花田仁の“この一冊”

第53冊

「北朝鮮の脅威」と集団的自衛権

梅田正己

高文研

「北朝鮮の脅威」で、日本の安全が危機的状況にあるかのような発言・報道が、しばしばなされています。六カ国協議が再開して、危機は明らかに解消へ向かっているにもかかわらずです。著者も以下のように指摘しています。

この国の安全保障環境の現状について、一国の総理大臣が「格段の厳しさを増している」と言明し、また最大の発行部数をもつ新聞の社説が「戦後最悪の状況にある」と言い切る。そしてこの危機的状況をもたらしている第一の要因は、どちらも「北朝鮮の核開発による脅威」だと言っている。

本当にそうなのだろうか。

……

この1月のベルリン会議を受けて、2月、北京で再開された六カ国協議はこれまでとは打って変わってスムーズに進展し、同月13日、合意文書「初期段階の措置」を採択した。この合意文書を読めば、これがこの半世紀にわたり朝鮮半島に重苦しくのしかかっていた歴史的な“宿題”を解決へ導く文書であることが、だれにでもわかるはずだ。

今年(07年)5月の段階で“朝鮮半島の危機”は明らかに解消へ向かっている。

(3P 安倍発言は07年5月18日朝日夕刊報道、読売社説は5月3日)

06年の北朝鮮の7月のミサイル発射と10月9日の核実験のころを思い出してみてください。報道は、さらに過激で、マスメディアは、「いつ戦争の火ぶたが、切られるのか」というような報道をしていました。(22、23P)

その時期、アメリカのブッシュ大統領は、どういう行動をとったでしょうか。

10月9日の後……最初に行動を起こしたのはブッシュ大統領だ。北朝鮮が核実験を発表した9日、ブッシュ大統領は韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領に電話を入れ、「抑制した態度で落ち着いて対応する」と伝えた。また同日の中国・胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席との電話会談でも、「われわれは外交チャンネルを通じて解決できると考えており、今後の中国と緊密に話し合ってやっていきたい」と言明したという。すぐにいきりたって制裁行動に出るのでなく、外交交渉で事態に対処したいと、米国大統領がまっさきに態度表明をしたのだ。

(14P15P)

その後六カ国協議再開の合意に達する10月31日までの間に、中国、北朝鮮、韓国、ロシアの外交官はお互いの国を行き来して外交による解決の方針を確認しあっていたと著者は指摘しています。ところが、そういう報道は、ほとんどされていませんでした。

こうして、世界を震撼させた、とくに日本に対しては今にも核ミサイルが飛んでくるかもしれないような大騒動をもたらした「北朝鮮の核危機」も、関係各国の冷静かつ賢明な対処によって回避され、さらに抜本的な解決へと向かって再び歩みだしたのである。

なお、以上に紹介したような、危機に直面してからの首脳が先頭に立っての関係各国の動きは、その行動の機敏さと合意形成への熱意において歴史的にも特記される出来事だったと私には思えるが、この国のマスメディアではその重要さに注意をはらった報道はほとんどなかった。ここでの私の紹介も、多くが『しんぶん赤旗』によっている。

(19、20P)

やはり、国際情勢を正確にみるには「しんぶん赤旗」は欠かせないとあらためて思いました。マスメディアの批判の後、著者はつぎのことを指摘しています。

こうしてテレビはあたかも“戦争前夜”の騒ぎを呈し、さまざまな人が登場してさまざまな発言をしたが、そこではふしぎなことに、当然発せられるべき最も重要な問いが欠落していた。

――北朝鮮はそれを強行すれば必ず世界中から非難を浴びるのがわかっていながら、なんでミサイルを発射し、核実験に踏み切ったのか、という問いである。

……

その“正解”とも思える答えを、ミサイル発射後、私が新聞ではじめて見たのは、安倍官房長官(現首相〔執筆当時〕)の発言を伝えた記事だった。ミサイル発射の翌6日、東京都内で講演した安倍氏は、北朝鮮の意図についてこう語ったという(朝日新聞06・7・7)

「米国との直接対話を求めているという考え方が常識的だ」

……

しかし、これ以後はそうした見解をぴたりと封印し、安倍官房長官は北朝鮮制裁へと走り出して、四日後の10日の記者会見では相手のミサイル基地を先回りしてたたく「敵基地攻撃」の検討の必要まで持ち出す。「米国との直接対話を求めてのミサイル発射」が、数日で「日本をおびやかすミサイル発射」にすりかえられたのである。

(22〜25P)

「北朝鮮の脅威」で日本の安全保障が「格段の厳しさを増している」という事実はないことは、安倍氏は百も承知なのです。

著者は、なぜ北朝鮮がアメリカとの直接対話を求めているのか、憲法9条改悪勢力が「北朝鮮の脅威」を利用して何を行っているのかについても詳しく述べています。

北朝鮮問題について、冷静に、かつ詳細に述べられている本は、あまりみません。次回紹介予定の『平和のために人権を 人道犯罪に挑んだ国連の60年』(松竹伸幸 文理閣)とともに、おすすめの本です。

(2007年9月16日記)
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