
高い経済成長の裏で、格差の拡大やエネルギーや水を大量に消費する粗放型成長、環境問題など、中国は大きな問題をかかえています。この本を読むと中国政府指導部は、自分たちの問題の解決のため、本腰を入れて取り組もうとしていることがわかります。
第11次5ヵ年計画(2005年から2010年)について著者は以下のように述べています。
従来のような数値目標の羅列は減少し、指標体系そのものも「所期性」の指標と「拘束性」の指標に二分された。前者は、市場メカニズムを通じて達成が期待されるものであり、後者は政府に達成義務が存在するものである。
拘束性指標として分類されたものとしては……
- 持続的な経済成長を可能にするため、人口・資源・エネルギー・環境という成長制約要因を緩和するための指標:総人口、エネルギー・水の節約、汚染物質排出減、森林カバー率
- 食料安全保障の観点からの指標:耕地目標
- 国民生活水準を向上させ、社会の安定を維持するための指標:都市基本年金カバー人数、新型農村共同医療カバー率
……
計画期間中にGDP単位当たりエネルギー消費量を20%前後低減させ、主要汚染物の排出総量を10%減らす。
5ヵ年計画に省エネ・環境保全の目標が定められたのは、初めてのことである。それだけ成長に伴う資源・エネルギーの浪費・環境破壊が深刻ということである
(369P〜372P)
ケ小平が1992年に「南巡講和」を行った際、彼は「一部の人々や地域が先に豊かになる」(先富)を許容するとともに、「先に豊かになった人々や地域がそのほかの人々や地域を先導し、手助けをして、共に豊かになる」(共同富裕)という手順を考えていた。そして20世紀末に小康水準に達したとき格差問題を解決すればいいとしていたのである。しかし、上海に政治的基盤を持つ江沢民指導部は「先富」を21世紀になっても推進し、2003年のSARS流行により農村の後進性が明白になるまで、党は共同富裕に本格的に政策を転換することができなかった。
要綱では「所得分配制度の改革を加速し、個人所得分配の秩序を規範化し、分配結果に対する監督管理を強化し、業種・地域・社会構成員間の所得分配格差が拡大する傾向の緩和に努める」とする。そして就学・就業・分配過程の社会公平を重視し、低所得者の所得向上・中所得者の拡大・高所得者の有効な調節を行うほか、独占業種の所得の規制、個人所得の健全な申告制の確立、個人所得税の徴収管理の強化を挙げている。また各種社会保障制度のカバー範囲の拡大を盛り込んでいる。
更に、財政改革では中央と省クラスの財政移転制度の完備を打ち出しており、胡―温指導部は共同富裕の実現に向け、所得再分配を本格化する姿勢を示している。
(375P)
著者は、かつて北京の日本大使館に勤務しており、党中央・政府が発表した経済関係の決定や統計を拾い上げ、その示唆する内容を分析し、外務省本省に報告する仕事をしていたそうです。こうした作業を11年間行った成果が、この本です。中国経済やアジア経済については、いろいろ読んでいますが、これほど丹念に中国の経済政策の変遷を分析した本は初めて読みました。
別のアジア経済についての本を読んでいたら、今回紹介した本を読んだ私の感想とほとんど同じ趣旨の文章が、ありました。
中国の将来について悲観論を強調する専門家が多くいる。しかし、これらの専門家が指摘するよりも中国自身ははるかに自分の問題を正確に理解し、乗り越えるための努力をしている。日本にとっては、彼らの将来を冷ややかに悲観することではなく、彼らの今の努力が成功することをどう支援できるのかを議論することが大切であろう。なぜなら、中国経済が持続的に発展することは、日本のみならず、アジアの広い地域の経済に大きな恩恵をもたらすからである。
(『2010年のアジア』 野村総合研究所 東洋経済新報社 20P)
中国経済について書かれた本というと、「規制緩和すれば、問題は解決する」という立場か、悲観論の強調という一面的な叙述のものがかなりあります。しかし、上に紹介したような中国政府の立場をリアルにとらえた本も少なからずあります。
そうした本を今後も紹介していきたいと思います。
(2007年11月27日記)