1889年、1911年、1924年。それぞれに、リーの歴史のみならず、ジーンズの歴史を語る上においても、欠かすことのできないエポック
が刻みこまれた年だ。
1889年、リーの創設者ヘンリー・デヴィッド・リーは、アメリカ大陸の真ん中に位置するカンザスで、食品と生活雑貨の卸商としてH.D.リー・マーカンタイル・カンパニーを創業。その取り扱い品目にダンガリーズやオーバーオールが含まれていたことに、リー
5ポケットジーンズ誕生の萌芽がみてとれる。当時のカンザスでは、ワークウエアは必要不可欠な日用品で、リーは東部から既製品を仕入れ販売していた。しかし、度重なる入荷の遅延に頭を悩ませたH.D.リーは、ワークウエアを製造するために自社工場の設立を決意
。1911年に8オンス・デニム仕様のビブ・オーバーオールやダンガリーズの製造を開始する。ジーンズメーカーとしての船出だ。
カンザスは大平原で育てた牛を集め東部へと出荷する街としての歴史を持ち、キャトル・ドライブの終着点でもあった。その環境下でワークウエアの製造に携わったリーにとって、牧場労働者のための機能を携えたワークウエアを開発するのは、カンザスを本拠地に選んだときから必然だったのかもしれない。
ダンガリーズをベースに開発された、世界初のカウボーイ専用ジーンズが誕生したのは1924年。13オンス右綾デニムを使用した5ポケットジーンズには、リー・カウボーイの名が冠された。
リー・カウボーイの基本に、ダンガリーズと呼ばれたワークウエアがあったこと。ここにリー・カウボーイが誕生と共に、幾多の機能を携えていたことの秘密があった。ダンガリースには、ハンマーなどのツールを吊り下げるループがあったが、馬上での作業を主体とするカウボーイにとっては、危険を伴うこともあるため廃止され、フロントポケットは収納した物を落ちにくくするために、スラッシュタイプから
ゆるやかなデザインに改良された。
また、強度を追求するためのトリプルステッチが残されたことから、リー・カウボーイ独特の表情も生まれてくる。この機能を最重視したプロダクト理念が、以後もリー・カウボーイに新たな機能を付加するための改良を続けさせていくことになる。
例えば、バックポケット端の補強。誕生当初に使われていたリベットが凹凸の少ないリベットであったにもかかわらず、カウボーイが命の次に大切にしたと言い伝えられるサドルを傷付けないようにとの配慮から、スレッドリベットに変更される。スレッドリベットとは「糸のリベット」の意味を持つリーに独特のX字型の縫製仕様のこと。この品質改良のエピソードからも、頑丈であると共に、馬上での動きを軽やかにサポートすることを使命としたリー・カウボーイ独自のアイデンティティを伺い知ることができるだろう。
耐久性を追求したトリプルステッチは、縫製技術の進化に伴い、1930年頃にシーム部分は生地端を開いて縫製するオールシームへと変更される。トリプルステッチ仕様は、サドルバックヨークの部分に残されるが、大戦モデルを前後して、ダブルステッチ仕様へと変遷し、より現在の5ポケットジーンズのスタイルへと近づいていく。
また、リーのワークウエア製造に関する基本理念ともいえるテイラードシルエットの考え方はリー・カウボーイにも踏襲。複数のレングスと多様なウエストサイズが用意され、多様な体型を持つカウボーイ達のニーズに応えた。さらに、デニム生地の縮みを解消したサンフォライズド・デニムの採用も早く、これは世界初のジッパーフライ・ジーンズの開発にも寄与していくことにもなる。
1936年には毛の付いたままのレザーにリー・ロゴの焼き印を施したヘア・オン・ハイド・ラベルを採用。同年には、ロデオ・カウボーイ協会設立の支援も決定。以後トップライダー達を本社に招き、リー・カウボーイが改良すべき点に関する意見に、真摯に耳を傾けていることも特筆したい出来事だ。
これら常に履き心地にこだわり続けると共に、カウボーイという職業に対するプライドをジーンズをキャンパスにして描き続けたプロダクション開発は、リーの5ポケットジーンズが持つ美学のひとつといえるだろう。
リー・カウボーイがリー・ライダースと名称が変更されたのは1944年のこと。それは前述したトリプルステッチがすべてダブルステッチになり、ヘア・オン・ハイド・ラベルも表側仕様のトウィッチラベルに変更されるなど製品の完成度が高まるにつれ、さらなる可能性が見えてきたことに起因すると思われる。事実、リー・カウボーイのファンは中西部のカウボーイのみならず東部諸州の都市生活者をも魅了し始めていたのだ。
リー・カウボーイの名前を冠した大戦モデルにその予兆は現れ、1944年のフラッシャーはリー・ライダース、ボタンの刻印はリー・カウボーイが用いられた過渡期モデルでより明確になる。シルエットはよりレギュラーに近くなり、ワークウエア独特のルーズ感は姿を消す。これは馬上の動きをよりスムーズにするための開発努力が生んだものだが、同時に当時のファッション傾向にもフィットするものともなった。さらに、ドーナツボタンはカバーボタンへと進化し、ジッパーモデルもより普及。現在の最新型5ポケット・ジーンズにはないプリミティブで質実剛健な風合いがありつつも、ヴィンテージ・ジーンズの完成形として揺るぎのない
美しさを持つ50年代のリーライダース。そこには、過去と未来を繋ぐ力が内包されている。