
北朝鮮による日本人拉致問題、北朝鮮国内における人権抑圧について、日本はどう立ち向かうべきなのかについて、これまで人道犯罪について国際社会がどう取り組んできたか、実際に効果を発揮したのはどういう場合だったのかを振り返りながら考えるというのが、この本の内容です。
南アフリカのアパルトヘイト問題、チリの軍事独裁政権による人権侵害問題では、国連は様々な決議を出し、南アフリカには経済制裁も行いました。この問題による国連の取り組みの意義について著者は、人権侵害をやめさせた人民のたたかいを励ますことにあったと著者は指摘しています。(87、94、95P)
また1990年代の人道と人権をかかげた武力制裁について、一部の局面を除いて成功しなかったことを指摘しています。(156P〜167P)
その教訓から著書は、次のように指摘しています。
現実に大規模で組織的な人権侵害がおこなわれているとき、それに目をふさぐのでなく、阻止するために全力をあげることは当然である。……
問題は、どんな手段をとるのであれ、その手段によって何を達成するのか、目的を明確にしておくことである。達成すべき中心目的は何かというと、人権抑圧とたたかい、それを阻止しようとする北朝鮮の人々を勇気づけ、その団結を促進することにほかならない。国連人権活動の60年が物語るのは、人権侵害をやめさせられるかどうかは、究極的には、それを批判し、中止を迫る国民の力の発展にかかっているということである。南アもチリもそうであった。……
……経済制裁を呼びかける場合も、抑圧された人々がそれを望んでいるのだと、自信をもって言い切れるものとすべきである。南アへの経済制裁は、国連社会はもとより、南アの人びとこそが熱望したのである。
……脱北者を保護するのは当然である。一方、脱北までしようとする人びとは、潜在的に国内で民主化のたたかいを組織するだけの意思、能力をもっている。脱北をあおることで政権打倒につなげようという考えの人びとも存在するが、それは逆効果となる場合もあることを自覚しなければならない。
北朝鮮の人びとを勇気づけ、団結を促進させようというと、そんなのんきなことはできない、すぐにでも政権を打倒すべきだという主張も聞くことがある。しかし、たとえ現政権が外部からの力で打倒されたとしても、国民のなかに人権を大切にしよう、そのためにたたかおうという勢力がほとんどいないままでは、新しい政権が現在と異なる政策を実施するようになることはあり得ない。人権を守る力は、やはりその国の国民の到達にかかっているのである。
(208〜210P)
「すぐにでも政権を打倒すべき」などの主張は、歴史的事実をまともに検証していない観念的な主張ではないでしょうか。
日本政府は、北朝鮮の人権問題を重視し、国連人権委員会における決議を提案していますが、採択されたものの賛成と反対・棄権はほぼ同数だといいます。また日本政府による拉致問題による訴えも、残念ながら中国や韓国の政府、人々の心をつかむにはいたっていません。
なぜでしょうか。どうすれば多くの国から支持をえられるでしょうか。
……日本は、これまで人権問題に熱心ではなかった。南アのアパルトヘイト問題では経済制裁に熱心でない国として、つねに国連で問題にされた。チリのピノチェト軍事独裁政権をいち早く承認し、世界から批判されたこともある。天安門事件を起こした中国に対し、少なくない国々が経済制裁のために動いたとき、制裁回避を訴えて世界を説得したのが日本である。そういう国が、北朝鮮の人権問題だけは熱心になっても、ほんとうに人権を大切にしているとは思われない。
いまさら、過去の「実績」は取り消せない。しかし、少なくとも、日本自身にかかわる問題には、誠実に向き合わねばならない。日本の侵略、植民地支配における人権侵害である。これは、国連人権委員会で取りあげられてきたように、過去の問題だとはみなされていない。ところが日本政府は、一貫して「解決済み」という立場を主張し、ひんしゅくを買ってきた。人権問題に熱心でない国という評判は、日本政府自身がつくりだしたものである。
いまからでも遅くはない。従軍慰安婦その他の戦後保障の問題に真剣に取り組み、日本はどの国の、どの時代の、どういう人権問題でもまじめな国だと思われるようにならなければならない。そういう国の訴えは、アジア諸国を動かし、世界を動かし、北朝鮮問題の解決にも大きな力になっていくであろう。
(211P)
ここで引用した以外にも、北朝鮮の人権問題に日本は何をなすべきであり、何ができるのか、著者はいくつかの提言を行っています。
昨年の北朝鮮の核実験という事態のもと、日本が発動した北朝鮮への制裁措置を来年4月まで延長する閣議決定が、11月2日衆院本会議で賛成多数で承認されました。北朝鮮の核問題では、六カ国協議が進み、10月の六カ国協議では、北朝鮮は年末までに核施設の無能力化と核計画の完全申告を柱とする措置を行うことを合意しています。日本独自の制裁措置を継続する合理的な理由はなくなっているのです。それなのに制裁措置を継続することは、日本政府が核問題の解決で積極的な役割を果たすうえでの障害になりかねません。
拉致問題と核問題の関係では日本共産党の志位委員長は代表質問において「いま進行しているプロセスで核問題の道理ある解決がはかられるならば、拉致問題の早期解決の新しい条件が開かれることになるでしょう」と述べました。
拉致問題の早期解決のうえでも、六カ国協議の合意にそくして核問題の解決のための積極的な役割を発揮することが日本政府に求められているのではないでしょうか。
(2007年11月13日記)