「ヘッジファンドって何ですか」「サブプライム問題とは何ですか」と学生などから聞かれたときに用語の説明をしてわかってもらうのに時間がかかります。少ない資金で多額の投機を行うこと(レバレッジ)の仕組み、債権の証券化について説明するのは、大変苦労します。
この本の著者は、銀行系の運用関連業務にたずさわっているそうです。それだけに「サブプライム問題とは何か」そして今回紹介する本で、著者は、サブプライム問題とその後の金融危機の実態についてわかりやすく述べています。今回紹介する本でいえば、モノライン(証券に対して利息支払いや元本保証する)保険会社の破綻問題、金融技術の一つである優先劣後構造の説明などは大変参考になりました。
これまで金融の世界の歴史では、業界の誰かが破綻した場合、業界内で救済に必要な資金を集め資金注入し、金融業界全体の信用秩序を維持してきたと著者はいいます(実際は業界内で集めた救済資金だけではなく、かなりの公的資金が投入されていますが)。
しかし、今回この方式は機能しませんでした。なぜでしょうか?
02年以降の超金融緩和の環境のなか、ほとんどの銀行はリスク管理上許される最大限のレバレッジをかけて、さまざまな投融資活動を行ってきた。さらには、自己資本規制をすり抜けながら、利益を「嵩上げ」する金融手法を多用して証券化商品などに投資してきた。いわゆる銀行の帳簿にのらない簿外の投資活動が増加していった。投資に伴う資産を銀行に帳簿から切り離す「オフバランス化」を大々的に進展させた「レバレッジ」経営をしていたのだ。
しかし、そのような経営を極限にまで推し進めていたときに住宅バブルと証券化バブルが崩壊した。そしてSIVとよばれる投資用特別目的会社を使ってレバレッジをかけていた証券化商品投資が破綻すると同時に、ほぼ全銀行が、被った損失を埋めるための新たな資本を必要としたのだ。どこの銀行にも、他の金融機関に差し出す余裕がないのは当然である。裏を返せば、それほどまでに全金融機関がリスクをとっていたのだ。
結局、資金的に余裕のある者は、先進国の外にしかいなかった。それがにわかに脚光を浴びているアジア・中東の国富ファンドである。
(77・78P)
一部の金融機関が投機に走って巨額の損失をだしたのではなく、欧米の金融業界全体が投機にどっぷり浸かっていたために世界経済にたいし大混乱を招いたのです。金融機関が行う投機に対して規制を強化することが、いま切実に求められているのではないでしょうか。
銀行系の運用関連業務にたずさわっている著者は、その必要性ついて明確に述べていません。しかし、著者自身が述べているように「全金融業界がリスクをとっていた」、つまり全金融業界が投機に走っていたために世界経済が大混乱したという認識にたてば、投機に対する規制強化が当然求められるべきと私は思います。
参考になることが多い本なのですが、私には賛成出来ない主張があります。著者は、最後の章で以下のように述べています。
「多くの国民は会社を経営して付加価値、利益を生み出すというリスク・テイク族ではなく、利益を生み出す人や会社にぶら下がっているブラサガリ族である」(211)
「大企業が儲けすぎだの批判は、国内から多く上がっている。しかし、今後の日本で、国内唯一のリスクテイカーである企業が存続できないのなら、ブラサガリ族(多くの給与所得者)である家計はそもそも存在できなくなるのだ。
……企業の利益率が世界レベルに近づくまでは、給与の引き上げを要求することは不可能である。もし、給与を引き上げて利益率が低下するなら、その企業は競争力を失い、市場から撤退を余儀なくされるからだ」(213)
「多くの国民は、利益を生み出す人や会社にぶら下がっている」人たちだといいますが、企業活動を実際に担っているのは、「多くの給与所得者」です。
労働条件を引き上げれば、「企業は競争力を失い、市場から撤退を余儀なくされる」といいますが、労働条件を引き上げてこそ、伸び悩んでいる国内消費が上昇して景気がよくなります。使い捨て労働のもとで、異常な低賃金と無権利に苦しみ知識や技能を身につけることができずにいる若者の労働条件を改善してこそ、団塊の世代の退職により継承が危ぶまれている仕事の技能を、若い世代に継承し発展させることができます。
派遣問題を扱った日本共産党の志位和夫委員長の国会質問が、大きな反響をよんでいます。この質問で、志位委員長は下記のように指摘しました。
「ここに2007年11月、ILO本部雇用総局が公表した日本の非正規雇用の拡大についてのリポートを持ってまいりました。次のように述べられています。
「現状見られる低賃金・低保障の非正規雇用の拡大は短期的に日本に競争優位をもたらすが、明らかに長期的には持続可能ではない。国内消費は国内総生産の伸びを抑制する上に、非正規雇用では経済成長の源泉となる人的資本の形成がなされにくい」
つまり非正規雇用を増やすことは、短期的には日本の競争力を強めることになるかもしれない。しかし、長期的には持続可能な発展は望めない。経済と社会を担う人的資本の形成を損なう。若者がその可能性を存分に伸ばして、社会の担い手として成長する条件を奪ってしまう。こういう警告です」
志位委員長は、この質問で違法行為を繰り返しながらなんら反省もない発言を行っているキャノンの会長、日本経団連会長の御手洗氏の参考人招致と労働者派遣法を派遣労働者保護法に抜本的に改正することを要求しました。さらに労働者大企業から家計・国民に経済政策の軸足を転換することを求めました。こういうことこそ、いま求められているのだと思います。
【2008年4月21日記】
