることも、科学の理解を深める上で役にたつはずである。(12p)
いくつかの誤りのなかで印象に残ったのは、ビッグバン理論で有名なガモフについての叙述です。
ここまでまじめに読んできた読者には申し訳ないことだが、実はガモフの理論は大部分が間違っていた。
後続の研究者が元素合成に関して詳細な計算を行ったところ、宇宙が始まった直後では、せいぜいヘリウムまでの軽い元素が作れるだけで、重い元素は合成できないことが明らかになったのである。……さらに「元素合成が始まるときに存在していたのは中性子だけだ」というアイレム仮説も正しくない。……このほか近似のしかたの誤りや単純な計算ミスなど、ガモフの論文には、間違いが山のようにある。
にもかかわらず、彼が天才的な先駆者であるという評価が揺るがない。多くの研究者が、一般相対論の動的な解を“始まりの瞬間”にまで外挿することをためらっていた時期に、開闢直後の宇宙の状態を数式で表し、具体的な核反応を考案してみせたのである。科学に対する全幅の信頼にもとづいて、人間の知性がおよばないと思われた領域に大胆に踏み込んでいくチャレンジ精神のすばらしさに比べたら、元素合成の説明が的を射ていなかったことなど、ささやかな誤りでしかない。(93p)
私が日本共産党の青年学生部の担当になってから約7年半になります。その関係で学生相手に学習会の講師をすることがよくあるのですが、年々「間違ったことを言うのは恥ずかしい」という気風が強くなっていると感じます。結論にいたる過程をていねいに教えない詰め込み教育、自己肯定感が持ちづらい競争教育の弊害だと思います。
最近は、学習会のはじめに「科学は、誤りを修正しながら発展してきた。間違ったことを言ったとしても、いろいろ議論することによって全体の認識を発展させるきっかけになりうる」という意味のことを話すようにしています。そうするといくらか安心して質問や意見を言ってくれます。
学生たちに、この本を紹介して
科学とは、あまたの誤りを犯しながら、それに対する自己修正を積み重ねていく学問である。こうしたプロセスがあるからこそ、科学は信頼するに値するのだ(11p)
ということを実感してもらいたいと思っています。
(2007年4月25日記)