この本の著者は、金融資本の膨張の本質は、ねずみ講だといいます。
ねずみ講において、出資金が殖えるメカニズムは単純で、次に入会した人の出資金が回ってくるだけのことです。つまり新しい人が入ってこないと困るのです。しかし、考えてみると、株式投資もある意味で同じです。ソニー株に投資した人にとっては値上がりすることが重要で、……全ては、買った値段よりも高く売れるかどうかにかかっています。
高く売れるということは、高く買う人がいるわけですが、その人はどうするのでしょうか。当然、また、次の人に売ることになります。……皆がより高い値段で売り続けることができるとすると、それは、ソニー株が、ずっと上昇し続けることを意味します。そのためには、ソニー株をより高い価格で買ってくれる新しい投資家が永続的に流入しないといけません。
しかし、これが永続的に続くことは可能でしょうか?
(6P)
当然、これが続かなくなる瞬間はやってきます。膨張した金融資本が、金融市場に常に再投資され続けるとは限りません。今は高いから、もっと金融資本(株や債券などの金融資本)が安くなってから買えばよい、と考え始めた瞬間に、この継続的な膨張は破綻します。それを一般的には、バブル崩壊と呼びます。一九二九年の大恐慌のときがそうです。皆がまだ資産価格は下がり続けると思ったために、誰も金融資本を買わなくなったのです。
ねずみ講であれば、新しい会員が入ってこなくなり、既存の会員が増えた出資金をそのまま継続投下せずに引き揚げたとき、破綻します。ねずみ講と同様に、バブルも、誰も破綻しないと思っている限り破綻しませんが、多くが破綻を危惧した瞬間に、やはり破綻します。
……この崩壊をもたらしたのは、金融資本の自己増殖願望です……現在のサブプライムショックに現れた世界の金融市場の状況は、金融資本の自己増殖が維持不可能になってきた兆候の一つだと私は考えています。
(15・16P)
私は、経済学部卒ということもあって、経済関係の本はそれなりに読んでいるのですが、バブル崩壊の本質をこれほどわかりやすく説明した文章を知りません。政府は、規制緩和を行い、金融立国をめざすとしていましたが、その本質は、より多くの人をねずみ講に引きずりこむということにほかなりません。
サブプライム問題において、他の本を読んでもわからなかった私の疑問は、「投資もプロが、何故そろいもそろって莫大な損失をかかえたのか」ということでした。これについても、わかりやすく説明しています。
まともな投資家は、バブルをバブルと認識せずに投資することなどあり得ない。バブルとわかっているからこそ投資するのである
(209P)
バブルは最初から最後まで儲かる。最初に証券化を行い、バブルを作った投資家は大きな利益を上げる。しかし、次に買った投資家たちも、より幅広く投資家へ転売することにより、大きな利益をあげた。……しかし、最後の局面で膨らませた投資を回収する前に、バブルは崩壊してしまったのだ。
このときに、最後に証券化商品を売りつけられていたのは、格付けの高い債権に投資する必要がある投資家たちであった。彼らは、たとえば年金資金の運用者や、自分で投資機会を作り出せない金融機関などで、欧州の投資家が中心であった。ヘッジファンドや英米系の投資銀行は、自分たちよりも目端の利かないプロの投資家に売りつけることにより、ある程度の利益を上げていたのである
(212P)
ここまでは、この本を読む前に理解できていました。次の指摘が、私がなるほどと思ったところです。
しかし、このようなしたたかなヘッジファンドも、その多くが、バブル崩壊で大きな損失を出した。なぜ、プロ中のプロであるヘッジファンドが、バブル崩壊から逃げ切れなかったのだろうか。バブルとわかっていて投資し、逃げようともしなかったのはなぜだろうか。
それは、プロであればこそ、ぎりぎりまでバブルに乗らなくてはいけなかったからだ。ライバルである他のプロがバブルに乗っているときに、自分だけ降りてしまえば、利益が減り、ライバルに負けてしまう。プロとして、出資者からの資金獲得競争に勝つためには、バブルの間だけのことであっても、ライバルよりも多くの利益を上げなければならないのである。
(212・213P)
プロの運用者であれば、このバブルに乗らないわけにはいかない。なぜなら、資本家から金融資本の運用を委託されている以上、他の運用者がバブルで儲けているのに、自分が乗らなければ、資本家は資金を引き揚げて、他のファンドに移してしまうからである。運用者にとっては、投資先のバブルが崩壊しようが、資金が引き揚げられようが、自分のファンドがなくなってしまうことに変わりはない。(232P)
バブル崩壊の危険性がわかっているのに逃げられないのです。こうしたことを最近の実際の事例にそって、説明しているだけに、極めて説得力があります。
自己増殖を止めない金融資本が実体経済を破壊し、金融資本自身をも破滅させる資本主義を、著者は、キャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)と呼んでいます。
世界中の金融資本は、世界市場全体で、ともかくリスクがあれば何にでも投資した。……短期的には、投入量が増えれば増えるほど、これらの資産価格が上昇したから、増殖はとどまるところを知らないように見えた。世界中でリスク資産の価格が異常に高騰した。株式、債券だけでなく、不動産はもちろん、原油も金も穀物も異常に高騰したのだ。そこでは、本来、実体経済の発展を支える存在であった金融資本が自己増殖し、この金融資本の自己増殖のために、実体経済を利用するという主客逆転の現象が起きていた。
しかし、一旦、自己増殖メカニズムが崩壊すれば、金融市場は未曾有の大混乱となることは明らかだった。実際、金融資本にとっては小さな存在であった実体経済が躓けば、その景気変動が異常に増幅されて、金融市場に大きな衝撃としてフィードバックされることとなる。……それが実現したのが、サブプライムショックであり、リスクテイクバブル崩壊であった。
二一世紀においては、キャンサーキャピタリズムが形を変え、品を変え、次々と発症するだろう。その発症がわかっていても、それは社会的に制御できるものでなく、金融資本が自己増殖を続ける限り、それは止まらないであろう。
(240・241P)
投機による原油や食料の異常な高騰は、社会的立場の弱い人ほど大変な被害を与えました。発症がわかっていても制御できない社会ならば、発症を制御できる社会に変えていかねば、人類の未来はありません。
規制が緩和されないから市場調節機能が働かないのではないのでなく、市場調節機能を働らかさせるためには規制強化が必要ではないか、規制強化にとどまらず今の社会システムそのものを変えていく必要があるのではないか、この本を読んで、そのことを再認識しました。
【2008年10月31日記】
