天文学や宇宙論についての理論・観測については、新書などでもかなりの本が出ています。しかし天文コンピューターシミュレーションについてかかれた本は、あまりないように思います。
私も宇宙学・天文学について、それほど読んでいるわけでないので自信がないのですが、研究者向け以外の本では、重力計算専門ボードGRAPE開発に関わって少し触れられている程度ではないかと思います。
最近出版されたばかり(09年8月)のこの本では、天文コンピューターシミュレーション研究が果たしている役割、研究の到達点について、わかりやすく書かれています。
天文学や宇宙論の研究では、コンピューターシミュレーションがとても有効な研究手段である。科学の他の分野の場合と比べてもとくに重要な役割を果たしており、不可欠であるとすらいってよい。その理由は、天体や宇宙の構造を実際に実験室でつくってみるのは不可能だという点に尽きる。
多くの自然科学の研究者が、「自分の考えたアイデアにしたがって実験をし、その結果が理論やモデルと一致するときに喜びを感じる」というが、天文学ではそれが原理的にできない。もちろん天文学には天体観測という手段があり、さまざまな望遠鏡や検出器を用いて多くのデータを集め、天体の多様な姿をとらえることはできる。しかしそれらはまだ部分的な情報でしかない。天文学者は複数の部分的な情報を総合してその天体でどのようなことが起こっているのかを探ろうとするわけだが、往々にして天体はそれほど人間に親切なわけではない。興味深い銀河の中心付近を見たくてもいつも星や塵におおわれているし、また遠くの銀河を見たいといくら願っても、特別な波長の微弱な電波でしかとらえられなかったりする。もっとくわしく知りたいというわれわれの欲求につねに応えてくれるわけではないのだ。また、数億年にもおよぶ時間進化を見るなど、原理的に不可能なことも多い。
そこで、コンピューターを使った「数値実験」が重要な研究手法となる。私のような理論研究者が、ある理論モデルにのっとって「数値実験」をおこない、その結果を観測結果と突き合わせてその理論の正しさを確かめたり、逆に整合しない部分をはっきりさせたりする。こうしてその理論モデルがどこまで正しく、さらにどのような観測が必要なのかが明らかになり、さらなる理解への道筋が示されるのだ
17P
このように述べたうえで、観測結果とコンピューターシミュレーションとの比較によって、現在の標準モデルは宇宙の大規模構造の形成を再現することに成功していること(3章)、暗黒物質や暗黒エネルギーの正体は不明だが、いくつかの性質やそのはたらきについては明らかになってきたこと(4章)などを述べています。
最後に著者は、将来のシミュレーション天文学について、以下のように述べています。
現在のように解くべき方程式を専門の研究者が効率のよいアルゴリズムに焼き直してプログラムとして命令を入力するという(よく考えればいかにも手間のかかる)スタイルではなく、解くべき式を入力すればコンピューターのほうで作業してくれるという方向への進歩も期待できる。理論モデルのパラメータを入力するなどではなく、どのような物理的状況かをおおよそ伝えれば、コンピューターがその先の進化を勝手に解いてくれるならこれほどありがたいことはない
149−150P
そんな進歩が起こり、さらに日本共産党綱領がいうように「労働時間の抜本的な短縮」によって「社会のすべての構成員の人間的発達」が保障される社会になったら、多くの人々が天体観測データの解析にかかれるようになり、いまのアマチュア天文観測家が新星の発見に果たしているような大きな役割を発揮できるのではないかと思います。
観測機器の発展は、いまの研究者数では解析できないほどのデータの集積をもたらすのではないかと素人考えで思いますが、いわゆる専門家以外の人々までも解析できるようになったら、はかりしれないほどの科学の発展につながるのではないか、と想像しました。
【2009年10月10日記】
